新たなフェイズに入ったランボルギーニ|ハイブリッド化されたレヴエルトのパフォーマンスを試す

ランボルギーニのフラッグシップといえば、自然吸気式V型12気筒ユニットをミドシップマウントするスーパースポーツ。その祖に名作”クンタッチ”の名が挙げられるように、基本は常に前衛的かつ超高性能、しかも先進技術にチャレンジする姿勢が伺えたが、最新作となるレヴエルトは遂にハイブリッド化され、そのパフォーマンスも大台を超える1015psを実現した。

【画像】アジアで初となるランボルギーニレヴエルトの試乗会が富士スピードウェイで開催(写真9点)

しかし、スポーツモデルにとってもっとも避けたいのは重量の増加。そのリスクを負ってでもハイブリッド化に踏み切ったのは、なんとしてでも12気筒エンジンの搭載を貫きたかったに違いない。今やフラッグシップといえども12気筒である必要はないし、同じパフォーマンスをV8+電気モーターで実現することは決して難しくないとわかっていてもV12を諦められなかったのは創始者と歴史への敬意なのだろう。新たなエアロダイナミクスに対する試みを繰り返してきたそのスタイリングも同様。クンタッチの面影を残すように跳ね上げ式を採るシザードアを継承するほか、所々にディアブロやムルシエラゴにインスパイアされたディテールを盛り込むなど、あくまでも正常進化版であることを主張する。

今回、このレヴエルトが日本に上陸したことに合わせて富士スピードウェイにてプレス向け試乗会が行われ、そのパフォーマンスを体感することができたのだが、分かっていても最初に驚くのは、ピットレーンを無音で走行していく姿。かすかにインバータの音こそ聞こえてくるものの、V12の雄叫びのような爆音が聞けないのは、寂しさを覚えるというよりも新時代を実感した。そしてこれが正解であることも深く思い知らされた瞬間となった。

パワートレインは、6.5リッター自然吸気式V型12気筒エンジンに3基のモーターを加えたプラグインハイブリッド。ランボルギーニはこれをHPEV(ハイパフォーマンスEV)と呼び、フロント側に2基、1基はエンジン後方に8速DCTと一体化して搭載する。即ち、これまでとV12ユニットは180度向きが変えられ、クンタッチ以降、続けられてきたトランスミッションが収められた場所(センタートンネル)にはリチウムイオンバッテリーが置かれているのが特徴である。

今回、筆者の興味として真っ先に知りたかったのは、旋回時における前後トルク配分と重量バランス、そしてトルクベクタリングによるサポートと、ハンドリング特性であった。すでに他車でも見られる手法ゆえに、フロントモーターのみの駆動によるAWDシステムの優位性や、電子デバイスが多用されたことでアヴェンタドールから乗り換えても違和感なしに受け入れられるのかが気になっていた。

コースインしてまず実感するのは、頼もしさをも思わせる膨大なトルク感と狙い通りに実現するノーズの入りの良さだった。エンジンの最大トルクは725Nmとそれだけでも十分だが、これにフロントモーター側のトルクが加わることによって、アヴェンタドールよりもはるかに安定して素早くコーナーを脱出できることを確認した。それもそのはず。そのフロントモーターは最大350Nmのトルクを発揮するというから納得。それでもリア側から押し出される強烈な加速感が先立つからミドシップらしい豪快さも併せ持つ。

コーナーではノーズが入ってから脱出まで素直かつ秀逸で、ストラーダモードはもちろん、スポーツモードやコルサモードまでその名に相応しい特性でハンドリングを楽しませてくれる。中でもコルサモードはタイムアタックにも適しているように、旋回中の姿勢は抜群。フルパワーを活かすうえ(ドライブモード毎に出力値は変わる)、綿密に計算されつくされた4WS(後輪操舵)の効果が重なることもあって、車両と真剣に向き合いたくなること確実。わずかなアクセルコントロールにも敏感に反応し、ステアリング操作では適度な重みが加わることで微調整が容易かったことも加えておきたい。ましてやパドルシフトによる反応や変速スピード自体も劇的に早くなっているから、ロードカーとしてはかなりメリハリの効いた走りを超高速域で実現できる。

新たな可変式リアウイングの効果も相まって、車両が安定しすぎているせいか、富士スピードウェイのホームストレートで250km/hを超えても恐怖心がまったく芽生えなかったのだが、それよりもこの時、想像を超えるほど乗り心地が良いことが際立った。ランボルギーニとブリヂストンが共同開発したという、レヴエルト専用のポテンザ・スポーツは、スポーツタイヤにありがちな、お決まりのフレーズが並べられているが、基本的に主張すべきはこれがランフラットタイヤであるということ。高次元でのグリップ力や優れた直進安定性はレヴエルトが掲げる、350km/hの最高速度と、わずか2.5秒という0→100km/h加速から察することができる一方で、これをランフラットタイヤで実現したことこそ注目すべき。だから、これだけ乗り心地が良いのだと後に納得してしまったくらいだ。

無論、ランボルギーニらしく軽量化には抜かりない。V12エンジンはアヴェンタドールよりも17kg軽量、8速DCTのシャフトは通常の3本ではなく2本に抑えることで小型化を図ったほか、レヴエルトのために新たに開発したカーボンモノコックシャシーも10%ほど軽量化されている。それにも関わらず、体感的にはアヴェンタドールと比較すると、特に加速時は、とても軽快と言えないのは事実(ドライウエイトで1772kg)。これはセンタートンネル内に収められたバッテリーパックがそもそもの要因なのは間違いないが、もはやこれはハイブリッド車の宿命。逆に言えば低重心化に貢献していることのほうが効果は大きいと受け止めれば納得できるし、これに納得しなければ今後のスポーツモデルを受け入れにくくなる。

そうとはいえ、トータル的に見れば、レヴエルトは極めて完成度が高いのは確かだし、恐ろしいほど速く安定している。クンタッチからディアブロ、ムルシエラゴからアヴェンタドールを経て、レヴエルトが生まれたという事実を今回の試乗であらためて認識できた一方で、このレヴエルトから完全に新たなフェイズに入ったことも思い知った。まさに”進化から革新”。カーボンニュートラルの実現という前提がつくとはいえ、V12を搭載するミドシップスポーツモデルが自宅のガレージで充電する姿は新鮮そのもの。ゼロエミッションを可能にする「Citta=シティ」モードが新たに設けられ、それがデフォルトゆえに自宅から無音で出発できる時代になったのである。実に感慨深い。

文:野口 優 写真:ランボルギーニ

Words: Masaru NOGUCHI Photography: Lamborghini