「角ハイボールの日」である10月8日、「サントリーウイスキー『美味品質』の取り組み」に関する説明会が、サントリーホールで開催された。本会にはサントリーの常務執行役員スピリッツ本部長・森本昌紀氏と、ブレンダー室長の明星嘉夫氏が登壇。100年以上にわたり、美味品質を追求してきたサントリーウイスキーの歩みを振り返った。
活況の様相を呈するジャパニーズウイスキー
10月8日の「角ハイボールの日」に合わせて実施された今回の説明会。冒頭、森本氏からは直近の国内のウイスキー市場とサントリーの実績について語られた。
「本年1〜9月の販売実績として、缶を含むウイスキー類の市場対前年で110%、当社対前年では111%となっています(出荷金額ベース)。国内のウイスキー市場は引き続き堅調と見ており、当社は市場全体を牽引することができました。下期も引き続き、多彩なブランドのポートフォリオを活用し、ハイボールを中心とした需要創造、商品価値と品質の向上に取り組んでいきます」
1923年に山崎蒸溜所を建設し、ウイスキーづくりに着手したサントリーは、1968年に世界でも稀な蒸溜施設「パイロットディスティラリー」を設立。1980年代には山崎/白州の蒸溜所の大改修を行い、その後の「山崎」「白州」「響」といった商品群の国際的評価の高まりにつながっている。
昨年の世界的な種類コンペティション「ISC(インターナショナルスピリッツチャレンジ)」では、「山崎25年」が全部門の中から傑出した製品1品のみに授与される「シュプリーム チャンピオン スピリット」を獲得した。
「ジャパニーズウイスキーに対する世界中のお客様からの期待も高まっています。世界5大ウイスキーすべての世界の販売数量のグラフでは、ジャパニーズウイスキー規格を含む国産ウイスキーの数量は10年間で約2倍に成長しました。国内のウイスキー蒸溜所の数は直近10年間で約8倍と、まさに活況を呈しています」
山崎・白州の両蒸溜所では昨年、さらなる品質向上に向けた改修を実施。日本洋酒酒造組合が制定したジャパニーズウイスキーの表示基準が本年4月より施行となり、今年のISCでは「ジャパニーズウイスキー部門」にこの定義が新たに条件として設定された。
「本年度『ISC2024』では「山崎12年」がジャパニーズウイスキー部門の最高賞『トロフィー』の受賞に加え、全部門の中から傑出した1品に授与される『シュプリーム チャンピオン スピリット』を受賞しました。本コンペにエントリーした全商品の頂点、まさにベスト・オブ・ベストの評価を、山崎12年が2003年に金賞を初受賞してから20年、山崎ブランドの発売から40年という節目に得られ、たいへん光栄に思っております」
「サントリーウイスキー角瓶」の支持も世界で拡大中
さらに2024年の同コンペでは、国内No.1ブランド サントリーウイスキー角瓶もジャパニーズブレンデッドウイスキー(ノンエイジ)部門で金賞を受賞している。ハイボールでもお馴染み『角瓶は韓国などアジア各国でも人気を博するブランドだが、その味わいが世界で認められたことは、サントリーウイスキーの歴史にとってエポックメイキングな出来事と森本氏は語った。
「ゴールドメダル受賞製品がすべてプレミアムブランド、1万円以上で販売をされているラグジュアリークラスの商品のなか、実勢価格2,000円以下で販売されている角瓶の受賞は快挙と考えています。
角瓶は本日87歳の誕生日を迎え、来年米寿を迎えます。ジャパニーズウイスキーの定義に合致するウイスキーで、当社は90%以上の高いシェアを頂戴しており、そのなかでも角瓶は約65%を占める主力の製品。その世界的な評価はジャパニーズウイスキーカテゴリ全体にとっても、たいへん意義深いと受け止めています」
サントリー創業者の鳥井信治郎がウイスキーづくりに着手してから約14年後、試行錯誤の末、1937年10月8日に発売された角瓶はサントリーウイスキー初のヒット商品。
サントリーウイスキーの顔として約90年、オンザロックや水割り、近年はハイボールと、時代のニーズに応えるかたちで飲用スタイルを提案し、多くの人々に支持されてきた。
「日本独自の味わいを持つウイスキーとして、スモーキーな香りを抑え、飲みやすさと豊かな味わいを実現した中味。薩摩切子の香水瓶をヒントにした亀甲紋様のボトル。中味・デザインともに日本にこだわった角瓶こそ、サントリーウイスキーとジャパニーズウイスキーの原点です。サントリーウイスキーの中核として、引き続き角瓶を軸に需要の創造と魅力の向上に向けた挑戦を行なっていきます」
ただならぬ"つくり込み"へのこだわり
サントリーウイスキーの具体的な美味品質追求の取り組みについては、ブレンダー室長の明星氏から説明された。
数年から数十年という長い期間、木製の樽の中で熟成させる工程が最大の特徴とするウイスキーづくり。本説明会では同社が最も大切にする高品質で多彩な原酒の"つくり込み"に焦点を当て、工程ごとの事例が紹介された。
「まずは原料・原料加工についてです。外部から調達する原料はスペックや状態などが変動するリスクがあります。そのため、大麦の発芽状況や酵母の状態を細部にわたって確認して、原料品質を管理しています」
仕込み工程ではリッチで華やかなニューポップを得るために清澄麦汁をとり、発酵ではウイスキー酵母とビール酵母の2種類を併用する。
「スコッチウイスキーでは伝統的にこの2つの酵母を併用してきました。効率化などで現在はウイスキー酵母のみを使用する場合も多くなっていますが、当社ではビール酵母の併用を続けております。各酵母を単独で使用する場合よりも、2つの酵母を併用するとウイスキーのボディ感に寄与する硫黄化合物成分が多くなります」
コクがあり力強い味わいを生み出す直火蒸溜を行い、その後の貯蔵の工程では貯蔵環境の管理。自社の樽工場でこだわりの樽材で組み上げた樽を使用し、外部から調達する樽の品質管理も徹底しているという。
「ブレンドの工程では、お客様の飲用シーンを意識して香味の設計を行っています。例えば角瓶はハイボールとして飲まれるケースが多いため、ハイボールとしての美味しさはどうかといった観点でも入念に香味の確認を行います。独自の官能訓練プログラムを実施し、資格認定する制度も設けており、ブレンダー室のチーム全員での官能・議論によって各原酒の美味品質を見極めることでブレンドの精度を上げています」
同社では保有する約160万樽の原酒の品質を評価する原酒の棚卸しも数年おきに実施。製造ロットごとに年間で数十回の配合を見直し、定番製品の安定的な供給と品質の両立に取り組んでいる。
また、サステナブルなものづくりに向けた挑戦として、直火蒸溜と同様にコクがあり力強い味わいを実現できる世界初の水素エネルギーを活用した蒸溜設備などについても紹介。グローバルな取り組みへの意気込みを語った。
「天然水の森活動の経験を生かし、スコットランドでは泥炭地(ピートランド)の復元活動や水源保全活動も推進しています。サントリーは2014年に米国の蒸溜酒メーカー『ビーム』社と経営統合して以来、世界の五大ウイスキーを自社で持つ唯一の日本企業です。当社の知見を世界各国へ展開し、世界のウイスキーの美味品質向上へ努めてまいります」