森田社長は、新卒でテレビ局を第一志望にしたが縁がなく、海外での仕事を希望して第二志望だった総合商社の丸紅へ2001年に入社。花形部署である飼料穀物課に配属されたが、海外赴任まで6年間ほど時間を要すると聞いた上、テレビ制作会社に入社した幼なじみから聞く仕事の話がいつも楽しそうだったという。

そんな中、9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が発生。人生観を変えられた森田社長は「一度しかない人生だから、やりたいことをやろうと思って一念発起しました」と丸紅を入社9か月で退社し、幼なじみの口利きもあってシオンに転職した。

『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ)のADからスタートすると、「やっぱりテレビのほうが、水が合ってましたね。手取りは3分の1以下ほどになりましたが、やりがいがありました」とすっかりハマり、3年後にはディレクターに昇格。

大手商社での経験は短いながらも大きかったそうで、「社会人の基礎を学ばせてもらえたので、ADの中ではそれが結構アドバンテージになりました。また、先輩のディレクターたちから本当にたくさんのことを教えてもらいましたが、一方で職人気質のため欠けている部分もあって(笑)、そこを絶妙に埋めるという自らの力が生かせるポジションを上手く見つけられ、順調に駆け上がっていくことができました」と充実のテレビマン人生を送る。6年在籍したシオンを退社すると、フリーの期間を経て、フーリンラージを設立した。

至極正常な「コンテンツが正しく評価される時代」に

そんなテレビ愛を抱く森田社長は、近年「オワコン」とも言われ、大きな曲がり角に差しかかるテレビ業界をどう見ているのか。

「私はまだまだ全然可能性があると思います。昔みたいに世帯視聴率20%をとる番組がどんどん出てくるというのは難しいですが、『不適切にもほどがある!』(TBS)や『VIVANT』(同)など、しっかりヒットが出る構造になっているし、社会現象を巻き起こすほどの影響力があるのは、やっぱりいまだにテレビが一番ですよね。ただ、“テレビ局至上主義”から“コンテンツ至上主義”に時代がシフトしてきている。テレビで流れているからなんとなくみんなが見ているという時代から、本当に面白いコンテンツだから見る。一方、面白くないものは全く見られない。これは至極正常で、コンテンツが正しく評価される時代になったと思っているんです」

コンテンツの評価が、デバイス間にとどまらず、国境を越えて行われるようになった今、「“日本のテレビ”だけで切り取ると狭いけど、世界規模で見ていくと、コンテンツのマーケットはむしろ広がっているので、そこに勝機があるはず。戦いの場を世界に移せば競合も増えるし、相手は世界レベルに。より戦いは厳しくなっていくことは必至ですが、世界の舞台で打ち勝てるように、私たちは“日本一のコンテンツサプライヤーになる”というミッションを掲げています」と決意を語っている。

●森田篤
1978年生まれ、埼玉県出身。幼少期を米国で過ごし、早稲田大学卒業後、01年に丸紅入社。同年12月に退社し、02年にテレビ制作会社・シオンに転職。『ぐるぐるナインティナイン』『行列のできる法律相談所』などの制作に携わり、08年に映像制作プロダクション・フーリンラージを設立。『しくじり先生 俺みたいになるな!!』『櫻井・有吉THE夜会』『マツコの知らない世界』などの番組や、映画、CM、MVなど映像制作事業を展開する。19年にKeyHolderグループに入り、傘下の制作会社と合併してUNITED PRODUCTIONSに社名変更。現在は同社代表取締役社長のほか、親会社であるKeyHolder取締役副社長、UNITED PRODUCTIONSの子会社であるTechCarry及びmacaroniの取締役も務める。