カサビアンが語る予測不可能な変化、「ロック+ダンス」の追求と揺るぎない自信

シンガーのトム・ミーガンと袂を分かち、ギタリストのサージ・ピッツォーノがフロントに立つ新体制で作り上げた『The Alchemist's Euphoria』(2022年)が見事全英No.1を獲得、健在ぶりを示したカサビアン。それから2年弱で届いた通算8枚目のアルバム『Happenings』は前作以上の大胆さで打ち込みの比重が増え、根っからダンス・ミュージック好きなサージの個性が遠慮なく前面に出た、極めて挑戦的かつカラフルな内容に仕上がった。

今年は”ロック+ダンス・ミュージック”の新時代到来を告げた衝撃のデビュー作『Kasabian』(2004年)が世に出てから20年という節目の年。しかし懐古モードとは距離を置き、未来のみを見据えて前進を続けていることが、続くサージのインタビューで実感できると思う。10月に待望の来日公演も決定したカサビアン、揺るぎない自信が漲る最新発言をお届けしよう。

『Happenings』と名付けた真意

─アルバムに先駆けて昨年公開された「Algorithms」を聴いた時点ではああいうメロディックな曲が多めになるのかなと思っていましたが、『Happenings』は自分が予想していたよりもずっとダンサブルな曲が多く、強烈なハードパンチャーぶりに驚きました。これまで以上にプログラミングされたビートが増えて、ライブとは異なるサウンドへと大胆に進化しましたね。どういう順番で曲ができていってこういうアルバムになったのか、過程を教えてもらえますか?

サージ:『The Alchemists Euphoria』のツアーを終えて、そのまま直ぐ今作のレコーディングを始めたんだ。最初にできた曲が「Call」で、本作の方向性を示してくれた。なんて言うのか、「サイケ・ポップ」なアルバムを作りたいと思ったんだ。つまりどういうことかというと、曲が凄く簡潔で、聴いて直ぐに入り込めるような、直球勝負の作品だ。リズムに関しても、どの曲も体を動かしたくなるような曲にしたかった。大きな会場でのツアーをやり終えたばかりだったから、「5万人の観客全員をのせることができる曲が必要だ」と思っていたんじゃないかな。「Algorithms」はちょうどいい架け橋だった。あるアルバムで「カサビアンはこういうサウンドなんだ」とみんなに思われているのを、僕たちはいつだって裏切ってきた。次にどんなサウンドの作品を出すか予想するのは難しいし、自分でも予想できないよ。完全に本能のまま作っているから。その時スタジオで起きたことを自分の心が導くまま作って、録って、できたものをまとめて世に出したら、次はまたゼロから始める。みんなの予想を裏切るのも好きだ。今作に関して言うなら、2024年のカサビアンならではの、自分達らしいモダンな作品にしたかった。ラモーンズのように3分の曲ばかりのパンクらしさがありながら、その3分間で多彩な表情を見せている。

─本作に参加したマーク・ラルフは、これまでクリーン・バンディットなどを手掛けてきた人ですが、彼とはどのように知り合ってコラボするようになったんですか?

サージ:マークいわく、あるパーティーで最初に出会ったんだ。どこだったか記憶にないんだけど、会った時に彼にヘッドロックをしたのは覚えている(笑)。今でもその話を彼にされるよ。とにかく馬が合ったんで、一緒にスタジオに入った。僕としては、ポップ・ミュージックに精通していて、均整の取れた綺麗なサウンドが作れる人を探していたんだ。自分で曲作りやプロデュースをすると音が粗削りになりがちで、それはそれで好きなんだけど、バランスを持たせるのが難しい。その辺の処理の仕方がわかっている人と組みたいと思ったんだ。カサビアンの奇妙な世界観を理解してくれる人……僕が作る音楽、たとえば安いマイクで録ったギターを、綺麗に仕上げてくれる人がいたらいいな、と思った。で、彼との間で決めたことがいくつかあった。「8小節毎に、必ず何か面白いことが起きなきゃいけない」って。それと、ヴァースは単にヴァースではなく、サビのように扱うこと。曲を聞くと、ヴァースも凄くフックが効いている。ダラダラ続くことなく、ヴァースだろうとブリッジだろうとサビのように意図が明確だ。意図的にそうしたし、うまくできたと思う。飽きることがない。彼がこれまでやってきたことに、自分達の音楽を当てはめるのは楽しかったよ。

─どの曲も長いイントロがなく、余計なものを徹底的にそぎ落として、ほぼ3分以内で終わる曲ばかりです。ここまで曲をスリムアップするようになったのは、音楽がスマートフォンで聴かれる時代になったことも意識しているのでしょうか?

