記録的な円安の継続を背景に、インバウンドはもちろん、日本発の越境ECもかつてないほどの活況を呈している。「訪日客が増えると越境ECの成長は鈍化するのでは」と見る向きもあるが、インバウンドの隆盛は越境ECにどのような影響を与えるのだろうか。また、日本発の越境ECでは、いまどのような商品に人気が集まっているのだろうか。
BEENOS株式会社が8月22日に開催した「越境EC・訪日インバウンド×上半期トピックス発表会2024」の内容から、2024年上半期に起きた越境ECを取り巻く環境変化や、日本発越境ECにおける人気・伸長カテゴリを紹介する。
越境ECを取り巻く環境変化
2015年から日本発の越境EC市場は顕著な成長を見せており、BEENOSが展開する海外向けECモール「Buyee」の流通規模も継続して拡大している。2024年は訪日観光客のさらなる増加や記録的な円安の進展など、越境EC・訪日インバウンドに関連するさまざまなトピックスがあった。まずは、2024年上半期に起きた越境ECを取り巻く環境変化を見てみよう。
1.記録的な円安の継続
2024年4月~6月は1ドル=160円の水準に到達。海外ユーザーが日本から購入しやすい環境を後押ししている。実際に、BEENOSが行った調査で、67%のユーザーが円安の進行により日本の商品購入が「増えた」と回答。また、63%のユーザーが自国と日本の物価差について、「日本のほうが安い」と答えている。
2.クールジャパン戦略を刷新
政府は2024年6月、5年ぶりにクールジャパン戦略を刷新し、「新たなクールジャパン戦略」を発表。「コンテンツ」「インバウンド」「食」を3本柱に、2023年時点で19兆円の海外展開を、2033年時点で50兆円の規模まで拡大する野心的な目標を掲げている。
3.ライブ・エンタテインメント市場の回復・拡大
ライブ・エンタテインメント市場規模はコロナ禍以前を上回り、2023年は過去最大を記録。今後も市場の拡大が見込まれている。
4.訪日インバウンドが過去最高規模で推移
2024年1月~6月の累計訪日外客数は17,777,200人。過去最高を記録した2019年同期を100万人以上上回り、さらなる拡大を見せている。
インバウンドの伸びが越境ECに与える影響は?
ここで気になるのが、越境ECとインバウンドの関係性だ。越境EC市場は、コロナ禍で国境を超えた人の往来が厳しく制限されていた中で大きく成長したため、「訪日客が増えるとわざわざ越境ECで日本の商品を買う人が減り、越境EC市場の成長が止まってしまうのでは」と考える人も少なくない。
「BEENOS代表の直井聖太氏は「むしろ逆」だと語る。「日本を訪問して日本がより好きになると、もっと日本のものが欲しくなり、自国に帰った後、越境ECで日本の商品を買うため、インバウンド客の増加に伴って、越境ECも拡大するという相乗効果が期待できる」という。「Buyee」で日本の商品を購入しているユーザーの約6割に訪日経験があるというデータからも、訪日経験が日本発の越境ECを利用するきっかけのひとつになっていることが見て取れる。
越境ECで人気の商品カテゴリ・伸びたカテゴリTOP10
訪日客の増加と呼応するようにして、今後も拡大が見込まれる越境EC。ユーザーは、どんな商品を目当てに日本発越境ECを利用しているのだろうか。越境EC サポートサービス「Buyee」の購買データから、越境ECにおける人気カテゴリや海外消費者のインサイトを紐解こう。
「Buyee」における、越境EC 2024年上半期の人気カテゴリTOP10は以下の通り。
2024年上半期の伸長カテゴリTOP10は以下の通りだ。
「アニメ」「ゲーム」「マンガ」が日本発越境ECをけん引
