「日本の若者」は「倹約思考」? 将来への不安から浪費に走る「破滅的消費」…アメリカで社会問題化するムーブメントを専門家が解説
モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜~金曜6:00~9:00)。7月3日(水)の放送は、お休みのユージに代わって、照英さんが代演パーソナリティを担当。今回のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「アメリカで社会問題化する『破滅的消費』。一方、日本は?」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。


※写真はイメージです



◆アメリカの若者の間で広がる「破滅的消費」

三菱総合研究所政策 経済センターの研究員・田中嵩大さんによりますと、アメリカでは、今を楽しむために浪費を重ねる「破滅的消費」が社会問題化しているということです。

吉田:「破滅的消費」という聞き慣れない言葉ですが、どのようなことでしょうか?

塚越:お話のあった三菱総合研究所の田中嵩大さんによれば、破滅的消費(Doom Spending)と呼ばれる行動について、明確な定義はないものの、例えばアメリカの大手総合情報サービス「ブルームバーグ」では「若い世代が、自分たちの経済状況が絶望的だと考えて浪費すること」と表現しています。

コロナ禍をきっかけに住宅や生活用品など、あらゆるモノの価格が上昇し、労働市場も変化しています。こうした要因から自分が生きる社会を悲観して、場合によっては住宅購入や結婚を諦めてまで、モノをたくさん買う、あるいは宝石などの贅沢品を浪費して不安を紛らわせようとすることが「破滅的消費」と言えます。

◆Z世代・ミレニアル世代は約7割が「自身の経済状況を不安視」

吉田:この「破滅的消費」がアメリカで社会問題化しているということですが、これにはどのような背景があるのでしょうか?

塚越:やはり、アメリカの若年層の間で経済的不安が高まっていることが挙げられます。金融企業「クレジットカルマ」が2023年におこなった調査によると、Z世代やミレニアル世代(※1981〜1990年代中頃までに生まれた世代)では、自分の経済状況を不安視する割合がおよそ7割と、全世代の中でも最も高いということです。

同じくコンサル企業の「デロイト」がおこなった調査でも、Z世代とミレニアル世代のおよそ半数以上は、将来的に結婚や住宅購入は難しくなると回答しています。簡単にいえば、将来への不安というストレス緩和のために破壊的消費をおこなっており、こうした世代(わかりやすく言えば20~30代)のおよそ4割はクレジットカードなどを使いすぎるといった、破壊的消費の傾向が見られるということです。

◆日本の若者は倹約傾向?

照英:アメリカでは若者が「破滅的消費」に走っているようですが、日本でも同じような現象は起きているのでしょうか?

塚越:日本も基本的にはアメリカと同じで、住宅価格や生活用品の値段が上がって、雇用や収入も不確実性が高いです。内閣府の「社会意識に関する世論調査」によれば、経済的なゆとりと見通しが持てないと回答した20~30代は、2022~2023年と大きく増加しており、物価高騰で若者の経済的不安が広がっていることは間違いありません。

一方で、日本の若者はアメリカの若者のような「浪費」に関しては、マクロな現象としては見られていません。先ほどの内閣府の調査でも、「将来に備えるか? 毎日の生活を充実させて楽しむか?」という質問に対しては、「将来に備える」と回答した割合が、若者を含めてコロナ禍後は大きく増加しています。

つまり、コロナ後の日本では、今より将来に備える「倹約傾向」が増えているということです。これは2008年の世界金融危機(リーマンショック)の後にも見られるもので、日本は経済危機に直面すると倹約傾向になる。これは何となく分かるかなという気がします。

照英:経済的不安に対する消費行動が、日本とアメリカで異なるのは、どうしてなのでしょうか?

塚越:まずは国民性の違いです。一般的に言われるような、消費が美徳と考えるアメリカと、貯蓄が美徳と考える日本の違いがあります。ただ他にも、コロナに関係なく日本はバブル崩壊後の長期低迷や、少子高齢化による不安など、さまざまな要因があり、アメリカ以上に日本は不安が大きいのかなと思います。

経済が不安だから破滅的消費が増えるアメリカと、倹約志向の日本だと、日本のほうが健全とも言えますが、消費が縮小し続けると国内経済も冷え込むことになります。消費を過度に抑制すると、さまざまな経験もできなくなります。

昨今は、特に子どもの教育に関して「体験格差」という、幼い頃の学校以外での体験の問題が指摘されています。子どもへの投資は倹約しないという家庭も多いと思いますが、20代などの大人になった後も、例えば海外旅行のような体験をする・しないで、体験に関する差が出てしまう可能性もあります。

◆アメリカの雇用市場は活況 「給与のいい企業に転職しやすい」ことで不安も和らぐ?

照英:アメリカの「破滅的消費」と日本の「倹約傾向」。塚越さんはどう思われていますか?

塚越:この問題ですが、ニューヨークに拠点を置く経済メディア「ビジネスインサイダー」の記事によれば、アメリカのZ世代は、他の世代よりも経済について楽観的にみている、というレポートもあります。

これは雇用市場が活況であるため、賃金の良い職業に転職できるなどの柔軟性があり、日本に比べると景気が良くなるのでは? という希望が持ちやすいのではないかと思います。

このようなことを考えると、破滅的消費はまずいですが、健全な消費も多くあると考えられます。ここはやはり日本とは異なります。日本では特に若い世代に経済的不安を抱えている人が多いので、そこを根本的に何とかしなければいけないのですが、なかなか難しいところだと思いますね。

照英:消費が美徳と考えるアメリカ、貯蓄が美徳と考える日本ということで状況は異なりますが、ちょっと考えていかないといけませんね。


(左から)吉田明世、塚越健司さん、照英さん



<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜~金曜6:00~9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/