投資信託を購入したくても、「いつ買うのがお得なの? 」と買い時に悩んでしまう人がいるかもしれません。投資信託の値段である基準価額を見て判断すればいいように感じますが、基準価額で買い時を決めるのは本当に正しいのでしょうか。そこで今回は、投資信託の買い時や購入で失敗しないためのポイントについて詳しく解説します。

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■投資信託の「基準価額」とは

<基準価額とは>

基準価額とは、投資信託の値段のことです。投資信託を取引する際は、「口(くち)」を単位として1口、2口のように数えますが、基準価額は1口または1万口あたりの購入・換金など取引時に基準となる値段です。基準価額は運用成果によって変動し、購入した時と換金した時の差が投資家にとっての損益になります。

<基準価額はいつ更新される? >

基準価額は、投資信託の大きさを示す「純資産総額」に伴って変動します。株取引の場合、株価は株式市場の取引時間中は常に値動きがありますが、投資信託の基準価額は原則として1日1回公表されます。公表のタイミングは、投資信託の取引の申し込みを締め切ったあとで、投資した株式や債券などの時価評価をもとに計算や更新が行われます。

<取引の申し込み段階では基準価額はわからない>

基準価額は、投資信託の取引の申し込みを締め切ったあとに公表されますので、購入や売却の申し込み時点では適用される基準価額がわかりません。これを「ブラインド方式」と言いますが、すでにその投資信託を保有している投資家との公平性を保つため、購入や売却時にはこのような方法がとられています。

なお、購入や売却注文が成立する日を「約定日」と言い、約定日の基準価額が約定単位となります。約定にかかる日数は投資信託ごとに異なりますが、一般的に、海外市場に投資・運用するものは申し込みの翌営業日、国内市場に投資・運用するものは申し込みの当日が約定日となります。

■基準価額で買い時は判断できない

投資信託の基準価額はリアルタイムで値動きするものではありませんが、運用の結果や為替の影響などを受けながら日々変動しています。そのため、これを株式投資における株価のように考え、「基準価額の高いものが良い投資信託」と捉える人がいますが、そうとは限らないため注意が必要です。

また、基準価額で買い時を判断することもできません。その主な理由は、以下の通りです。

1.基準価額で投資信託の割安や割高は判断できない

基準価額や、その算出の元となる「純資産総額」は、投資信託のある時点での資産価値を表しているに過ぎません。時間が経ち状況が変化すると、購入時より資産価値が上がることもあれば、下がることもあります。また、分配金が出るとその分基準価額は下がりますし、株価のように、その銘柄を欲しい人が多ければ上がるというわけでもありません。

そのため、購入時点の基準価額にこだわるより、購入後に投資信託の資産価値が上がるかどうかという「投資信託のパフォーマンス」を重視したほうが良いでしょう。

ただし、基準価額では投資信託のパフォーマンスを評価することはできません。投資信託のパフォーマンスを評価する基準としては、たとえば以下のようなものがあります。

<シャープレシオ>
リスクに対してどれくらいのリターンを得られたのか、バランスを評価する指標。数値が大きいほど、投資効率の良い銘柄と判断することができる。

<トータルリターン>
分配金や値上がり益、投資信託にかかった費用なども含めて、一定期間(1年・3年・5年など)のうちにどれだけ値上がり、もしくは値下がりしたのか示す指標。投資信託の総合的な運用成績を表す。

<標準偏差>
統計学におけるデータのバラつき具合を示す指標で、数値が大きいほどリスクが高く、数値が小さいほどリスクが低い。

2.基準価額はさまざまな要因で決まる

基準価額は、「投資信託の純資産総額÷総口数」で算出されます。また、純資産総額はその銘柄に組み込まれている、国内外の株式、債券、不動産などの資産の値動きで決まります。

株式は株式市場の浮き沈みの影響を受けますし、債券は金利の上昇・下降や債券の信用格付け変更などの影響で価格が変動します。また、不動産は物件価格の上昇・下落が価格変動に影響を及ぼします。さらに、海外の資産に投資している投資信託なら、為替の変動が価格変動に関わるでしょう。

このように、基準価額はさまざまな要因によって変動するため、全ての要素を考慮して購入タイミングを見極めるのは現実的ではないのです。

3.投資信託の基準価額は申し込み時にはわからない

先ほどもあったように、基準価額は購入や売却の申し込み時にはわかりません。申し込み時の基準価額がわからない投資信託では、割安・割高をリアルタイムに判断して購入や売却をすることは困難です。

■投資信託の買い時はいつ?