サージ:そうかもね。自分としては、アルバムに取り掛かる際に「箱を用意する」と言うのか……いくつかのルールを決めてから臨むのが好きなんだ。今回もそうだった。自分のことを飽きやすい人間だと思っている。前の世代の自分がそうなんだから、今の世代の人たちはもっと飽きっぽいだろう。作り手としては、あえて制約を課すことで創作が面白くなる。「一度やったことはもう過ぎたことだから、違うことをやろう」と、まず考えるんだ。今回は、「今のこの時代に、こんな作品があったらいいな」と思った。次回作はもしかしたら20分の曲が2曲入るだけかもしれない。その時になってみないとわからないよ。少なくとも今回は、簡潔な作品にしたかった。今や、「どう人の関心を引くか」というのがみんなにとっての課題だ。特にアートの世界ではそう。どう関心を引くか、みんなが競っている。スマートフォンの中には音楽、映画、セレブ、あらゆる娯楽が入っていて、常に活動をアピールしてくる。だから手っ取り早く注意を引くことができれば、曲を聴いてもらえる。その発想が、今回作品を作る上で面白いと思った。これまでやったことがなかったからね。

─ソロ・プロジェクトのTHE S.L.P.ではリトル・シムズとの共演も話題になりました(2019年)。あのアルバムでサウンド的なバリエーションをいろいろ試したことが、カサビアンの新作にフィードバックしたところも当然あるでしょ?

サージ:面白いことに、カサビアンの1stアルバムからずっと、どのアルバムも例外なく、全く同じ作り方なんだ。僕が全曲書いて、家にスタジオがあるから、どの作品もほぼ同じやり方で作ってきた。朝起きて、曲を作るところから始まる。ループから始まるものもあれば、サンプリングから始まるものもある。あるいはピアノやギターを弾いて始まったものもある。それでも、できるまでの過程は全く同じだ。当然、映画を見て刺激されたり、世界各国を回ったりして、時間の経過とともに違うものに影響されたりするわけで……僕は好奇心旺盛だから、なおさらそうだ。The S.L.P.も、自分の人生の違う過程にいたというだけで、カサビアンの1stアルバムと作り方は同じ。『Happenings』は、今の自分の立ち位置を表している。どのアルバムも、その時の自分を映し出すスナップ写真のようなもので、たとえばカサビアンの1stアルバムの時は、9.11の後でイラク戦争もあって、世界が不安定な状況だった。そんな中で、Warpレーベルの作品をたくさん聴いて、ベッドルームで黙々と音楽を作っていた。何が言いたいかというと、The S.L.P.のアルバムも同じようにその時の自分を映し出している。で、今作も今の自分。しかも、既に次の作品のことを考え始めていて、もう先に進んでいるんだ。

─スマートフォンが活躍する「Call」のビデオは、アルバニアまで行って実際に飛行機からスマートフォンを放り投げて撮影したそうですね? CGを使うこともできたと思いますが、いったいどのようにしてあのビデオを作ったのか教えてもらえますか?

サージ:コンセプトとしては、1950年代頃に出てきた「ハプニング」と呼ばれる芸術運動が根幹にある。芸術家たちが美術館で作品を展示する代わりにハプニングを起こすというもので、昔から興味があったんだ。それがアルバム・タイトルの由来だよ。だから最初のビデオは、謂わばそのハプニングを起こすパフォーマンスのようなもの。飛行機からスマートフォンを放り投げる、というね。その様子を飛行機の上から、実際にスカイダイバーが撮影している。僕らはその場にいなかったけど、あれをアルバニアで撮影した。確かにコンピューターを使えば、もっと手っ取り早く、簡単に安く済んだかもしれない。でも、自分にとってはそれだと意味がなかった。クリストファー・ノーラン監督と同じ考え方だ。コンピューターが日々進化しているのも知っている。それでも、実際に撮る手間暇と機械の操作から生まれるものや、ビデオの最後にヘリコプターやスカイダイバーの姿が見える場面……あれはデジタル技術で架空のものを作るより、実際に撮影する重要性みたいなものがあったと思っている。そこから生まれる映像はもちろんだけど、実際に大勢の人を動かさないといけないわけで、一人の人間がラップトップ上で作るのとはわけが違う。ヘリコプターの操縦士、スカイダイバー、撮影クルー……彼らの生計を支えることにもなる。あらゆることがデジタル技術の発達で簡単にできてしまう中、人間にできることは何が残されているのか……それもまた、今の時代には重要な課題だよね。

ロック+ダンス・ミュージックの追求

─アルバムの構成も見事ですが、曲順を決めるのにかなり悩んだのでは? 観客をクレイジーにさせそうなロックンロール、「How Far Will You Go」のすぐ後に、メロウなディスコ・ロックの「Coming Back To Me Good」が来たりと、決して平坦なトーンにはしていませんよね。

