団体専用列車に特化したツアーを多数生み出しているクラブツーリズム鉄道部が、「ついに実現 185系で行く 品川⇔沼津 日帰りツアー」を7月27日に開催した。185系は定期運行終了後もJR東日本管内の臨時列車等に使用されているが、今回は定期運行以来となるJR東海区間(熱海~沼津間)への乗入れも果たした。

  • クラブツーリズム鉄道部主催の団体臨時列車として、185系が沼津駅に乗り入れた

鉄道専門のツアーで185系が運行

クラブツーリズム鉄道部は、鉄道好きの社員が企画したツアーをきっかけに生まれた有志の集まりとして、2017年に発足。「時刻表に載らない」をテーマにさまざまなツアーを打ち出し、多くの鉄道ファンらの支持を確立しているという。最初に企画した「貨物線ツアー」は、一般の旅客列車では通れない貨物線からの車窓をツアー参加者が楽しめるとして話題になり、「鉄旅オブザイヤー 2017」グランプリや「ツアーグランプリ 2018」部門グランプリを受賞。このような実績を経て、2020年に社内の専門チームとして正式に鉄道部が始動した。

「貨物線ツアー」以外にも、クラブツーリズム鉄道部はJR東日本のお座敷列車「華」、JR西日本「サロンカーなにわ」や新幹線500系、近鉄「鮮魚列車」など、貴重な列車を貸し切ったツアーを多数実施。通常の列車が通らないルート設定だけでなく、添乗する鉄道部社員による詳しい解説など、満足感の高いツアーをつくり上げている。ツアーの告知は公式X(Twitter)のみだが、即時性の高さゆえ話題になりやすく、毎回満席・キャンセル待ちが出るほどの人気を誇り、常連も多い。

ちなみに、「貨物線ツアー」は7月15日に開催された回で33回目を迎えた。当日は大宮駅から品川駅へ至る行程の中で、東北貨物線・常磐貨物線・新金貨物線・武蔵野南線を経由したという。

今回の出発地は品川駅。ツアーは「窓側指定プラン」と「座席指定なしプラン」で販売したが、前者のみで180名満席となった。参加者は全員、クラブツーリズムのバッジを身に付け、受付時に記念品の特製サボと台紙セット付の特製乗車記念硬券を受け取った。ざっと見たところ、こどもから大人まで幅広い年代が参加しており、185系のグッズや服を着用している筋金入りのファンも見られた。

  • 品川駅8番線に停車中の185系。ヘッドマーク幕回しも披露し、最終的に「団体」と表示して出発した

改札内に入場した際、185系のツアー列車は臨時列車専用の8番線ですでに停車していた。緑色のストライプがあしらわれたB6編成に乗車する。発車までの間、いまでは珍しくなった幕回しも実施。現役時代に使用された「踊り子」「湘南ライナー」「草津」などのヘッドマークを表示し、多くの参加者が興味深く見ている様子だった。

185系のツアー列車は9時53分に品川駅を発車。筆者は3号車に乗車した。発車してすぐに列車は横須賀線へ転線し、東海道新幹線ともすれ違いつつ、モーターを唸らせながらトップスピードで走る。武蔵小杉駅を通過した後は東海道貨物線に転線。先行していた横須賀線の普通列車を新川崎駅で追い越しつつ、だんだん速度を緩めていき、鶴見駅で運転停車した。

鶴見駅で約4分の運転停車時間が設けられ、その間、最後部車両(6号車)に搭載されている車内チャイムが再生された。順番に「鉄道唱歌」のオルゴール、JR東日本特急列車標準チャイム、「房総ビューエクスプレス」チャイム、常磐線特急チャイムの4種類。通常の特急列車で複数の車内チャイムが流れることは少ないため、これも団体専用列車ならではのひとときだろう。警笛一声、ツアー列車は鶴見駅を発車した。

