歯周病は、心血管疾患や糖尿病、呼吸器疾患など多岐にわたる全身疾患のリスクを高めることが知られています。全身の健康維持のためにも大切な歯の健康について、予防医療の観点からわかりやすく解説します。

「歯の全身の健康は、なんとなく関係がありそうだけど、よくわからない」

歯と健康の関係についてお話する際に、よく言われる言葉です。歯や口と全身の健康に密接な関係があることは、実は医療者にはよく知られています。

筆者は救急現場で医師をしていた際に、何度も入退院を繰り返す患者さんを見てきました。治療しても治療しても、原因となる病気があるためにさまざまな症状を繰り返してしまうのです。そして、そういった患者さんは、日常的な歯磨きが十分でないなど口内の状態がよくなく、歯のメンテナンスもできていないという共通点がありました。

その経験を通じて、全身の健康を守るためにも、多くの方に歯の健康管理の大切さを知っていただければと思います。

歯茎からの出血は歯周病? 歯周病が原因でリスクが上がる主な病気

歯磨きをしたときに、歯茎から出血することはありませんか? 特に歯周病がある場合、歯茎からの出血は珍しいことではありません。しかしよくよく考えてみると、口内ほど日常的に出血する場所は、他にはないのではないでしょうか?

忘れがちですが、出血した部位も、体の他の部位へと流れていく血管とつながっているわけです。口内は出血を起こしやすい上に、菌などが血管から血流に入り込みやすく、炎症や感染などを引き起こしてしまうことがあります。歯茎の出血に関連して起こる可能性がある病気を挙げてみましょう。

◇心筋梗塞や脳梗塞などの心血管疾患

歯周病菌が血流に入り込むことで、動脈硬化を促進し、心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まる可能性があります。

◇糖尿病

歯周病と糖尿病はお互いを悪化させることがわかっています。糖尿病になると、心臓や血管、神経や腎臓などにも悪影響を及ぼします。

◇肺炎や慢性閉塞性肺疾患などの呼吸器疾患

歯周病菌が気道に入り込むことで、肺炎や慢性閉塞性肺疾患のリスクが高まるとされています。

◇早産・低体重児出産のリスク

歯周病が原因で体内に入った細菌が、胎盤を通過し、早産や低体重児出産のリスクを高める可能性があります。

◇関節リウマチ

歯周病菌が関節に移行することで、関節リウマチを引き起こす可能性があると考えられています。

◇がん

口腔内の慢性的な炎症が、がんのリスクを高める可能性が指摘されています。

「歯茎から少し血が出ただけ」と軽く捉えられがちですが、このように口内の傷がきっかけで、全身の病気が引き起こされる可能性があるのです。

歯周病のセルフチェック法・歯周病リスクが高い状況は?

歯周病を簡単にセルフチェックする方法は、歯磨き粉を吐き出したときの色を見るだけです。歯磨きによる歯肉からの出血があり、歯磨き粉が「赤く」なっている場合は、歯周病である可能性があります。

また、40~50代で定期的な歯のメンテナンスを受けていない方や、1~2年歯科医院に行っていない方も、歯周病の可能性があります。

当てはまる方は、まずはお近くの歯科医院で検診を受けてみてください。

歯周病を予防するために大切な3つのポイント

◇1. 適切な歯磨き習慣

歯周病を予防するためには、適切な歯磨き習慣が欠かせません。特に以下の点に気をつけましょう。

・歯と歯肉の境目を中心に丁寧に磨くこと

・デンタルフロスを使用して歯と歯の間の清掃を行うこと

・歯ブラシは3~4ヶ月ごとに新しいものに交換すること

・就寝前の歯磨きは欠かさず行うこと

◇2. 定期的な歯科検診

歯周病を早期発見し、適切な治療を受けるために、定期的な歯科検診は非常に重要です。歯周病は徐々に進行するため、初期段階では自覚することができません。

しかし、放置すると歯を支える歯肉などの組織が破壊され、最悪の場合は歯を失うこともあります。

歯科医師による専門的な検査を定期的に受けることで、初期段階で発見できます。検査では歯周ポケットの深さを測定したり、レントゲン検査で歯周組織の状態を確認し、歯周病の進行度合いを確認できます。

早期発見・早期治療により、歯をいつまでも失わず、全身の健康を保ちましょう。

◇3. 適切な食事と噛む習慣

食事面では、歯茎に刺激を与えず、虫歯や歯周病のリスクを高めない食材を選ぶことが大切です。例えば、以下のような食品は過度にとりすぎるのは避けた方が良いでしょう。

・軟らかく噛む必要のない食品(お菓子、パン、麺類など)

・酸性の強い食品(柑橘類の果物、ドレッシングなど)

・糖分の多い食品(菓子、ジュースなど)

代わりに、歯を適度に使って噛む必要のある食材を意識的に取り入れましょう。

・野菜、果物(リンゴなど)

・魚や肉

・全粒粉の食品

しっかり噛むことで唾液の分泌が促され、口腔内の自浄作用が高まります。また、歯周組織への適度な刺激が血行を良くし、健康な歯周組織を維持するのに役立ちます。

歯周病リスクを下げることは、健康を維持する鍵!

適切な歯磨きと定期検診、さらに食事と噛む習慣を心がけることで、歯周病のリスクは下げられます。歯の健康を守ることで、全身の病気予防につなげることができるのです。

健康な歯は、美しい笑顔だけでなく、健康な身体を維持するための鍵となります。医師として、皆さんには歯と全身の健康を大切にしていただきたいと心から願っています。

◇各務 康貴プロフィール

予防医療・内科・救急を専門とする医師。救急医療や在宅医療の現場に従事する中で、予防の重要性や予防に取り組んでもらう難しさを痛感。マウスピース歯科矯正hanaravi(ハナラビ)を提供する株式会社DRIPSを創業。歯科と医科を繋げるリリモアクリニック内科歯科の院長を務めながら、予防医療について幅広い情報発信を行っている。

文=各務 康貴(医師)