第72期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)挑戦者決定トーナメント準決勝、先手永瀬拓矢九段と後手鈴木大介九段の対局が7月5日、東京・将棋会館で行われ、117手で永瀬九段の勝利となりました。

永瀬拓矢九段と鈴木大介九段は互いに旧知の仲ですが、鈴木九段は、自身のX(旧・Twitter)で「永瀬さんとは最後の勝負になると思っている」と発言するなど、特別な気持ちでこの対局にのぞむ様子が伺えます。そのためか対局開始から緊張感が漂う一局となりました。

序盤では、永瀬九段が早々と右桂を跳ねたあと2筋から攻め込むなど積極的に攻めの姿勢を見せ、鈴木九段もそれに応じる形で互いに譲らない展開となりましたが、昼食休憩ごろには、先手の永瀬九段がやや有利といえる状況でした。

午後に入ると、鈴木九段が反撃を開始。敵銀の頭に桂馬を繰り出しました。ゆくゆくは自分の角を躍動させようという狙いがあります。ここで永瀬九段は自陣を引き締め、さらに3筋から歩を突いていきます。これに対し、後手は1筋に角を配置し、敵の飛車、銀をにらみます。しかし、永瀬飛車がすっと下がったことで局面は安定し、逆に鈴木角は窮屈な状態になります。さらに永瀬九段は相手角の向かいに角を配置し、狙撃手のように敵玉近くに狙いをつけます。

夕食休憩まではおもに盤面右側で戦いが進行。永瀬九段は飛車を犠牲にして入手したもう一枚の角で、敵玉に二重のビームを放ちます。しかし、AIの評価はこの時点ではほぼ互角に戻っていました。そして鈴木九段は敵陣深くに飛車を打ち込みます。局後に鈴木九段は「以前の永瀬さんなら、これを取りに来ていたはずだったが……」と回想しますが、永瀬九段はこの誘いにのらず、攻めに使う桂馬を入手し、W角ビームと併用することで敵陣を攻略していきます。

やがて局面は互いに寄せ合う展開に入りますが、先手のスピードが勝ります。そして相手を締め上げるように、先手は6筋の敵陣深くに飛車を打ち込み、相手陣を破壊していきます。この後、両者1分将棋に突入しますが、永瀬九段は落ち着いて攻めをさばき、やがて鈴木九段が21時24分、投了を告げました。勝った永瀬九段は、22日の挑戦者決定戦で羽生善治九段と藤井聡太王座への挑戦権をかけて戦います。

  • 勝った永瀬九段は、22日に羽生善治九段と藤井聡太王座への挑戦権をかけて戦う(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    勝った永瀬九段は、22日に羽生善治九段と藤井聡太王座への挑戦権をかけて戦う(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)