W societyは、「国際生理の日」に向けたトークイベント「働く女性と健康を考えるトークセッション ~今求められる職場におけるヘルスケアサポートとは~」を、10月15日に港区のはたらく女性スクエアにて開催した。

  • 「働く女性と健康を考えるトークセッション ~今求められる職場におけるヘルスケアサポートとは~」が開催された

イベントでは働く女性たちを悩ませるさまざまな不調や、企業に求められるヘルスケアサポートについて考えるプレゼンテーションのほか、スペシャルゲストとしてパリオリンピックのバレーボール女子で日本代表のキャプテンを務めた古賀紗理那さんが登壇。自身、そしてチームメンバーが抱えていた女性特有の健康課題にどのように向き合ったかを語った。

女性の健康課題の経済損失"年間3.4兆円"

はじめに、主催であるW societyの谷村江美さんより女性特有の健康課題とそれが社会に及ぼす影響について、調査データをもとに説明があった。

  • W societyの谷村江美さん

2024年2月に経済産業省が発表したデータによると、生理(月経)や更年期など、女性特有の健康課題による社会全体の経済損失は年間約3.4兆円。一方で、日本のあらゆる企業がその支援に取り組むと、ポジティブインパクトは最大で年間約1.1兆円になるという。この数字からもわかるように日本経済にとって、女性の健康課題と向き合うことは喫緊の課題とも言えるだろう。

  • 女性特有の健康課題による社会全体の経済損失 出典:経済産業省

では、どのように女性や企業はその健康課題に向き合っているのか、早速みていこう。

アスリートの生理事情を古賀さんが語る

元バレーボール女子日本代表キャプテンの古賀紗理那さんは、はじめにアスリート時代の自身の生理事情について次のように語った。

  • 元バレーボール女子日本代表キャプテンの古賀紗理那さん

「アスリート時代、生理不順がすごくひどかった。高校生までは周期的に来ていたものの、海外遠征が増え、環境や食事の変化によって、生理がこないことが増えていきました」

では、この女性特有の悩みは誰かに相談できていたのだろうか。

「所属チームのトレーナーさんは女性だったので気兼ねなく相談していました。日本代表のトレーナーさんは男性でしたが、信頼関係を築いて、生理など体の不調はしっかり相談。生理前だと、腰が抜けそうになったり、腰の痛みがあったりするので、トレーニングの調整などを意識していました」と、対処法を説明。

  • 女性アスリートならではの健康課題を吐露

また、元日本代表のキャプテンとして、周りの選手の健康課題をどのようにサポートしていたかを問われると、「女性のアスリートは、人によって体の不調が違う。生理痛がひどい選手だと、立てない人もいた。コミュニケーションはもちろん、とにかく人を観察することを意識していました」と、現役時代を振り返った。

続けて、各選手に対してのアプローチ方法について問われると「1人ひとり性格が違うので難しい。素直に聞いてくれる選手ばかりではないので――。プライドが邪魔してあんまり素直に聞き入れられない選手は、切羽詰まったときだけしゃべりかけるようにしていました。人によって伝え方もそうですし、タイミングとかも変えていましたね」と、元キャプテンならではの経験を語った。

そのほか、質疑応答では、生理と試合が重なってしまったときの工夫について次のように話す。

「生理前で腰が痛いからトレーニングをちょっと抑えますとか、いつもよりちょっと軽めの重さにしますとかの調整をします。ほかにも私の場合、通常は練習のあとに自主練をするんですが、それを全くせず、すぐに帰ってご飯を食べて、あったかいお風呂につかってストレッチをして就寝――。先手先手でコンディションを整えることを意識していました」と、アスリートならではの向き合い方を伝えた。

女性の健康課題に企業はどう向き合っている?

続いては、花王のサニタリー事業部 ブランドマネジャー坂田美穂子さん、オルガノンの戦略・コーポレートアフェアーズ部門長 高島あさみさん(高は"はしごだか)も加り、職場におけるヘルスケアサポートについて会話が繰り広げられた。

生理用品ロリエを展開する花王では、ナプキンの備品化プロジェクト「職場のロリエ」を推進。企業にトイレットペーパーと同様、ナプキンを備品化して常備してもらうという活動を2022年から実施し、現在約200社に導入されている。では、社内では、どのような取り組みをしているのだろう。

  • 花王のサニタリー事業部 ブランドマネジャー坂田美穂子さん

「生理用品の製造メーカーなので、生理に対してオープンな職場環境ではあるのですが、それでも会社全体として生理理解は必ずしも十分ではないのかなと。花王では今、管理職になる際、女性の健康課題や生理実態を理解してもらう動画を用意して、イーラーニングで学ぶ機会を設けています。どういう場面で困りごとが発生するのか、ケーススタディを通じて具体的に理解してもらうことを心掛けています。例えば、長時間の会議の間にしっかり休憩時間をとる、空調の温度を気を付けるなどです」(坂田さん)

続いて、女性の健康課題にフォーカスした戦略を中心に据え、経口避妊薬などの医薬品を提供するオルガノンの高島さんは、ダイバーシティにフォーカスをあてた制度や取り組みを紹介。

  • オルガノンの戦略・コーポレートアフェアーズ部門長 高島あさみさん(高は"はしごだか)

同社はジェンダーだけでなく人種や宗教などさまざまなダイバーシティに対応した制度を持っており、その中の一つが女性にフォーカスした制度「Her Day Leave(ハーデイ・リーブ)」である。生理期間中だけでなく、PMSや更年期などの症状でも使えるといい、女性の健康課題に幅広く対応した制度だ。

そのほか、同社では生理の体験イベントを実施。電極パッドを張って生理痛を体験するコンテンツのほか、生理用ナプキン・吸水ショーツ・月経カップなどの展示を行い、生理への理解を深めるきっかけを創出している。

高島さんは、「生理はなかなか女性同士でも職場で持ち出すことがない話題です。なので、あえてそういうきっかけを会社や有志の社員が作ってみる。この機会があることによって(男女ともに)理解が進んでいく」と、理解促進のきっかけの重要性について語った。

花王の坂田さんは「オープンに話せる環境はすてきだと思いますが、生理はオープンにしたくない人もいる。その方々の気持ちも大切にしていきつつ、まずは生理について知ってもらう機会を私たちが提供していければと思います」とした。

最後に古賀さんは、「アスリートは、朝起きたときに体温や、今日生理なのかどうかをスタッフに共有するシステムがあったのでスタッフは理解してくれていた。でも、そういう組織ばかりではないと思います。これからその点が改善され、女性が100パーセントの力が発揮できるような環境を作っていく必要があると思いました。また、女性アスリートもまだまだ環境づくりにおいてできることがあると感じました」と話した。