タクシーアプリを提供するS.RIDE(エスライド)は、訪日外国人旅行者向けのホラーツアー「都市伝説タクシー」走行開始に先立ち、10月15日にメディア向け体験取材会を実施した。

訪日外国人旅行者向け企画の背景や「都市伝説タクシー」実施概要、S.RIDEの目指す移動体験のエンターテイメント化に関する今後の展望などが担当者から紹介された。

■タクシーアプリのS.RIDEがホラーに注目したワケ

2024年の訪日外客数が8月までに約2,400万人を突破するなど、活況を呈しているインバウンド需要。一方で観光公害などの課題も顕在化しており、夜間の観光人口を増やすナイトタイムエコノミーの注目も高まっている。 こうした市場環境を背景に、タクシーアプリの「S.RIDE」は空車率が高い夜間のタクシーを「移動するエンタテインメントショー」として活用。夜間の遊休資産と結びつけた新たなナイトタイムエコノミーコンテンツ「都市伝説タクシー」を企画した。

2018年に設立された「S.RIDE」社は都内のタクシー事業者とソニーグループ株式会社のジョイント・ベンチャー。約40名の社員うち9割以上はソニーグループからの出向者が占め、AIや決済の技術などグループの知見を活用した事業を展開している。タクシーアプリ「S.RIDE」は今年8月に累計ダウンロード数が300万を突破した。

タクシー配車アプリとしての価値提供だけでなく、2022年から移動体験事業として、タクシーの車内・車外で移動中の空間と時間を楽しめる付加価値サービスの展開にも注力。都内のタクシー会社と提携し、これまでプロ野球球団とコラボした「ジャイアンツタクシー」や歌舞伎の世界観などを表現した「超歌舞伎タクシー」といったパッケージを提供してきた。※画像はデモ用のイメージ素材で本編とは異なります

10月21日から11月17日までの期間で開催される「都市伝説タクシー」では、エンタメ体験の舞台となるロケーションを夜の街へ拡大。東京駅発着のタクシーに乗車して<ハサミ老婆が現れる公園>など、都内に点在するオリジナルの「都市伝説」スポットをめぐる参加型のホラー観光ツアーとなっている。 「ジャパニーズホラーは世界でも広く知られています。同時に国内ではインバウンド向けのホラーイベントや施策が少ないことも、今回、ホラー体験に着目した背景です」と、S.RIDE社の事業開発部プロジェクトリーダー・松井浩紀氏。

「モビリティによる移動をエンタテインメントショーの舞台として再定義し、街全体をひとつのエンタメ装置として活用するサービスを提案することで、観光課題の解決を目指します」

■ソニーの最先端技術によるホラー演出

「都市伝説タクシー」は東京駅でタクシーに乗車後、車内で架空の都市伝説番組を視聴しつつ、その検証のため2箇所のオリジナルの都市伝説スポットへ向かうというミステリーツアー形式のホラー体験ツアー。

「空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)」「360 Reality Audio」といったソニーの先進技術を搭載したハイヤーを運行し、臨場感あふれる立体映像と立体音響が体験者を恐怖に陥れる。

日本語のほか英語・中国語にも対応する本ツアーの体験時間は60分間。ツアーの中で参加者がタクシーを降車して屋外を散策する場面では、ソニーの音声拡張現実(Sound AR)サービス「Locatone (ロケトーン)」を活用した仕掛けもあり、タクシーの車外でも没入感のあるホラー体験を楽しめる。

本ツアーで運行される特別仕様の車両は計3台。大和自動車交通から提供されたもので、実際の運行も同社のドライバーが担う。「空間再現ディスプレイ」「360 Reality Audio」「Locatone」の3つの技術を組み込んだモビリティサービスは世界初とのことだ。

最先端技術によるホラー演出をふんだんに盛り込むことで、省力化・省人化を実現しており、ドライバーは運転に集中するだけでツアーの運行が可能な点も特徴だという。

「没入型の移動体験を提供するモビリティエンタメサービスはホラージャンル以外にも応用でき、本ツアーを皮切りにさまざまな地域で、次世代のモビリティエンターテイメントを企業・自治体様に対して提供していく予定です。長期的な展望としては将来、完全自動運転タクシーなどにも移植しやすい仕組みで、東京都外のエリアからもすでにお問い合わせをいただいております」(松井氏)

■「早めにお祓いに行きたい」

ソニーの「Locatone」は位置情報に連携して現実世界に仮想世界の音が混ざり合う新感覚の音響体験サービス。スマホアプリを起動して、マップ上にある特定のスポットを訪れると、自動的にその場に応じた音声や音楽が聞こえてくるというもので、モーション機能やARカメラ機能も備えている。

本ツアーのコンテンツ作成やホラー要素のディレクションを担当した株式会社HLC(オバケン)代表の日比健氏は、ホラー演出に「Locatone」を活用する利点を説明した。

「普段、僕らが手掛けているリアルイベントは、どうしても世界観を再現するために多くの人手がかかりますが、『Locatone』によるサウンドホラー的なギミックを使うことで、街に隠された謎解きのようなストーリーも、より簡単に組めるようになります」

古民家を使ったお化け屋敷制作など、没入感のあるホラー体験を軸に全国でイベントなどを実施してきた同社。これまでもGPSを利用した音声ARとモーション機能によるサウンドギミックを使用した街歩きホラーツアーも手がけてきたことから、今回のプロジェクトに携わることになったという。

プレゼン後、「今回、我々のチーム全員が順番に体調不良になって、みんな何かしら水回りのトラブルを抱えたということで、いわくつきのツアーになるかもしれません。日比さんたちは耐性があるのかもしれませんが、僕ら初めてのメンバーは早めにお祓いに行こうと思っています」とも明かした松井氏。

日比氏は「お化け屋敷の仕事をしていると、『実際に幽霊とか出ないんですか?』って聞かれるんですが、ちょこちょこ不思議なことは起きますね」と、平然とした調子で語っていた。