少子化の波と共にやってきた大学淘汰の時代。国内の大学では生き残りをかけ、大学ごとに特色を出そうと必死だ。その中で"グローバル教育"を武器にしている学校も少なくない。東京 文京区に本部を置く東洋大学も、"グローバル教育"にひときわ力をいれている。

2012年に同校の国際地域学部(当時)が、文部科学省「グローバル人材育成推進事業」対象大学として採択。2014年からは東洋大学全学が文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」の採択を受け、約10年間で世界に挑戦できる人材を育成してきた。

  • 東洋大学 白山キャンパス(東京都文京区白山5丁目28-20)

では、グローバル人材育成のための教育とは、一体どんなものなのだろうか。関係者に詳しい話を聞いた。

■留学経験者が急増のワケ

東洋大学では、日本人学生に占める単位取得を伴う留学経験者数が2013年度の490名から2023年度は1,235名に急増。全学生に占める外国人留学生の数は2013年度の481名から2023年度の1,816名に増加しており、外国語による授業科目数も2013年度の223科目から2023年度の1,686科目に増えている。背景には、どんな変革があったのだろうか?
※いずれの数も大学院を含む

  • 日本人学生に占める留学経験者数が急増中

東洋大学 副学長兼国際教育センター長の荒巻俊也教授は「そのきっかけは、創立125周年を迎えた2012年にありました」と語る。東洋大学では同年、「グローバル人材の育成」に向けた3つの柱として1. 哲学教育、2. 国際化、3. キャリア教育、を教育方針に掲げている。

  • 東洋大学副学長/国際教育センター長/国際学部国際地域学科教授の荒巻俊也氏

「東洋大学の創立者である井上円了先生は、明治時代に世界をまわる視察を3度も敢行しました。そこで学んだ欧米の先進的な教育を日本に導入したほか、海外の見聞を講演により民衆にも伝えています。創立125周年の契機に、改めて井上先生の志を現代に受け継ぎ、グローバルな視点を持った学生を育てよう、という思いを大学全体で新たにしました」

  • この日も校内では、外国人講師による個別授業が行われていた

一方、近いタイミングで文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」(SGU)が2014年にスタートする。

これは海外の大学・教育機関などと連携して世界レベルの教育を実施しているグローバル大学に対して国が支援するという事業で、東洋大学はタイプB【これまでの実績を基に更に先導的施行に挑戦し、我が国社会のグローバル化をけん引する大学を支援する】に採択。これが大学のグローバル化に拍車をかけた。

  • スーパーグローバル大学創成支援事業に採択

■語学力向上を狙った取り組みとは

では具体的に、どうやって大学全体のグローバル化を進めてきたのだろう? 荒巻教授は、次のように説明する。

「まずグローバル化に必要なものと言えば、語学力を活用したコミュニケーション能力の向上、そして異文化の理解です。相手の考えが、どんな文化や思想に根ざしたものなのか、理解して受容する大切さを知るということですね。学部・学科のカリキュラムを通じて意識を高め、カバーし切れないところを国際教育センターでもサポートしてきました」

  • 海外大学間交流協定に基づく交流数も増加

海外に学生を留学させる、海外から留学生を受け入れる、海外に教員を派遣する、外国籍の教員を受け入れる――。国際教育センターでは専門チームをつくり、海外大学間交流協定の拡大にも取り組んできた。

そのほか、海外留学を目指す学生を対象とした正課科目『LEAP(リープ)』(Learning English For Academic Purposes)にも注力している。これは留学に必要な英語力を修得することを主な目的とした英語特別教育科目だ。

