からっぽだった高校生が、1枚の絵をきっかけに美術の世界に本気で挑み、国内最難関の美術大学を目指す姿を描く、映画『ブルーピリオド』。8月9日に公開される同作は、アニメ化もされた山口つばさ氏による人気漫画を実写化し、眞栄田郷敦が主人公の矢口八虎を演じている。今回は、ちょうど1年前、2023年夏に撮影されていた同作の撮影現場をレポートする。
眞栄田郷敦、板垣李光人が緊張感の中で『ブルーピリオド』撮影
撮影が行われたのは、原作者も出身だという新宿美術学院(現:ena美術)。実際に美大を受験する生徒たちが通っている美術予備校で、八虎(眞栄田郷敦)、桑名マキ(中島セナ)、橋⽥悠(秋谷郁甫)らが石膏デッサンに挑むシーンを撮影することについて、プロデューサーは「実際の技術に近いところでやろう、緊張感が生じる場を作ろうということは意識していました。エキストラさんもみんな絵の経験がある方なんです」と明かす。作品では他にも武蔵野美術大学、女子美術大学などでも撮影しており、本当に美術に関わっている人が観て「リアリティがない」というツッコミが生じないように、と制作陣もこだわっていたという。
狙い通り、撮影現場に漂うのは独特な緊張感。照明を抑えた教室には生徒たちが鉛筆や木炭を動かす音だけが響き、その間をカメラが移動していく。撮影の合間もキャストが集中している一方で、若いスタッフが集まっている快活な雰囲気も。プロデューサーは「若い人たちに向けて届けたいので、フレッシュな方々にお願いしたいという思いがありました。カメラマン、照明部、技術部、若返りが進んでいる中で、才能のある方々たちに集まっていただきました」と意図を明かした。
この日撮影していたのは、鉛筆の芯が折れてしまった世田介(板垣李光人)に、八虎が木炭を手渡すも「誰、おまえ」と言われ気圧されてしまうシーンで、木炭を渡す角度など細かく調整しながら進んでいく。カットを変えて何度も撮影されるが、キャンバスには実際にキャスト陣が撮影中に描いたデッサンが。絵を描く動作を理解しないと監督の指示にも対応できないという現場でもあり、同作ではキャスト陣が絵画練習に励み、吹き替えなしで挑んだことも話題となっている。
プロデューサーは「眞栄田さんは昨年の12月から、1カ月弱くらい、2週間に1回ぐらいのペースで通って、もう先生から『一般的な大学であれば、普通に受かるようなレベルに達してる』と言われていたんです。クランクイン直前にキャストが全員集まって合同練習として、あるテーマをみんなで描くみたいなことまでやったんですけども、本当に皆さん先生の助けもなく描けるようになって、頑張りました」と努力に驚き。また「郷敦さんの集中力がすごくて。絵を描いている時に飲まず食わずで6時間ぐらい経っている」「『描いていけばいくほどわからなくなってくる』と言ってて。でも出来上がったものを見ると、めちゃくちゃうまい。集中すると到達する方なのかな」など、制作陣から驚きの声が上がった。
絵画合同練習は、役者も実際に衣装・メイクで役になりきって挑む場となり、原作者の山口氏も見学に訪れた。「非常に感嘆されていたんです。『本当に素晴らしいです』と。ともするとコスプレみたいになっちゃいそうなところを『うまいリアリティラインの中で収めていただいて、本当に感動しています』とおっしゃっていただいた」とプロデューサーは語る。さらには、山口氏から「これ、本当に俳優たちが描いてるんですか?」という驚きの言葉も飛び出していたという。
「新たな青春映画を」熱量のある撮影現場に
プロデューサー陣は同作について「若い頃は人生の目標がわからなくて悩んでいた時期があったし、若者が何か一つ目的を見つけて一生懸命になって生きていく姿を実写化して描きたい」「熱くなる映画を作りたい。友達や家族、いろんな人たちとの結びつきや助け、いろんな人間関係があって成長していくという要素もきっちりと描いていきたい」「絵画の素晴らしさ、絵を描く大変さも、スポ根映画みたいに描けたら、きっと他の作品とは違うオリジナリティがあるものとして完成するのではないかなと思ってるんです。新しい価値観をお客さんにうまく提案できたらいいな」と意気込む。
また「青春映画の新たな金字塔みたいなものを作れるんじゃないか。世界を冷めた目で見てコスパよく生きていこうとしていた主人公の八虎が、絵に出会って目覚めていく様子が、非常に今、特に若者には刺さっていくだろうというところから企画を立案した」「挑戦する前に『好きなものが見つからない』とか、『先がないだろう』とか、自分の中で線を引いて一歩踏み出さないでいるみたいな若い方々が、この映画を観て『ちょっとやってみようかな』と思えるような、そういうエネルギーが迸った映画になるんじゃないか」と期待の声が上がった。新たな青春映画に向けて、静かに熱量の高い撮影現場となっていた。