では、投資信託はいつ購入するのがいいのでしょうか。投資信託を買うのにおすすめのタイミングや、投資信託を運用するうえで意識したい視点について解説します。

<投資信託の買い時とは>

投資信託は、基準価額で割安・割高を判断できず、株式投資のように「安い時に買って高い時に売る」ことが難しいという性質があります。そのため、一律に決まった買い時があるわけではなく、一般的には「その人にとってのタイミング」が投資信託の買い時と言えます。

その人にとってのタイミングとは、たとえば余裕資金ができた時です。生活費や将来の決まった目的以外に当面使う予定のない余裕資金ができ、「投資でも始めてみようかな」と思い立ったら、それがその人にとって投資信託を購入するベストタイミングです。

また、お金を貯めたい将来のライフイベントやその目標金額が明確になり、逆算してみると「今が準備の始め時だ」というケースもあるかもしれません。さらに、「公的年金だけでは老後が不安で投資を始めた」という声もよく耳にします。

このように、自分にとって投資を始める動機ができた時が、投資信託の「買い時」と言えるでしょう。

<長期投資という視点を持つ>

「投資信託に決まった買い時はない」というと元も子もないように感じますが、思い立った時に買うのが良いとされるのには理由があります。それは、投資信託は基本的に長期投資を前提に、複利効果によって資産を増やしていく方法だからです。

複利とは、運用で得た利益を再び投資にまわすことで、利益が利益を生み資産を加速度的に増やすことです。複利効果は短期間ではあまり実感することができませんが、運用期間が長くなるほど大きな効果を実感できます。

つまり、複利を前提とした長期投資は、できるだけ早く始めるに越したことはありません。自分にとってのタイミングを感じたら、さっそく投資信託の購入を始めてみましょう。

■投資信託の購入で失敗しないためのポイント

投資信託の買い時は自分次第ということですが、投資信託の購入で失敗しないために気を付けなければならないポイントは何でしょうか。それは、「一度のタイミングで全資産を投資しない」ということです。投資信託に決まった買い時はありませんが、仮に値段が高い時に全資産を投じて購入し、その後相場が下落してしまった場合、資産が大きく目減りしてしまうリスクがあるからです。

ただ、繰り返しになりますが、投資信託は購入や売却時の基準価額がわからないため、買い時を見極めるのはプロでも難しい面があります。そこでおすすめなのが、タイミングを見計らって購入したり全資産を一度に投資したりするのではなく、一定期間ごとに同じ金額を継続して購入し続ける「積立投資」です。

<「ドルコスト平均法」は時間の分散ができる>

積立投資をすると、「ドルコスト平均法」による効果が期待できます。ドルコスト平均法とは、一度にまとめて大きな金額を投資するよりも、複数回に分けて時間を分散させ、少額ずつ購入する方がリスクを抑えられることを利用した投資手法です。

投資信託で積立投資をする場合、毎回同じ金額を買い付けていきますので、基準価額が高い時は少ない口数を買い、基準価額が低い時は多くの口数を買うことになります。あえてタイミングを見計らうことなく、毎月自動的に一定額を積み立てる設定にしておくだけで、高値づかみのリスクを抑え、値段が安い時にまとめ買いすることも可能になるのです。

こうして毎月一定額を買い付けていくと、結果的には毎月一定量を買う方法より買付単価が平準化され、平均買付単価を抑える効果が得られます。

<相場を気にせず少額から始められる>

投資信託を積立購入する設定にすれば、毎月一定額が自動的に積み立てられます。つまり、運用が終わらない限り、相場の動きに関わらず購入は自動的に行われるため、自分で細かく相場をチェックする必要がありません。

特に投資経験の浅い人にとって、市場や相場の動きを読むことは負担になりやすく、それが投資に積極的になれない要因の一つにもなっています。しかし、積立投資なら、必要以上に相場を気にすることなく、手間をかけずに運用ができます。

また、ドルコスト平均法では投資するタイミングを分散させるため、投資を始める時にまとまった自己資金がなくても、無理のない少額から運用をスタートさせることができます。金融機関にもよって金額は異なりますが、100円や1000円、1万円などから積立投資ができるところも多くあります。

なお、ドルコスト平均法は長期で見て利益が出るような仕組みのため、短期の売買で利益を得たい場合には向きません。反対に、長期投資でコツコツ利益を積み上げていきたい人にとってはメリットの大きな手法でしょう。

■思い立った時に投資信託の運用を始めよう

「安い時に買って高い時に売る」のは投資の鉄則ですが、購入や売却時の基準価額がわからない投資信託では、基準価額で買い時の判断をすることができません。そのため、投資を始めたいと思い立ったその時が、その人にとっての投資信託の買い時と言えます。

特に投資初心者の場合、一度にまとめて投資するのではなく、購入タイミングを分散できる積立投資を活用するといいでしょう。一つ注意したいのは、定額を定期的に購入する場合、購入の頻度が高いとその分手数料(購入時手数料)がかさむという点です。投資信託の中には購入時手数料がかからないもの(ノーロードファンド)もありますので、ぜひ探してみましょう。