藤井聡太王位に渡辺明九段が挑戦する伊藤園お~いお茶杯第65期王位戦七番勝負(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、両者1勝で迎えた第3局が7月30日(火)・31日(水)に徳島県徳島市の「渭水苑」で行われました。対局の結果、難解な終盤戦から抜け出した藤井王位が111手で勝利。秘術を駆使して防衛に向け一歩リードしました。

渡辺九段の作戦光る

前局の快勝でスコアをタイに戻した渡辺九段は、後手番で迎えた本局でも周到な用意を披露します。角換わりに進んだ序盤で颯爽と桂を五段目に跳ね出したのは現代的な強襲。一手受け間違えると奈落の底に落ちる危険な戦型だけに、藤井王位も長考を余儀なくされます。

31手目に藤井王位が記録した3時間10分の大長考は自身のキャリア最長となる記録。「思った以上に(対処が)分からず封じ手周辺は自信がなかった」との振り返りが藤井王位の苦戦を裏付けます。実戦も持ち時間で大きくリードする渡辺九段がペースをつかみました。

またしても終盤のドラマ

右辺で飛車交換が行われて戦いは勢いを増します。藤井王位が後手陣に飛車を打ち込めば渡辺九段も先手玉そばに馬を作って応戦。渡辺九段優勢で迎えた終盤にドラマが待っていました。詰めろを受けるために打った、なりふり構わぬ飛車打ちが藤井王位渾身の勝負手です。

手番を握った渡辺九段は持ち駒の飛車と香を立て続けに打って王手。自玉の詰めろを消しつつ先手玉に迫る、保険の効いた組み合わせに見えましたが結果的にこれが敗着に。後に打った香車を捨てて先手玉を詰ましに行ったとき、香を合駒に使われて後手玉に逆王手がかかる手順があり、先手玉が詰まないのが藤井王位の仕掛けた罠でした。

藤井マジック炸裂

飛車を逃げている余裕のない渡辺九段はこれを切り飛ばして攻め続けますが、王手が一段落したところで藤井王位の目が光ります。盤上の二枚銀を差し出して王手をかけたのが読み切りの着手。一分将棋の渡辺九段に対して藤井王位は持ち時間を4分残していました。

終局時刻は19時14分、自玉の詰みを認めた渡辺九段が投了。大盤解説場で登壇した渡辺九段は「なんでいつもこうなっちゃうのかな」と自嘲気味に語りました。2勝1敗とした藤井王位は防衛に向け一歩リード。注目の第4局は佐賀県唐津市の「洋々閣」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井王位は「こちらの玉を手順に安全にする手が生じて勝ちになったと思った」と振り返った(提供:日本将棋連盟)

    藤井王位は「こちらの玉を手順に安全にする手が生じて勝ちになったと思った」と振り返った(提供:日本将棋連盟)