首都圏に残る国鉄型特急列車、東海道貨物線経由で西へ

知っている人も多いと思うが、ここで改めて185系についておさらいしよう。185車は1981(昭和56)年に登場した特急形車両で、2021年3月まで特急「踊り子」や「湘南ライナー」などで運行していた。1982(昭和57)年に耐寒・耐雪仕様の200番代も登場し、「新幹線リレー号」をはじめ、特急「草津」(現「草津・四万」)や特急「あかぎ」「水上」などに使用された。当時、他の特急形車両はドアが1カ所のみだったが、185系は普通列車の運用も想定されたため、片側2カ所に大型ドアが配置された。実際に普通列車として運行したこともある。

外観は、現在残っている編成で緑のストライプ(B6編成)、緑のライン(C1編成)の2種類が存在する。過去には「踊り子」向けに緑・オレンジ、「あかぎ」「草津」向けにグレー・赤・黄色のブロックパターンも存在した。一部編成で湘南色や国鉄特急色をリバイバルしたこともある。いずれの場合も、車体前面の窓下に国鉄特急のシンボルマークが掲出されていた。

客室の座席は、登場当初こそ転換クロスシートだったものの、JR発足後、現在のリクライニングシートに交換された。車内には他にも、指定席表示が黄緑色のプレートになっているところや、「くずもの入れ」「消火器」のフォント、採光窓のある洗面所など、国鉄時代をしのばせる要素が随所に残されている。

制御方式は、現代では珍しくなった抵抗制御で、MT54形モーターを搭載している。音の特徴として、発車・停車時に和音が響き、高速走行時にかなりの音量で唸りを上げるため、鉄道ファンからの人気がとくに高い。2024年現在も首都圏で見られる稀有な国鉄型車両で、最新の車両にはない要素を多数残しているため、185系の人気は定期運行を終えた後でも健在となっている。

  • 横浜羽沢貨物ターミナルを通過

  • 相模川橋梁を渡る。写真中央の線路は東海道線の下り

  • 3号車の様子(品川駅で撮影)

さて、ツアー列車は引き続き東海道貨物線を進むため、横浜羽沢貨物ターミナル付近までトンネルを走行。横浜羽沢貨物ターミナルを通過すると再びトンネルに入り、東戸塚駅手前で東海道線・横須賀線に合流した。利用者を乗せた列車が日中時間帯に横浜羽沢~東戸塚間を走行すること自体珍しく、それが185系ということもあり、特急列車化される前の「湘南ライナー」をほうふつとさせる。

大船駅を通過してからも、小田原駅まで東海道貨物線を走行し続ける。ここで、筆者が乗車している3号車内の様子を見てみると、前方の席に座っている参加者の多くが車窓の動画を録っていた。その他、テーブルに185系のグッズを並べて楽しんでいる人も。一部参加者は座席を向かい合わせにして、談笑したり、お酒を飲んだりしながら旅を楽しんでいる様子だった。

  • 特急「踊り子」に追い抜かれた後、貨物線から本線へ合流。小田原駅に運転停車する

ホームの先端や沿線の各地には、噂を聞きつけて訪れた鉄道ファンらの姿も。相模川河川敷(茅ケ崎~平塚間)や国府津駅ホームでは、手を振って見送る人たちも見られた。列車は酒匂川の手前で特急「踊り子」を先に通した後、東海道線に合流。11時11分、小田原駅に運転停車した。この先は東海道線を走行していく。

相模湾・丹那トンネルを経て沼津駅へ

小田原駅を発車し、早川駅を通過して間もなく、進行方向左手に相模湾が広がった。ツアー当日、とくに午前中は晴れていたため、海面が一層青く輝いて見えた。通常の列車からも相模湾の俯瞰を楽しめるが、基本的に1区間5分前後であっさり通過していく。今回は偶然かもしれないが、海沿いの区間でツアー列車が徐行運転したため、通常よりも長く車窓風景を堪能することができた。

11時38分、熱海駅に運転停車。185系の入線と同時に、隣のホームからJR東海の新型車両315系が発車していった。この2形式が並ぶことは何度あるかもわからない、非常に貴重な瞬間だった。乗務員交代のため、3分間停車した後に熱海駅を発車し、185系は東海道本線のJR東海区間へ。JR東日本の路線である伊東線の来宮駅を横目に、いよいよ丹那トンネルへ入っていく。

