――プロレスシーンも最終的にほぼ吹き替えなしでキャストご本人が演じられたそうですね。
長与さんたちの指導のもと、できることを少しずつ増やしていって、できる範囲の中でやっていこうと。できない技を取り入れたい時は、吹き替えを使いながらやっていこうと決めていましたが、結果的にほぼほぼみんな自分でやっていました。1年ぐらいかけて撮影し、クランクインした時は新人時代ですが、クランクインしてからもずっとジムや道場に通って練習しているので、半年経つと「こんな技ができるようになりました」って、みんな成長していくんです。話を追うごとに彼女たちのプロレスも高度になっていて、成長している感があると思います。
――成長ぶりに驚かれましたか?
驚きですよ! 「こんなのできるの!?」と。当時の写真と並べた写真がありますが、「同じじゃん」と思いました(笑)
――キャストの方々がプロレスの練習は部活みたいだったとおっしゃっていますね。
レスラー役は10人いて、みんなで道場に通って練習して、本当に部活のようでした。僕が見に行った時も、ゆりやんだけ何かの技ができなくて号泣していて、みんなが「大丈夫だよ!」「できるよ!」「もう1回やってみよう!」って。それでうまくいったらみんなで喜んで、一緒に泣いてあげたりとかしていて、僕が入る隙間ないなって(笑)。特に言うことないので、どうぞそのまま続けてくださいという感じでした。
――練習で培われたチーム感がそのまま映像に。
そうなんです。セコンドの人がサポートする姿なんて、もう芝居じゃなくて、普通に水を渡したり、「タオルいる?」とやってあげたりしているから、あの一体感は何なんだろうと。想像以上にリアルになって、ここまでになるとは想定してなかったですね。10人もいたらギスギスすることもあるのかなと覚悟していたんですけど、本当にそういうこともなくて。だからプロレスのシーンは長与さんと流れとかプランは考えましたが、長与さんと俳優部みんなで作ってくれたものを毎回プレゼントされていたという感じです。
――試合のシーンでは、キャストの方たちにどのような演出をされたのでしょうか。
試合のことに集中しすぎてしまうと、今どうやって見せるのかというところがおろそかになっていくので、一個一個、歌舞伎の見得を切るじゃないですけど、そういうのをポイントポイントで作りたいと話して、長与さんたちと相談しながら作っていきました。殴られて痛がっている顔を少し長めにやってもらったり、負担にならないところで、芝居としてそういう場面を作るようにしました。
――フォークなどで刺されているのも、本当に刺されている感じですし、リアルさに驚かされました。
本当にそう見えるでしょ?(笑)。刺しても痛くないゴム製のものを作ったり、刺した後は血のりを流したり、映画的な手法でやっていますが、当時は本当に血が出るくらい刺していたと思うので、びっくりですよね。
――バイオレンスな作品を多く手掛けられてきた白石監督の経験が生きているわけですよね。
そうですね。そういった手法を使いつつ、これまでとは違うピュアな作品になったと思います。
「これほどの熱量の作品はもう二度とできないと思います」
――ゆりやんさんが演技中に怪我をされ、撮影が中断した時期もあったそうですが、その後、どのように撮影を進められたのでしょうか?
3話まで撮り終わって、編集も進めている中で、すごく手応えもあったし、彼女たちも本気で体を作って挑んでいたので、どのタイミングでどうするのがベストかという話でした。僕もスケジュールが入っていて、再開後にべったり現場に付くことができないというのが一番問題で、彼女たちは鍛えた体をキープしないといけないから、1年も2年も待てない。だから、僕が行ける時は当然行くけど、茂木(克仁)監督と2人で作っていくという提案をしたら、みんな賛成してくれたので、そういう体制で撮影を再開しました。
――中断前後で変えたことがありましたら教えてください。
もちろんケガをしないように細心の注意を払ってやっていましたが、本番になると気合が入りすぎて受け身が深く入ってしまったりするので、そこは冷静にやろうと。そして、回数をできるだけ減らすということも、話し合って決めました。とはいえ、ここまで頑張ってきて、プロレス自体を縮小化して無難なものにしすぎるのもよくないので、何ができて何ができないかということを長与さんたちともう1回整理して、吹き替えにするところは勇気を持って吹き替えにしようという判断もしました。
――80年代の熱狂を見事に再現された本作。監督はどんな人たちにどのように楽しんでもらいたいと考えていますか?
エンタメとして作っているので、誰が見ても面白いと思いますが、何者でもない少女たちがプロレスを手に入れたことによって、松永兄弟の全女や、テレビ局などに反旗を翻していくという、熱く戦っている姿は、衝撃を受けると思います。小学生や中学生にも見てほしいですね。衝撃的なものを見たけど、なんかグッと来たという感じになってほしいなと。「私も何かやりたい!」と、そういう衝動や熱量がある作品だと思うので。
――特に注目してほしいシーンを挙げるとすると?
やはり試合ですね。コスチュームも当時のまんま再現していたり、凝りに凝っているので。そして、彼女たちの頑張り……ここに至るまでどれだけ努力したんだろうと、想像してもらえたらそれだけで胸アツになると思います。僕も未だに見直すと「どうやってこんなことができるようになったんだろう」と思うので。これほどの熱量の作品はもう二度とできないと思います。
1974年12月17日生まれ、北海道出身。道内の映像技術系専門学校を卒業後、95年に上京し、中村幻児監督主催の映画塾に参加。講師の一人だった若松孝二に師事し、映画『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)ほかの助監督を務め、行定勲、犬童一心の作品に参加。10年に『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編監督デビューし(共同脚本も兼務)、第2作『凶悪』(13)で新藤兼人賞金賞など多数受賞。『日本で一番悪い奴ら』(16)で綾野剛、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)で蒼井優、『孤狼の血』(18)で役所広司と松坂桃李に日本アカデミー賞をもたらせ、自身も多数の監督賞を受賞。『止められるか、俺たちを』(18)と『サニー/32』(18)でも監督賞を受賞。11月1日には名脚本家・笠松和夫の遺稿をもとにした『十一人の賊軍』が公開される。