第83期順位戦B級2組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、2回戦計13局の一斉対局が7月10日(水)に各地の対局場で行われました。このうち東京・将棋会館で行われた伊藤匠叡王―郷田真隆九段の一戦は伊藤叡王が118手で勝利。開幕2連勝として昇級に向け前進しました。

連勝スタートはどちらに

ともに白星スタートの両者。伊藤叡王が珍しく早い段階で雁木の構えを表明して始まった本局は郷田九段が矢倉で応じる相居飛車戦へ。先手の郷田九段は右辺の銀桂をすばやく活用して先攻を目指します。対する伊藤叡王もタイミングを見計らって左辺からの攻め合いに出ました。

夕方、一手一手の進行がズシリと重くなるのは順位戦らしい時間の進み方。やがてリードを奪ったのは伊藤叡王でした。自陣に作られた馬を出し抜くように二枚換えを決行したのが、駒得重視の手厚い指し回し。戦いが長引けば持ち駒の多さを生かした体力勝ちが望めます。

お手本通りの寄せ手順

6筋に飛車を飛び出した伊藤叡王はその後も軽快な手順で郷田玉への寄せの網を絞ります。金銀2枚を差し出して飛車を手にしたのが「終盤は駒の損得より速度」の格言を地で行く決め手。守備駒をはがしながら二枚飛車の攻めが実現したことで攻めが切れなくなりました。

自玉の受けなしを認めた郷田九段は最後の王手ラッシュに乗り出しますが、一分将棋のなかでも伊藤叡王の読みは正確でした。終局時刻は23時42分、後手玉への詰みなしを認めた郷田九段の投了により伊藤叡王の連勝スタートが決まりました(郷田九段は1勝1敗)。

全体を振り返ると、先攻を許しながらも好機の反撃で矢倉崩しを決めた伊藤叡王の距離感が光る快勝譜となりました。伊藤叡王の次戦の相手は、こちらも連勝スタートの屋敷伸之九段と決まっています。

水留啓(将棋情報局)

  • 伊藤叡王はタイトル獲得後2戦目にして初勝利でほっと一息(写真は第9期叡王戦五番勝負第5局のもの 撮影:編集部)

    伊藤叡王はタイトル獲得後2戦目にして初勝利でほっと一息(写真は第9期叡王戦五番勝負第5局のもの 撮影:編集部)