サージ:何度も聴き返して、分析を重ねた。悩みはしなかったけど、聴き手をうまく操っている。例えがいつも映画の話になってしまうんだけど、きっと言葉で説明するよりも、物事を映像で考えるタチだからなんだと思う。傑作映画の中で、音楽がかかった瞬間に心を持っていかれる場面があるよね? ライブのセットリストでも、2〜3曲にわたって完璧な盛り上がりを作っていく感じ。山場に向けて、いろいろお膳立てをする。曲間やタイミングも全部計算されているよ。しかも、比較的早いペースで展開するから、曲を畳み掛けるようにオンエアするラジオ局みたいな感覚にもなる。その辺を考えるのも凄く楽しいね。

─「Hell Of It」はいかにもあなたらしい曲で、ヒップホップにファンク、アフロビートっぽいリズムが入ってきたり、ビートの展開が凝っていますね。

サージ:このアルバムで一番好きな曲かも。次回作でもっと掘り下げるテーマになるかもしれない。ソングライターとして、凄く自分らしい曲だと思うよ。良くも悪くも、こういういうことをできるバンドは他にいないだろう。これがどういうジャンルに入るのか自分でもわからないけど、作っていてワクワクする。ジャスティン・ティンバーレイクがソロになったばかりの頃にティンバランドなどと作っていた、2000年代初めのサウンドをイメージしていたんだと思う。N.E.R.D.とかね。あとはパーラメント。60年代のサイケデリック・サウンドが大好きなんだけど、特に曲の中で曲調がガラッと変わるところが本当に好きだった。それを、今風のダンス・ミュージックでやってみた感じだね。

─サイケデリックといえば、「Bird In A Cage」も1曲の中にさまざまな要素が詰まっていて、新しい解釈のサイケデリック・ソングという印象を受けました。このトラックはどんなイメージで組んでいったんですか?

サージ:製作中の音源ファイルの名前は「ナイン・インチ・ネイルズのリフ」だった。最初の歪んだループがトレント・レズナーっぽいと思ったんだ。他にも初期のプリンスのスネア・サウンドだったり、ワウ・ペダルが効いたファンキーなギターがあったりして、そこにビートルズっぽさもある。さらに、2番のヴァースは少しブリトニー・スピアーズ風でもある。ナイン・インチ・ネイルズ、ビートルズ、ブリトニー・スピアーズにプリンスという変わった組み合わせに、サイケデリックが加わった曲だ。僕らしいと言えば僕らしいね。

─ドラムのサウンドを聴いていると、普通にアコースティックのドラムを録ってそのまま使うことは減ってきていますよね。叩いたフレーズをループしたり、もっと細かく1打ずつサンプリングしたり、敢えてエレクトリックなグルーヴを生み出す実験を曲ごとにいろいろ試していませんか?

サージ:そうだね。その生ドラムのサンプリングとエレクトリックをどう組み合わせるかがカサビアンの専売特許というか、サウンドの特徴を生み出している。アコースティックのドラムは、その空気感も含め必ず入っているけど、エレクトロニック・ミュージックから影響を受けている部分が大きいから、いわゆるバンド・サウンドにありがちなドラムにこだわっていない。それは少し退屈にさえ感じるよ。サウンドに生気がないと……機械のほうが生き生きしたものが作れるっていうのもおかしな話なんだけど、たまにバンドの音を聴いて、つまらないと思ってしまうことがあるんだ。だから自分が作る曲ではあまり使わないようにしている。それを必要とする場合もあるのはわかってるさ。フリートウッド・マックのような作品を作るんだったら最高だ。フェラ・クティでもいい。そういう作品を将来作ることになるかもしれないしね。ただ、今作に関しては、自分達の1stアルバムに凄く似ていて、より機械で生み出す音に寄っている。とは言え、イアン(・マシューズ)は最高のドラマーだから、バランスをうまく取っている。そこに、他にはないこのバンドらしさがあるんだと思う。

エンターテイナーとしての矜持

─カサビアンの「Club Foot」が世に出てから20年も経ちましたが、このバンドが今も新作で全英No.1を狙えそうなポジションにいるのは本当に凄いことです。その間フレッシュでい続けられた秘訣は、変化を恐れず変わり続けたこと、ロック・バンドらしいサウンドに執着しない勇気を持っていたことにあると思うのですが。あなたの見解は?

