投資信託で得られる利益の中には、収益の一部を投資家に還元する「分配金」という仕組みがあります。では、分配金とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。今回は、投資信託の分配金について初心者の方にもわかりやすく解説します。分配金を受け取るべきかどうか、また分配金の注意点についてもお伝えしますので、分配金のことがよくわからない投資初心者の方はぜひご覧ください。

  • 投資信託の「分配金」とは? 受取り時の注意点は?【初心者向けに解説】(画像はイメージ / PIXTA)

■分配金の仕組みと種類

<分配金とは>

投資信託における分配金とは、運用によって得られた収益の一部を投資家に分配するお金のことです。

分配金と混同しやすいものとしては預貯金の「利息」がありますが、分配金と利息は異なるものです。まず、預貯金の利息はあらかじめ決められた利率に基づいて支払われますが、分配金は金額が決まっているものではなく、運用状況によって増減し、支払われないこともあります。

それに、預貯金の利息は元金に加えて別途支払われますが、分配金は投資信託の「純資産」から支払われるため、支払われた分配金の分だけ運用資産は減少します。

また、分配金を株式投資における「配当金」のようなものと理解する人もいるでしょう。投資信託の分配金と株式の配当金は仕組みは似ていますが、全く同じものではありません。

株式の配当金は、企業が事業から得た利益の一部を株主に渡すものであるのに対し、複数の株式や債券に分散投資する投資信託では、株式の配当金や株式・債券の運用益など全ての利益から分配金が支払われます。

投資信託の分配金と株式の配当金は仕組みは似ていますが、お金の出どころや内訳が違うのです。

<分配金の種類>

分配金は必ず出るものではなく、投資信託のタイプによっては分配金が支払われないものもあります。たとえば、「資産成長型」などの分配金が出ない、または少ないタイプの投資信託は、分配されるはずだった分が運用資産に組み込まれて(再投資されて)運用されます。

また、分配金には2つの種類があります。1つは「普通分配金」、もう1つは「元本払戻金(特別分配金)」です。普通分配金は、運用で得られた利益を投資家に支払うものです。こちらは利益ですので、所定の税金がかかります。

一方、元本払戻金は利益ではなく、元本の一部を投資家に返す仕組みです。これは個別元本を下回る部分から支払われる分配金で、払い戻された元本払戻金の額だけ基準価額(投資信託の値段)は減り、運用資金が減少します。元本払戻金は元本の一部が戻ってきただけで利益ではありませんので、課税はされません。

■分配金は受け取るべき? 分配金ありの商品・なしの商品のメリットとデメリット

投資信託には「分配金ありの商品」と「分配金なしの商品」がありますが、どちらの商品を選ぶのがいいのでしょうか。「分配金がもらえたほうがお得なはず」と思うかもしれませんが、実際はそうとも限りません。分配金ありの商品、分配金なしの商品それぞれのメリットとデメリットを見てみましょう。

<分配金ありの商品のメリット・デメリット>

・メリット

分配金ありの商品のメリットは、定期的に現金の収入が得られることです。分配金を受け取るタイミングは、投資信託の種類によって年1回、2回、4回、隔月、毎月など複数のパターンがあります。

投資信託という商品は本来、どれだけの利益が出るのか、そもそも利益が出るかどうかは、投資信託を売却する時までわかりません。投資信託を購入し、それ以降の保有期間中ずっと上がり調子だったとしても、売却の直前に急激な価格変動が起きてしまえば、それまでの利益がゼロになってしまう可能性もあります。

そのため、長い期間をかけてコツコツ積立を続けても、売却時にほとんど利益が出なかったという事態もあり得ないわけでありません。分配金は、投資信託のそういった不安定さをカバーしてくれる役割があります。「分配金ありの商品」を選べば、投資信託の保有期間中、定期的に現金を受け取れる可能性があるからです。

なお、最近では、基準価額の水準によってあらかじめ支払われる分配金が決まっている「予想分配金提示型」という投資信託も登場しています。これは、運用成績が良い時には分配金が多く支払われ、悪い時には分配金が減る、もしくは支払われないという仕組みの商品です。

予想分配金提示型の商品なら、分配金の払い過ぎによって運用資産が減り過ぎてしまわないような設計になっています。ただし、分配金を受け取ればどうしても運用資産は目減りしますので、分配金なしの商品と比べると運用効率は下がってしまいます。

