今年も蒸し暑い季節がやってきました。
この季節になるとなぜか無性に食べたくなってくるのが「鰻(うなぎ)」ではないでしょうか。
そうです、もうすぐ土用の丑(うし)日がやってくるんです。1年に四回訪れる土用の期間ですが、今年は夏の土用(7月19日~8月6日)では丑の日が2回巡ってきて、1回目(「一の丑」)は7月24日(水)、2回目(「二の丑」)は8月5日(月)にあたります。

  • 画像はイメージ(pixta)

とはいえ一般庶民にとっては、うなぎはなかなか手の届かない高級食材に変わりはありません。
うなぎ専門店は敷居が高くてなかなか暖簾をくぐる勇気が出ないという人も多いでしょう。

そんな庶民の熱い想いに応えてくれているのが、ここ数年、注目度急上昇中の「外食チェーンのうな丼(うな重)」です。
各社の企業努力のたまもので年々レベルが上がっているという噂をよく耳にします。

私自身も昨年慣れ親しんだ外食チェーン店で恐る恐るオーダーしてみたら、「あれ、うまい!」と想定外の美味しさに驚いた記憶がよみがえってきます。
さて、物価高騰が叫ばれる2024年の夏もリーズナブルな価格で美味しい「うな丼(うな重)」が食べられるのでしょうか? 

  • 「外食チェーンのうな丼チェック2024」中西純一実行委員長

そこで、昨年までの4回「鰻と丼の情報発信サイト」で開催された「外食チェーンのうな丼チェック」は、今年から外食チェーンの「うな丼チェック実行委員会」が主催者となり、第1回から主催を務める中西純一実行委員長(恒健社書籍編集部編集長)に 2024年の外食チェーン店が提供する「うな丼(うな重)」事情と展望について直撃してきました。(※「鰻と丼の情報発信サイト」は現在は閉鎖され 、残念ながら過去記事は見られなくなっています)

■―そもそもなんで毎年この季節にうなぎが盛り上がるのでしょうか?

古来から夏の土用には「うどん」「梅干し」など、「う」の付くものを食べる習慣があり、江戸時代の中期以降に蒲焼きにしたうなぎを丼にのせて食べる「うな丼」が発明されてから、「うな丼」も土用の丑の日に食べられるようになったそうです。

よく、平賀源内が言い始めたという話しが流布していますが、具体的に平賀が言い始めたという記録は残っていないようです。

あくまでも私の憶測でしかないのですが、最も暑い時期にあたる土用の丑の日に、
実際に「うな丼」を食べた人が、夏バテを解消できたという実感があるからこそ、今でも続く季節の習慣になっているのではないでしょうか。
効果がなければ、毎年この時期に食べ続けようとは誰も思わないですよね。

1990年代になってファミリーレストランチェーンでもうな丼をメニュー化、2000年代に大手牛丼チェーンでも「うな丼」がメニューに入るようになったことや、大手コンビニでも土用の丑の日にうなぎ弁当を販売するようになったことで、土用の丑の日がより一層イベント化していったのだと考えられます。

外食チェーンではどうしても保存や加工のしやすい肉料理のメニューが主体となってしまいがちですが、うな丼の登場で魚料理が提供でき、肉料理や揚げ物が苦手な年配者がいたとしても、うな丼なら美味しく食べられるというメリットがあるのです。

■―「外食チェーンのうな丼チェック」企画を実施している目的や実際の過去開催時の反響はいかがでしょうか?

「鰻と丼の情報発信サイト」を立ち上げて、丼の歴史について興味を持ちました。
世界文化遺産にも登録されている和食の中でも、丼は日本独自の食事で、ご飯の上に調理した魚や肉にうま味成分のあるタレをかける「丼文化の歴史」の始まりが「うな丼」なんです。近年になって江戸時代の食文化の専門家である服部栄養専門学校講師の飯野亮一先生の研究で明らかになったことを知りました。

反面、この十数年は鰻が高騰して、若い方ではうな丼を食べたことのない人もいると聞いて、 若い世代にも気軽にうな丼を食べて貰うきっかけを作れないかと考えたのです。 流石にうなぎの専門店では価格が高くなってしまうため、若者が食べられる価格帯で提供している外食チェーンに絞って、
味だけでなく蒲焼きの重さや大きさ、ご飯の量も見える化することで、
一人でも多くの若い方々にうな丼を食べてもらうきっかけになればと思って、この企画をはじめました。 味の評価だけにしなかったのは、 若者は味の優劣よりも、量やボリューム感が大事だったりしますからね……。

はじめるまでは、鰻業界の方々に聞いてみると、外食チェーンのうな丼は味も量も、どのチェーンでもほぼ同じだと言う人がほとんどでした。
しかし、私が実際に各社のうな丼を買い求めて、量や味を比較して見ると、かなりの違いがあることが分かったんです。
それで鰻業界のプロの方々に集まって貰うことにしたのです。