  • LEAPは、留学を目指す学生はもちろんのこと、英語の4技能を伸ばしたい学生にとっても学びの多いプログラム ※公式サイトより引用

荒巻教授は「海外に留学したい、夢に挑戦してみたい、という学生さんたちの英語力を引き上げるのが主眼のプログラムです。昔に比べて学びの環境も変わってきました。現在は中学校、高校でも英語学習に力をいれており、近年、学生の英語力も上がってきています。ただ『海外旅行に行くときに使える程度の語学力があれば良い』と考える学生も多く、そこまで高いモチベーションを維持して語学学習にのぞむ学生は多くはありません。そこで、Listening、Speaking、Reading、Writing4技能を伸ばし、留学に必要な英語運用能力を伸ばすためにLEAPをスタートしました。また、LEAPのような正課以外にもキャンパス内で英会話ができる「Toyo Achieve English英語講座」やライティング力を伸ばすためのランゲージセンター講座を課外講座として開講。今年度からは原則受講料は無料とし、学生の語学力を底上げできたらと期待しています」と話す。

東洋大学ではToyo Global Leader(以下TGL)というプログラムも展開している。これは"グローバル人材"として成長するために必要な3つの要素(異文化環境における英語運用表現能力、課題解決能力、多文化共生社会における価値創造能力)を強化する全学横断型プログラムで、大学入学時から全員が参加する。

7つの認定要件があり、達成レベルに応じて「GOLD」「SILVER」「BRONZE」のランクを認定。SGUに採択されたタイミングでスタートした。

  • TGLは、達成レベルに応じて「GOLD」「SILVER」「BRONZE」のランクを認定 ※公式サイトより引用

『外国語能力』の項目ではTOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)、TOEFL ITPなど外国語資格試験のスコアを活用。また、外国語によるレポート・論文などの執筆、海外での活動が評価される海外アクティビティの参加が要件として認定され、ポイントとして加算される。

  • 認定条件は厳しい

このTGLについて、荒巻教授は「机の上で語学を学習するだけではポイントが伸びません。海外の留学生と議論しているか、イベントに積極的に参加しているか、といったところにもポイントを付与することで、学生たちを奨励・表彰できるようにしました。GOLDはTOEIC L&Rで730点以上(のレベル)が必要となりますし、また外国語で行われている授業を40単位以上受講する必要もあります。ハードルは高めの設定です」と解説。

その上で「語学を学ぶだけでなく、それを使って海外で何かを経験してもらいたい、という狙いがあります。TGLを追求することで、語学力だけでなく専門性も相互に高めていくことができます」とする。在学生3万人のうち、いまGOLDに到達できているのは1,000人超。

「まだまだ増やしていきたい。どうやったら語学力とコミュニケーション能力を同時に高めてもらえるか、海外で活躍できる人材に成長してもらえるか、試行錯誤の取り組みが続いています」と荒巻教授。

■大学を挑戦の場にする

東洋大学には『国際』と名のつく学部・学科も増えた。現在のところ『国際学部』『国際観光学部』のほか、文学部に『国際文化コミュニケーション学科』、経済学部に『国際経済学科』、社会学部に『国際社会学科』を設置している。

グローバル化をひとつの軸にした全学的な取り組みが、伝統ある東洋大学に新しい色を添えている。

「昨年度でスーパーグローバル大学(SGU)としての10年間は終了しましたが、グローバル教育について、引き続き積極的に取り組みを進めていきます。SGUでやってきたことを引き継ぎつつも、SGUの枠組みが外れたことで、今後、各学部・学科ならではの特色も出していきやすくなるでしょう。私としても、そこを大いに期待しています。学部・学科だけでは実現が難しい部分があれば、引き続き国際教育センターでもサポートしていきます」

ちなみに留学を経験した学生は、総じて『語学力が活かせる仕事に就きたい』『海外とやり取りのある会社に就職したい』という意向を示しているそうだ。

最後に、荒巻教授からメッセージをもらった。

「いまグローバル社会は、どんどんと形を変えています。海外に興味のある学生には、ぜひ東洋大学を検討してもらえたら。また本校の学生には、卒業までに様々なことに関心を持ってチャレンジしてみてほしい。実際に海外に留学してみて、初めて気がつくこともたくさんあります。大学側でも、皆さんの挑戦を全力でサポートしていきます」