・デメリット

分配金ありの商品のデメリットは、「分配金なしの商品に比べ、売却時に受け取れるトータルの利益が少なくなる可能性が高い」という点です。

なぜなら、分配金を受け取ると「複利効果」が得られにくいからです。複利効果とは、運用で得た利益を再び投資することで、利息が利息を生み膨らんでいく効果のことです。しかし、運用益の一部を分配金として受け取ると、その分投資に回せるお金が少なくなるため、複利効果は得られにくくなってしまいます。

分配金を受け取らない場合、複利効果によって資金が雪だるま式に増えていくのに対し、分配金を受け取る場合は小さな雪だるましかできず、分配金の比率によっては雪だるまが作られない(複利効果がない)という事態もあり得ます。

投資信託の分配金は決済後に受け取れますが、分配金として受け取った分は再投資されないため、決済日以降に基準価額が上がった場合、分配金なしの商品と比べると金額が低くなります。複利効果は運用期間が長くなるほど大きな効果を発揮しますので、長期投資を考えている場合は、分配金の受け取りには特に注意が必要です。

また、分配金を受け取ると基準価額が下がります。これも、分配金ありの商品でトータルの利益が少なくなりやすい要因の一つです。

投資信託の分配金は、そのファンドが保有する純資産から支払われます。分配金ありの場合、決算のたびに分配金の支払いによって純資産が減少することになり、それと同時に投資信託一口あたりの値段である基準価額も下がります。

分配金ありの商品は、分配金の支払いで決算のたびに基準価額が下がるので、分配金なしの商品と上昇率が同じでも金額に差が出てしまうのです。つまり、分配金ありの商品は基準価額が上昇しにくい商品、運用成績が伸びにくく利益が増えにくい商品と言えます。

<分配金なしの商品のメリット・デメリット>

・メリット

分配金なしの商品のメリットは、複利効果が得られ、効率的に資金が増やせる点です。たとえば、100万円を年利3%で10年間複利運用すると、10年後には134万4,000円となり、運用しなかった場合と比べて34万4,000円もお金を増やすことができます。

特に、老後資金など、長い期間をかけて大きな資金を準備したい場合、複利効果による効率的な資産形成は欠かせません。分配金なしの投資信託なら、定期的な分配金は受け取れない代わりに、将来的な資産をどんどん育てることができます。

・デメリット

分配金なしの商品は、将来的な資産を増やせる可能性がありますが、売却するまで利益を手にできない点はデメリットです。そのため、長期の運用期間の中でモチベーションが保てなくなり、途中で解約してしまう人もいるかもしれません。また、ファンドの運用成績や売却のタイミングによっては損失が出る可能性もあります。

分配金を受け取らない分、複利効果によって効率良く資産を増やせるチャンスはありますが、だからと言っていくらの利益が出るか、また利益そのものが出るかどうかは売却の時までわかりません。

「分配金を受け取らない代わりに必ず利益が出る」というわけではありませんので、その点を理解しておきましょう。

■分配金に関する注意点2つ

ここまで、分配金ありの商品と分配金なしの商品、それぞれについてメリット、デメリットを解説しました。定期的に現金収入を得たい場合は分配金ありの商品、長期投資を前提として将来的な資産を増やしたい場合は、分配金なしの商品を検討するといいでしょう。

ただし、分配金については他にも注意したい点があります。分配金に関する主な注意点を2点ご紹介します。

1.分配金が多い投資信託が良いとは限らない

分配金のある商品を選ぶ場合、「せっかくなら分配金の多い投資信託を選んだほうがいい」と考えるかもしれません。しかし、分配金の多い投資信託が必ずしも良い投資信託とは限りません。

分配金が多く支払われていても、それが将来にわたって継続するかどうかはわからないからです。過去の運用実績や分配金の内訳、分配金の金額などについて総合的に判断する必要があります。

2.普通分配金は再投資でも課税対象になる

もう一つ注意したいのは、税金についてです。先ほどもあったように、普通分配金は収益ですので、その全額が課税対象となります。また、普通分配金を受け取らずに再投資した場合でも、分配金を一度受け取ったと見なされます。そのため、実際に再投資に充てられるのは、税金分を差し引いた金額となります。なお、元本払戻金については非課税です。

■まずは投資信託を運用する目的を考えよう

分配金を受け取るか、それとも受け取らずに再投資するのがいいか迷いますが、どちらが正解ということはありません。投資家それぞれの投資スタイルやライフスタイルによって変わるものですので、まずは投資信託を運用する目的を考えてみるといいでしょう。

分配金ありの商品を選択した場合、分配金が多く支払われる商品の方が良いというわけではない点に注意が必要です。一方、分配金なしの商品を選択した場合、分配金を受け取らなくても実際には受け取ったものとして税金がかかり、税金分が引かれて再投資される点に気を付けましょう。