村上春樹「素晴らしい音楽も、政治や社会状況とは無縁でいられないんだなあと」当時のブッカーT・ジョーンズの音楽活動から考える
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。8月25日(日)の放送は「村上RADIO~ソウル・インストルメンタル・グループ~」をオンエア。
今回の「村上RADIO」は、1960年代のソウル・インストルメンタル・グループを特集。ブッカー・T&ザ・MG’sのリーダー、ブッカーT・ジョーンズの自伝『Time Is Tight』を手にした村上さんが、その時代・場所に思いを馳せながらお届けしました。
この記事では、後半4曲とクロージング曲について語ったパートを紹介します。



◆The Ventures「Last Night」
◆The Ventures「Green Onions」

次は意外にもべンチャーズをいってみます。もちろんベンチャーズは白人バンドで、ソウル・インストルメンタル・グループというカテゴリーには入りませんが、彼らも1960年代後半になると、黒人たちのグループのパワフルな演奏に注目し、その手法を積極的に取り入れていきます。聴いてみると「え、これがベンチャーズ?」という本格的に黒っぽいサウンドです。

彼らがマーキーズのヒットソング「ラスト・ナイト」とブッカー・T&ザ・MG’sの「グリーン・オニオン」を演奏します。ホーンやオルガンを導入して、なかなかかっこいいですけど、「じゃあ、ベンチャーズの持ち味って何なんだ?」と言われるとちょっと困っちゃうかもね。
聴いてください。べンチャーズの演奏する「Last Night」、そして「Green Onions」。

◆Les McCann Ltd.「Boo-Go-Loo」
1960年代後半に、ソウル・インストルメンタル・グループが人気を呼んで、無視できないムーヴメントとなり、ジャズの側からも、それに呼応する動きが出てきます。そんな例を聴いてください。
まずレス・マッキャンのグループが演奏します、「Boo-Go-Loo」。

◆Jimmy Smith「Respect」
オルガンといえばこの人、ジミー・スミスが演奏するアレサ・フランクリンのヒットソング「Respect」です。

<クロージング曲>
Lyle Ritz「LIl' Darlin'」

今日のクロージング音楽はライル・リッツのウクレレ演奏で「リル・ダーリン」です。ライル・リッツはジャズ・ウクレレ演奏の名手ですが、ビーチボーイズのファンには「ペット・サウンズ」のバックでベースを弾いていた人として有名ですね。ウクレレだけでは営業していけないので、腕の良いスタジオ・ミュージシャンとしてベースを弾いていたんです。しかし同じ4弦でも、ウクレレとウッド・ベース、楽器の大きさはずいぶん違いますよね。

さて、ブッカーT・ジョーンズの自伝によれば、音楽の絆で結ばれていたMG's4人のメンバーの間にも、時代の経過と共に微妙な亀裂が入ってきます。1968年にマーティン・ルーサー・キングが暗殺され、黒人社会に大きな衝撃が走り、それを境としてブラックパワーが急速に盛り上がってくるわけですが、白人のスティーヴ・クロッパーにはその出来事の意味がうまく呑み込めずに、ブッカーTはそこに失望を感じます。そしてそのような気持ちのずれは、やがてバンドの解体へと繋がっていきます。そのへんのくだりを読んでいると、MG'sのファンとしてはやはり淋しかったですね。素晴らしい音楽も、政治や社会状況とは無縁でいられないんだなあと。

<番組概要>
番組名:村上RADIO~ソウル・インストルメンタル・グループ~
放送日時:2024年8月25日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/