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50-50の達成、1試合6安打など自己最高の9月を迎え、三冠王にあと一歩まで迫ったロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手。移籍1年目からチームの地区優勝の大きな原動力となった。今回は、大谷選手の「ヒリヒリとした9月」の成績、過去の9~10月との比較、さらに背景となるスイングのデータを対象として分析した。(文:島倉孝之)
9月は前人未到の成績に…
50安打50盗塁の達成に加え1試合で6打数6安打10打点を記録した9月19日(日付は現地時間、以下同じ)のマイアミ・マーリンズ戦、地区優勝を決めた9月25日からのサンディエゴ・パドレス戦と、過去にはない輝きをみせた大谷選手。ここからはその大谷選手の9月の戦いぶりを見ていく。
まず注目したのは、今季の8月までのトレンドとの比較だ。毎月低下を続けていた打率は9月に入り反転し4割近くまでに上昇、長打率も7~8月と比べ1割5分以上の上昇をみせた。
9月は打率、長打率とも月別で最高の数字を記録している。AB/HR(本塁打1本あたりの打数)は10.7と、6月、8月に次ぐ数字になっている。9月のK%(打席数に対する三振の割合)は前月比22.5%と前月比で2ポイント上昇したが、最も高い7月に比べれば低水準である。
9月19日以降の最後の10試合に限れば、打率.628、長打率1.186、AB/HR7.2の数字を残し、K%は8.3%と10%を下回った。
9月の盗塁数は月別では最も多い16で、7月以降増加を続けた。今季最後に盗塁死を記録したのは、7月22日のサンフランシスコ・ジャイアンツ戦にまでさかのぼる。今季の全盗塁のうち73%が7月以降に記録したものだ。
これまで9月は不調だったが…
こうした大谷選手の2024年9月の成績を過去の9~10月と比較すると、本塁打、盗塁、打率、長打率のいずれも過去最高の数字になっている。
ア・リーグMVPを受賞し、かつ故障なく9月を送った2021年でも5割に満たなかった長打率は5年ぶりに6割を超え、7割台後半に達した。盗塁数16は、過去の9~10月の最高値の4倍になる。
スイングの分析からも、9月のスイング内容は月別にみて最高の内容だったといえる。
平均バットスピードとスクエア・アップ率(バットスピードと球速からの理論上の最大打球速度の80%超の打球(スクエア・アップ・スイング)を打てた割合(ここではスイングに対するものを記載)の相関をみると、7月以降平均バットスピードは増加を続けた一方、7~8月に一旦低下したスクエア・アップ率は、9月に入り4~5月の水準を上回る31.9%に伸びた。
一般に負の相関がある2つの指標の両立が意味するものは、9月の素晴らしい数字を生み出した、スピードと確実性を備えたバランスのとれたスイングだ。
そして9月の大谷選手に関して、実は見逃せない以下の驚異的な数字がある。
9月:.577
うち9月15日~9月26日(地区優勝決定日):.706
今年のシーズン全体:.283
この数字は、得点圏打率だ。大谷選手にとって特に今年前半伸び悩んでいた数字である。開幕直後の4月には得点圏で18打数連続無安打に終わったこともあった。
その大谷選手が、9月15日のアトランタ・ブレーブス戦以降、地区優勝を決めた9月26日のパドレス戦まで、得点圏で17打数12安打、打率.706の成績を残した。
この間には、得点圏で5打数5安打だった9月19日のマーリンズ戦、連日勝ち越しタイムリーを放った9月25~26日のパドレス戦を含んでいる。
この間の四球は敬遠を含む2で、凡退に終わった5打数中2打数でも、三塁走者を本塁に返している。9月19日~26日に限れば得点圏で11打数10安打、打率.909の成績だった。9月19日のマーリンズ戦から20日のコロラド・ロッキーズ戦にかけては、得点圏で4打席連続本塁打の離れ業も記録している。
自身初の“ヒリヒリ経験”が最高の結果に
大谷選手の得点圏で目覚ましい成績を挙げた時期は、所属するドジャースにとっても最高のタイミングだった。以下、ナショナルリーグ西地区の9月の上位3チームの貯金の推移に、大谷選手が得点圏で大活躍した時期を重ね合わせた。
9月に入る直前で28あったドジャースの貯金は、先発投手陣の故障者続出も背景に、9月に入って伸び悩んだ。そこでパドレスが9月中旬からじわじわと追い上げ、ドジャースのマジックは一旦消滅した。
そして大谷選手が得点圏で快進撃を見せ、チームを救う打撃を見せたのがまさにこの時期だ。その集大成のような試合が9月下旬のパドレスとの3連戦である。
初戦を落とし、いったん確実視されていた地区優勝すら危ぶまれたドジャースを救ったのが、2本の勝ち越しタイムリーなど、2~3戦目の得点圏での全3打席で安打を記録した大谷選手だった。
大谷選手の9月の得点圏での好成績の理由として、チームが地区優勝を争う環境下でのプレー環境があるはずだ。
ロサンゼルス・エンゼルス在籍時は「ヒリヒリとした9月」に無縁だった同選手にとって、今年9月のプレッシャーは待ち望んでいたものかもしれない。緊迫感が大谷選手の集中力を上げる事例は、2023年のWBCでもみられた。
今年の9月、大谷選手は、最終的に「54-59」を達成し三冠王に迫った数字よりもっと貴重なものを体験できたような気がする。
それは、ヒリヒリとした戦いを体験したうえでチームが優勝し、自らもこれに貢献することだ。これこそがまさに移籍先にドジャースを選んだ最大の理由である。もう1つ大きな財産は、ほとんど故障欠場がなくシーズンを終えることができたことだろう。
その大谷選手の2024年の夢は、まだ終わっていない。これからが本番かもしれない。さあ、ポストシーズンだ。
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【了】