  • 相模湾を俯瞰する絶景区間を185系で行く。熱海駅で315系も見ることができた

  • 進行方向左手に見える来宮駅を横目に、東海道本線をさらに西へ

  • 来宮駅の横を通過した後、すぐに丹那トンネルへ進入する

  • 丹那トンネルを抜ければ、三島駅・沼津駅はあと少し

定期運行していた頃の185系は、特急「踊り子」として熱海~三島間を走行し、伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅まで乗り入れており、このツアーでおそらく3年ぶりにJR東海区間へ乗り入れることとなった。熱海駅から隣の函南駅まで10km近く距離があり、丹那トンネルはその大部分を占める。185系のモーター音はただでさえよく唸るが、トンネル内でより反響し、他の人の話し声が聞こえにくくなるほど響くところに当時を思い出させる。5分ほど走行して丹那トンネルを抜け、函南駅、三島駅と通過。ツアー列車は12時1分、沼津駅に到着した。

  • 185系のツアー列車が沼津駅に到着。一時解散・再集合ともに沼津駅北口で行われた

沼津駅に到着し、改札を出た後、15時30分頃まで自由時間となった。沼津駅周辺の観光や、他の駅も訪れるなど、参加者それぞれの過ごし方があっただろう。筆者は自由時間の間に昼食を取りつつ、駅南側の仲見世通りなどを散策した。当日は「沼津夏まつり」および「狩野川花火大会」の開催にともない、沼津駅南側の大通りに屋台が並び、一部区画で歩行者天国も実施。浴衣姿の観光客やアニメファン・コスプレイヤーなど、多くの来場者でにぎわっていた。

185系と東海道貨物線を楽しみながら品川駅へ戻る

約3時間の自由時間を終えて、参加者らが沼津駅に集合し、ツアー再開。復路の185系ツアー列車は16時3分に沼津駅を発車した。夏まつりに伴う混雑もあったが、参加者たちは1人も遅れることなく、スムーズな乗車への協力もあり、定刻通り沼津駅を後にした。5分ほど走行した後、三島駅で10分間の運転停車。その間に車内チャイム4種類が再生が行われた。三島駅を発車した後、再び丹那トンネルを横断。復路は全体的に往路より列車の速度が速く、より現役時代に近い走りを体感できた。

16時33分、熱海駅で運転停車。3分間の停車時間で乗務員交代を終えて発車した。この先はJR東日本区間の東海道線を走行し、小田原駅から東海道貨物線を走り、鶴見駅までノンストップとなる。小田原駅では、ホーム上の鉄道ファンらに加え、小田急電鉄の乗務員も手を振り、185系を見送る場面もあった。それ以降も、モーターの唸りが心地良い速度感で東海道貨物線を力走し、東海道本線の普通列車を追い抜きながら185系は進んでいく。

  • 東海道貨物線上り線で再び相模川を渡る

  • 辻堂駅付近で普通列車と並走する場面も

ここで再び3号車の様子を見ると、往路に続き、車窓風景を動画で撮影している人や、テーブルにグッズを広げている人が見られた。動画撮影の際、窓を少し開けて風の音も入れている人もいたが、まさにこの車両だからこそだろう。とはいえ、往路と比べて全体的にくつろいでいる人が多く、どちらかといえば静かな空間になっていた。

ところで、185系の今後の予定だが、8月中に別の団体臨時列車や有料撮影会に使用されるものの、9月以降はいまのところ目立った発表がない。この日の車内アナウンスでも、「185系について多くの質問が寄せられている」と言及があった。17時42分に鶴見駅で運転停車した際、秋季の貸切について申請を行っていることが明かされた。それが承認されれば、秋の臨時列車が発表される時期にクラブツーリズム鉄道部から正式に案内するとのことだった。

  • 鶴見駅で運転停車

  • 東海道新幹線との並走・すれ違いも185系では珍しくなった

  • 朝、出発した品川駅8番線。夕方に戻ってきた

最後に、新鶴見信号場での運転停車を挟んで、再び横須賀線に転線。東海道新幹線とのすれ違い・並走を経て、185系のツアー列車は18時8分に品川駅8番線へ到着した。改札を出ずに鉄道各線に乗り換える人は改札内で、それ以外の参加者は改札外で解散となった。