ビザ・ワールドワイド・ジャパンは10月2日、銀行が発行するVisaデビットカードの特徴と、静岡銀行の取り組みを紹介する説明会を開催しました。国内におけるVisaのタッチ決済の利用は店頭だと4割に達していますが、Visaデビットに限ればそれが7割近くになっているとのことで、タッチ決済の普及がデビットカードの拡大に寄与していると言います。
拡大する「デビットカード」
デビットカードは、銀行口座に直結して残高からリアルタイムに決済を行う仕組みです。クレジットカードのブランドネットワークに対応しているため、通常のクレジットカードとほとんど変わらない使い勝手で利用できます。
クレジットカードが毎月の利用額をまとめて支払うのに対し、デビットカードは即時残高からの引き落としになるため、使いすぎの心配がなく(残高以上は支払えない)、即時引き落としなので残高の管理もしやすいといったメリットがあります。
現在、デビットカードを発行している銀行は国内で41行、発行枚数は全体で2,500万枚に到達。順調に右肩上がりに拡大しています。キャッシュレス決済におけるデビットカードの割合も、2017年の1.7%から2023年の2.9%に拡大。金額としては1.1兆円から3.7兆円と3倍以上の成長となりました。
キャッシュレス決済(クレジットカード、デビット、電子マネー、コード決済)の中では、2017年の0から8.6%・10.9兆円に成長したコード決済に次ぐ成長率だと、Visaのコンシューマーソリューションズディレクターである松本直久氏は話します。
海外ではクレジットカードより割合が大きい国もあるほどですが、日本では国際ブランドの対応のデビットカード登場が遅れたことで、これまではあまり広まっていませんでした。
これに対して、2020年頃の新型コロナによる外出自粛によって巣ごもり需要が拡大。ECサイトの利用が拡大したことに伴って、決済に使うクレジットカードのニーズが高まりました。さらにデビットカードはクレジットカードの18歳以上よりも低年齢(多くは15歳以上)で取得できることも手伝って利用が拡大したと松本氏は説明。
さらに2023年頃からクレジットカードのタッチ決済が広まり、利用できる加盟店が拡大。デビットカードは早くからタッチ決済対応カードが発行されていたことで、さらに利用が急増。デビットカードの店頭利用のうち、約7割がタッチ決済になっていたととのことです。
発行する銀行側のメリットは?
利用者にとっては管理しやすさや安心感が高いというメリットがあるデビットカードですが、発行する銀行側にとってのメリットは何でしょうか。
銀行にとって口座残高が常に稼働する状況になるというメリットがあります。例えばこれまで、給料日に口座に現金が入金され、そのまま出金した現金を使っていたユーザーがデビットカードを使うようになると、口座に現金を残したまま、日々の利用で預金残高が変動します。
デビットカードのメリットは即時引き落としによる管理しやすさなので、多くのユーザーは残高を把握するために銀行アプリにアクセスするようになります。実際に銀行によってこうしたユーザーのアプリ利用は拡大しているとのことで、海外では「Everyday Banking」という顧客接点を高める取り組みが推進されているそうです。
例えばソニー銀行ではデビットカードのユーザーのアプリ利用率は、そうでないユーザーの3倍になり、預金残高も1.5~2倍程度違うそうで、アプリの利用拡大が銀行のビジネスにとって好影響があるとしています。
こうしてアプリの利用が増えると、その銀行に対する愛着も増えるため、例えば高校生が地銀に口座を開設し、就職で上京しても継続して口座を使い続けるようになる、といったメリットもあると松本氏。
日本はインバウンドが増えており、特に欧米旅行者は基本的にクレジットカードかデビットカードを保有しています。観光客はこれまでの観光地以外にも訪れるようになっていて、加盟店のさらなる拡大が急務となっています。
そこで地域に強力な地盤を持つ地方銀行がアクワイアリング(加盟店開拓)をすることで、クレジットカード・デビットカード対応店の拡大に加えて、地元経済の活性化に貢献するとことになると松本氏は話しています。
静岡銀行「地域の先頭に立ってキャッシュレス事業を展開すべき」
静岡銀行では、ホールディングス化に伴って中期経営計画として5カ年計画を発表。その中で地域のキャッシュレス化を推進する戦略を打ち出しました。
静岡銀行デジタルチャネル営業部長の大石康太氏によれば、静岡銀行では2022年頃からキャッシュレスの取り組みを検討してきたそうで、その当時、地盤となる静岡のキャッシュレス比率は25%。全国平均が32.5%の頃だったとのこと。全国平均を下回っていることから、「地域の金融機関として先頭に立ってキャッシュレス事業を展開すべき」と考えたといいます。
そこで加盟店開拓に際しては、インフラの構築だけでなく、加盟店に対して静岡銀行に口座を持つ利用者を送客することで売上の増加が期待できるように、静岡銀行側が負担してキャッシュバックを提供。消費を喚起することで地域経済の活性化を目指しました。
そうして23年度から加盟店獲得をスタート。1年目で3,000店舗以上、取扱高43億円に達しました。特にキャッシュレス化が遅れていた伊豆地区では、静岡県と連携して補助金制度によって実質無料で導入できるようにするといった取り組みも実施。
イシュイング(カード発行)事業では、2006年からクレジットカードとして「しずぎんjoyca」を発行しており、会員数は50万人。さらに今年3月から「しずぎんVisaデビットカード」を発行。約半年で2.3万人の会員を獲得しています。さらにJCBブランドのクレジットカードも今年6月から発行し、多様化するニーズに応えているといいます。
送客に向けては、静岡銀行の加盟店でしずぎんVisaデビットカードを利用すると2%をキャッシュバックするという恒久的なキャンペーンを実施。通常は0.25%還元のため、大きな還元となっています。
さらに10月1日からはしずぎんVisaデビットカードの利用で一人最大1000円のキャッシュバックキャンペーンも実施することで、さらなる利用促進、送客を狙います。ちなみにこのキャッシュバックの仕組みはVisaのロイヤリティソリューションを活用しており、静岡銀行側では特別な開発はせずに、簡単にキャッシュバックの設定ができたそうです。
今後は、デビットカードで銀行アプリの利用を増えることが期待できることから、加盟店のクーポンを銀行アプリ上に掲示していくことも検討するそうです。とはいえ、現状は「始めたばかりで、ニーズや加盟店の普及状況を見ながら進めている。大きな収益を見込んでいる状況にはまだなっていない」と大石氏は話しています。
地域のキャッシュレス化のもう1つの課題である法人間のB2B取引でのクレジットカード対応は「出遅れている」と大石氏。これからの課題と認識しているそうです。
Visaデビットの発行銀行はまだ41行と多くはありませんが、主要なメガバンクやネット銀行、北海道銀行や琉球銀行、千葉銀行、北國銀行など、大手地銀や特色ある銀行が参画しており、銀行数を増やすよりもカード発行枚数と利用頻度の拡大が重要だと判断しているそうです。
デビットカードは、クレジットカードに比べて還元が小さく、いわゆる「ポイ活」での利用が少ないこと、さらにリボなどがないため収益面でも低いというのが一般的ですが、口座の動きが活発化してアプリ利用拡大による銀行事業へのメリットがあるというのがVisaのアピール。
ガソリンスタンド、ホテルなど、一部で使えないということが課題とされるデビットカードですが、昨今は使える例も増えています。デビットカードが日本市場でもさらなる市民権を得られるか。今後の各社の取り組みが注目されます。