サージ:その通りじゃないかな。同じサウンドの作品を繰り返し作ることだってできる。それでうまくやっているバンドはたくさんいるさ。ファンも離れないしね。「変わってしまうのは好きじゃない。ずっとこのままでいてほしい」というファンは多い。ある程度まではそれでもいいんだろうけど、いずれ世間も「あのバンドはあれしかやらないな」ってなるわけで、同じファンにだけ発信しているうちに、徐々に消えていくことになる。その一方で、変化することでファンを失うことを恐れず、表現者として自分がワクワクするような作品に毎回挑むことだってできる。人から「なんでこんな作品を作るんだ? 昔の方がよかった」と言われることを恐れないことさ。そういう人に迎合する姿勢は、自分にとってはつまらな過ぎるし、むしろそれに反発してしまう。人に「こういう作品を作ってほしい」と言われれば言われるほど、「ファック・ユー、自分が作りたい作品を作るんだ」って気持ちになるよ。

僕はこの世界に存在するあらゆるものに興味があるし、知りたいと思うから、同じものを繰り返し作るなんて無理だ。常に変わらずにはいられない。自分が好きなアーティストで今も最前線で活躍している人たちも、みんなそうしてきた。アーティストとして優れていて世界に関心があるなら、新しいものに出会えば世界観も変わるし、人としても成長するから、自ずとまた別のものに興味を持つようになる。そこにリスクがあるのもわかってるよ。みんなが自分のやろうとしていることを理解してくれるわけじゃない。でも、それこそがバンドとして生き残る鍵だと、ずっと思ってやってきた。自分達にとって一番の褒め言葉は、「次の作品がどんなサウンドになるか予想もつかない」だ。ほとんどのバンドが大体の予想はつく。それでファンも安心するだろう。でもそれじゃ、つまらないよね。個人的にも、「なんだこれは?」「ついていくのがやっとだ」と思わせてくれるアーティストに惹かれるんだ。

─今回のアルバムにインスピレーションを与えたアーティストがいたら、思いつくままに挙げてもらえますか?

サージ:美意識や作品への向き合い方という意味で言えば、タイラー・ザ・クリエイターがそうだね。彼の姿勢が好き。彼もジャンルという概念を曲げたり、操ったりするよね。あとは、「Darkest Lullaby」みたいな曲だったら、70年代初期のベーブ・ルース、ヴァニラ・ファッジといったバンド。タランティーノ監督が映画の中でよく引き合いに出すけど、その気持ちがよくわかる。当時のああいうサウンド、あの感じは凄く魅力的だよね。

—ライブについても聞かせてください。あなたはリード・ボーカルも務めるようになって、ステージ上を縦横無尽に動きますよね。動いて、歌って、客を煽って、ギターも弾く様子を見ていると、随分仕事が増えたなと心配にもなるんですが。体力的にキツくはないですか?

サージ:かなり変わったのは確かだよ。不思議なのは、かつてはキース・リチャーズになるべき道が敷かれていたはずなのに、気付いたらミック・ジャガーになっていた(笑)。なぜそうなったのかはわからない。それを目指していたわけでもないし、こんなことになるなんて思ってもみなかった。でも、こうなってしまった以上、やるしかない。性格的に、自分は問題を解決するのに長けている。スタジオでもそう。だから「これをやるなら、こうするしかない」と決めたんだ。一つには、自分が書いた曲と歌詞だから、観る側にとっても書いた本人が歌っているのを観るのは面白いはずだと思った。自分で書いた言葉だから、すべて元々自分の中に流れているものだ。だからステージに出たら、芸術の本来あるべき姿として、命懸けで毎晩全身全霊で歌うだろう。

観に来てくれた人には楽しんでもらいたい。凄く単純な話で、お客さんは楽しませてもらうためにお金を払ってくるわけだ。彼らはバンドがカッコつける姿を観に来てるわけじゃない。楽しみたくて来てるんだから、だったらこっちとしても、お客さんが思わず立ち上がって、ぶっ飛ぶくらい思い切り楽しんでもらうためには何だってやる。それは例えば、巨大なモッシュピットが生まれるような迫力ある演奏をするのでもいいし、逆に凄く親密な空間を作って、観客と一体化して今まで感じたことのない気持ちにさせるとか、いろいろできるよね。その責任の重さは感じている。観客には、何か特別な体験をしたと思って帰ってもらいたいから。客席の熱気を感じ取って、日によって何をすべきかが自分でもわかる。そこがライブの醍醐味だと思っているし、自分でも知らなかった自分の違う一面を知ることができた。それを知らないまま人生を全うしていたかもしれないけど、今となっては心から楽しんでやっているよ。ライブでは毎回学びもある。ライブが終わる時には、フロントマンとして胸を張って、「自分はそこら辺のシンガーソングライターとは違う。エンターテイナーだ」と思えるんだ。

カサビアン

『Happenings』

2024年7月5日(金)配信中

2024年7月10日(水)国内盤リリース

初回仕様限定ステッカーシート封入

ボーナストラック1曲収録

歌詞・対訳・解説付き

再生:購入:https://kasabian.lnk.to/JPHappeningsRS

カサビアン来日公演

2024年10⽉7⽇(⽉)・8日(火)

東京・Zepp Haneda

2024年10⽉10⽇(木)

大阪・Zepp Bayside

公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/event/kasabian_2024/