会社名や店名が分かると、どうしても忖度が働く可能性があるため、当初から会社名やブランド名が分からないようにして、 食べ比べる「ブラインドチェック」で行うことで、先入観無しに外食チェーンの各社の「うな丼」を客観的に評価することにこだわりました。

一回目の開催より、二回目、三回目と回を重ねる毎に、評価結果を掲載しているサイトへのアクセス数が年々増えましたし、リリースした内容を転載してくれるメディアもどんどん増えていきました。
また、鰻業界はもちろん水産業界や、評価対象になった外食チェーン側でも開発担当者や広報担当者が毎年評価結果を見て頂けるようになったというのは、 色々なルートで耳に入っています。鰻業界でも水産業界でも、ブラインドチェックで一番美味しいと評価された外食チェーンのうな丼を食べてみたいと考えるのは、 当然の心理ですよね。

■―「外食チェーンのうな丼チェック2023」を振り返って、昨年までの外食チェーンの「うな丼(うな重)」事情はいかがでしたでしょうか?

  • [表:鰻と丼の情報発信サイトのリリース記事からの転載「2023年の評価結果の集計表」]

一回目に開催した時は、細かい所で一部のうな丼は、鰻専門店とは蒲焼きの切り方からタレの味付け等には、大きな開きがありました。
やはりうな丼として食べている我々からすると、鰻専門店で食べるうな丼が頭にありますから、外食チェーンはチェーンレストランとしての価格帯や厨房スタッフの調理オペレーションという鰻専門店とは違う課題があり、どうしても平均的な調理になってしまいます。しかし「うな丼」としての完成度を高めて頂きたいという鰻のプロ達は、そのあたりの違いで評価点数が低くなってしまっていることを指摘しました。すると、外食チェーン側でも翌年か翌々年には指摘された問題を解決していて、うな丼がどんどん美味しくなってきているんです。

「外食チェーンのうな丼チェック」の実施によって、各社の蒲焼きの大きさや重さ、ご飯の量という数字の他に、評価方法として「蒲焼きの外観と味を分けている」ことで、どこを改善すれば他社より高く評価されるかということが数字で分かるのも、外食チェーンの開発者側にも届いているのではないでしょうか。

一昨年の2022年は主要各社が軒並み蒲焼きの大型化・重量アップを行い、2021年よりも明らかに見た目のボリューム感が増しました。 昨年の2023年は蒲焼きの四度焼き製法が取り入れられ、「四度焼き」しているうな丼が上位に入りました。
意外と気がつかないのですが、ご飯についても外食チェーンは各社とも微妙に味が変わっていることです。 実はこれが「うな丼」としての完成度に影響を及ぼしています。特に「うな丼」の場合は、「タレとの相性が良いか」が大変重要になります。
例えば牛丼チェーンでは、本来は牛丼に合う米を使うのが飲食店としては本筋ですので、
それがうなぎのタレと合うのかという難しい課題があったりしますので、実はご飯の味も重要な評価の要素になっています。

■―「外食チェーンのうな丼チェック2024」についても言える範囲で教えてください。

過去のうな丼チェック評価会で評価員をしていただいた経験者に評価委員長になってもらうことが決まっており、評価委員長と協議して関東では名店と呼ばれる鰻店から評価員を選ばせて頂きました。これまでは高齢の評価員が多かったのですが、今年は少し若返りをはかり、はじめて女性にも入って貰うことを考えています。

評価会で審査する「うな丼やうな重」に関しては、日本全国で食べられる最大手のファミレスチェーン、牛丼チェーン、回転寿司チェーン、
持ち帰り弁当チェーンなどで食べ比べした中で、1,000円前後で食べられる美味しくてテイクアウト可能な商品に絞る作業を6月末までに実施しました。
今年は円安や人件費の高騰という背景もあり、6月末の段階で各社とも昨年よりも10円から100円の値上げが行われています。

「毎年開催して意味があるのか」を評価員の皆さんとも毎回語り合うのですが、実際に毎年行ってみると外食チェーンではうなぎの調理方法やタレについて新しい工夫がされていて、結果として毎回前年とは違う順位になってきています。
特に養殖鰻の世界的な産地である中国も2022年12月にゼロコロナ政策を解除しているので、昨年からは日本からも開発担当者が訪中して調理工程やタレの改善を行ったと思われます。 そのバージョンアップした商品がまさに今年の「土用の丑の日」に向けて発売されるためぜひ期待して頂ければと思います! 今回の「外食チェーンのうな丼チェック2024」の見どころは、大手の外食チェーン各社がしのぎを削って企業努力を行っている「うな丼やうな重」の調理方法とタレの変更が評価に関わってくると考えています。期待していてください!

■―中西さん、ありがとうございました!

中西さんが、いかに外食チェーンの「うな丼」を愛しているか伝わってきました!
ぜひ「外食チェーンのうな丼チェック2024」についてもレポートできればと思います!