人気カテゴリ・伸長カテゴリともにクールジャパン領域の健闘が目立つ結果となった。BEENOSの調査(複数回答)でも、日本を好きになったきっかけとして、「アニメ(65.2%)」「ゲーム(42.8%)」「マンガ(42.5%)」が上位に挙げられており、コンテンツが日本に興味を抱くきっかけになっているケースが多いことがわかる。そこで、日本のソフトパワーを支えるコンテンツ産業にフォーカスし、「アニメ×越境EC」「ゲーム×越境EC」「マンガ×越境EC」の傾向を見ていこう。
アニメ×越境EC
2022年のアニメ関連市場規模は前年比106.8%増で、過去最高の2兆9,277億円を記録。 海外消費は国内と同規模の1.4兆円に伸長しており、アニメ市場の成長を海外市場がけん引している。
「Buyee」におけるアニメグッズカテゴリ購入件数は、2021年上半期と比較して3年間で約3.3倍まで拡大。
購入エリアは北米が最も多く、次いで東アジア、ヨーロッパ 20代を中心に若い世代の男女がアニメグッズを購入している。中でも、アクリルスタンドやキーホルダー、缶バッジなど、フィギュア以外のアニメグッズの購入件数が3年で約4.5倍に拡大しており、ライトなアニメファンによるグッズ購入が増えていることがうかがえる。
ゲーム×越境EC
世界のゲーム市場は右肩上がりの成長を続けており、2026年には3211億ドル(約47兆円)規模まで拡大が見込まれている。
「Buyee」における2024年上半期のゲーム流通は、2021年上半期と比較して2.4倍まで拡大。
購入エリアは北米、ヨーロッパ、中南米の順に多く、すべてのエリアで30~40代の男性がメインユーザーとなっている。購入件数における「ゲーム機本体」と「ゲームソフト」の割合はほぼ半々で、越境ECではPlaystation、ファミコン、ゲームボーイなど過去のゲーム機ほど購入される傾向にある。ゲームソフトはポケットモンスターシリーズ、スーパーマリオシリーズ、ファイナルファンタジーシリーズの人気が高く、アメリカの20~40代の男性に最も購入されている。
マンガ×越境EC
「マンガ」カテゴリはアニメの世界的人気拡大を追う形で伸長を継続。
購入エリアは北米、ヨーロッパ、東アジアの順で、男性を中心に20代~40代に購入されている。アニメ化や映画公開などがきっかけで流通が伸びる傾向が顕著で、2024年上半期の購入件数のTOP3は「ドラゴンボール・鳥山明」「ハイキュー!!」「ワンピース・尾田栄一郎」だった。
「Payke」との協業でインバウンドと越境ECを連動
越境ECと訪日インバウンドは、いずれも日本のソフトパワーを高める重要な役割を担っており、相互に影響し合っている。インバウンドと越境ECをシームレスにつなぎ、包括的な「日本体験」の向上を図ることがますます重要になっているが、従来は、訪日経験のある外国人が越境ECで何を購入しているのかを把握するのは難しいという課題があった。
そこで今回BEENOSは、訪日客が購入および購入を検討している商品データを持つ株式会社Paykeとパートナーシップを締結。インバウンドと越境ECを連動させ、インバウンドを契機とした日本・日本ブランドへの興味関心を消費として取り込む「旅アト消費」に力を入れる。
バーコードを読み取るだけで商品情報を多言語で伝達できるアプリ「Payke」を展開するPayke社は、「いつ」「誰が」「どこで」「どの商品を手に取っているか」、外国人の消費行動を可視化できるデータソースを保有しているため、同社のデータを活用することで、潜在的に越境ニーズの高い商品を洗い出すことが可能になるという。両社は事業連携を通じて、訪日客の旅マエの商品との出会いから訪日時のショッピング、帰国後のリピート購入まで一気通貫でバックアップすることを目指す。
訪日客の増加や越境ECの活性化などを背景に、外国人が日本発の商品を手に取る機会も増えているが、日本にはまだまだ外国人には知られていない良品が数多く眠っている。インバウンドと越境ECの連動により、より多くの日本発の製品が世界に羽ばたいていくことを期待したい。