お笑い芸人としてはもとより、これまでに日本アカデミー賞優秀助演男優賞(『決算! 忠臣蔵』に輝くなど、俳優としても多くの作品に出演し、評価も得ている岡村隆史(ナインティナイン)。

だがアニメ声優の経験はほとんどなく、公開中の映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』でアニメ映画の声優に初挑戦した。オファー快諾への後押しになったのは、自身の家族の存在だった。現在、54歳。50代で父になった岡村から、本作で映画館デビューしたというお子さんへの愛情がダダ漏れてきた。

  • 岡村隆史

    岡村隆史 撮影:望月ふみ

初めて行ったアンパンマンこどもミュージアムが出演の決め手に

――絵本の世界でばいきんまんとルルンの前に立ちはだかる「すいとるゾウ」の声を演じました。アニメ映画の声優が初とは意外です。

やっぱりプロの方がやったほうがいいと思ってたんですよ。専門職だし。そう思ってたんですけど、今回は『アンパンマン』やったからね。結婚して子どもができて、タイミングとしてもアンパンマンこどもミュージアムに初めて行ったあとに、このお話をいただいたんです。

――初アンパンマンこどもミュージアムを体験したあとに。

そうなんです。人生でアンパンマンこどもミュージアムに行くことも、もうないだろうと思ってたんです。50歳超えて、同級生と「ちょっとアンパンマンこどもミュージアムに行こうぜ!」とかって、ならないじゃないですか。いや、もちろんいいんですけど、なかなか僕が足を運ぶのは難しいなと思ってたんですが、家族が出来て行ってみて、こういう世界があるんだと。

そこかしこにアンパンマンの絵とかいろいろあるんで、子どもが「アンパンマ~ン!」って叫ぶんですよ。その時に自分も一緒に「アンパンマ~ン!」って言ってまうんです。そういう空間なんやなって。僕、普段はおとなしいって言われる人間なんですけど、いい意味でどさくさに紛れて(笑)。普通に「アンパンマ~ン!」って。楽しくて。こういう世界があるんだなと思っていたら、お仕事をいただいたんです。「やらせてください!」と即答でした。

――お子さんは今回の映画で映画館デビューしたとか。森の妖精・ルルン役の上戸彩さんは、子育てでは先輩ですね。

彩ちゃんからは、いろいろアドバイスをもらってます。「歯磨きがなかなかできなくて」と相談したら、「このスタイルで磨いてください」って、プロレスの技じゃないですけど、自分の足で子どもをホールドして、「ガッガッガッ」と素早く歯磨きするんです。それを彩ちゃんが「こんな感じで」とやってみせてくれて、「これが1番磨きやすいですよ」って。

――動ける余裕があると逆に危なそうですから、ホールドが一番いいんでしょうね。

歯は大切ですからね。「後で痛くなるよ」と言っても、子どもは分かりませんから。うちの子、前に歯の間にチキンがつまったことがあって、それから何かが挟まると口を指して、「チキン、チキン」って言うんです。何かつまってて気持ち悪いってことだなと。「じゃあ歯ブラシしてクチュクチュしないとね」と言うんですけど、いざ歯磨きとなると嫌がってカーテンの裏に隠れたりするので、めくって捕まえてホールドして歯磨きです。いま、逃げて隠れるのも楽しいみたいです。

“ホンモノの”アンパンマンに会った子どもの反応は?

――すっかりお父さんの顔ですが、ご自身が親になったり、『アンパンマン』と出会ったりしたことで価値観が変わったなと感じることはありますか?

岡村隆史

昔は楽屋に犬を連れてくるタレントさんとか、苦手だったんです。お子さんはしょうがないけど、犬とかは……と思ってて。それが、僕も現場に子どもを連れてきちゃったし、子どもだけじゃなくて、「犬も全然連れて来てください!」と思えるようになりました。

――現場に、というのはちなみに?

この映画の公開前に、PRでアンパンマンこどもミュージアムに行かせていただく機会があったんです。ホンモノのアンパンマンがいて、でも子どもはホンモノのアンパンマンが目の前にいるという現実が処理できなかったみたいで。喜んではいたんですけど、「アンパンマン……」って小さな声で最初ひと言、言っただけで、あとはじ~っと見てるだけだったんです。「アンパンマンだよ」と話しかけても、自分で持ってるアンパンマンのグッズを指して「アンパンマン」と。自分の手元にアンパンマンがいるのに、目の前にもアンパンマンがいることが処理できなくて。

――なるほど。

帰りにだんだん興奮してきて「アンパンマンいたね。アンパンマンいたね」と言い始めて、夜になって嬉しさがMAXでパニックになっちゃったんです。いつも興奮すると「お茶!」と言ってお茶を飲むんですけど、その時も「お茶、お茶」と騒ぎだしたので、お茶を渡そうとしたら「いらない!」となって、1時間半くらい頭をゴンゴン打ちながら床で転がり倒してました。

――それはよほどの興奮状態ですね。

アンパンマンに会えたことが嬉しいんだけど、自分のなかで整理できなかったんですよね。「ねんねしようか」と言っても、「ねんねしない、アンパンマンいた」ってずっと言ってました。すごいですよ、アンパンマン。

  • 岡村隆史

――最後に、そのすごい『アンパンマン』に登場するキャラクターの声を演じられた喜びを改めてお願いします。

お声がけいただいて非常に嬉しかったです。親になってみて、子どもが泣いている時とか、アンパンマンを見せるとすぐに泣き止んだりして、アンパンマンには本当に助けられています。いろんなメッセージの詰まった作品なので、まだ映画デビューされていない小さなお子さんがいらっしゃる方も、ぜひ一緒に観に来てもらいたいなと思います。僕個人としては、今はまだ子どもに理解してもらえるか分からないんですけど、「パパ、こういうお仕事してますよ」と言える仕事ができてよかったです。

■岡村隆史
1970年7月3日生まれ、大阪府出身。お笑いコンビ、ナインティナインとして第一線で活動を続けているだけでなく、司会や俳優業などでも活躍。俳優としての主な作品に『岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS』(96年)、『無問題』(99年)、『無問題2』(01年)、『踊る大捜査線』シリーズ(03年〜)、『妖怪大戦争』(05年)、『いけちゃんとぼく』(09年)、『てぃだかんかん~海とサンゴと小さな奇跡~』『シュアリー・サムデイ』(10年)、『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』(14年)、『決算! 忠臣蔵』(19年)など。映画『それいけ!アンパンマン ばいきんまんとえほんのルルン』で劇場アニメの初声優を務めた。

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