現在の主な活動について

拠点としている「のおとファーム」

こんにちは、暮らしの畑屋そーやんです。2021年の8月までマイナビ農業で「畑は小さな大自然」という連載を担当していましたが、この3年ほど連載をお休みしていました。今回は、僕が連載を一時休止してから現在まで、「野菜を売らない農家」としてどのように収益を上げてきたかについてお伝えします。「野菜の販売だけでは収益が上がらない」「農というコンテンツを生かした事業展開をしたい」、あるいは「もっと農業という仕事を楽しんで日々を過ごしたい」という人にとって、もしかしたら稼ぎ方のヒントになるかもしれませんので、ぜひ読んでみてください。

現在僕は地元、鹿児島市にある「のおとファーム」という場所を拠点に活動しています。ここは主に「畑の寺子屋」という体験農園として、畑づくりを学びたいという人たちが区画を借りて実践する場所になっており、僕が講師として自然農法に基づいた畑づくりを教えています。
この場を中心としてオンラインも活用しながら、「暮らしを豊かにする畑づくり」を教えるということを仕事としています。野菜を売らずに、野菜の作り方を教えることで生計を立てているわけです。

なぜ野菜を売るのをやめたのか

イベントにて野菜を販売していた時の様子

もともと僕は「自然農」という大型機械や農薬、化学肥料を用いない農法を学び、その方法で季節ごとの野菜を栽培して収穫し、野菜セットにして販売する仕事をしていました。それなりに野菜もちゃんと育ち、なんとか自分たちでお客さんを見つけ、一般的なスーパーで販売されている倍の価格で販売することができるようになりました。

しかしトラクターを使わない農法であるがゆえに、どうしても栽培できる面積に限りがあり、倍の価格で販売しても大きな収入にはなりません。そのために頑張って面積を増やそうとするのですが、頑張れば頑張るほど、あれだけ好きだったはずの畑仕事がどんどん辛くなっていきました。
「ブランド価値を上げることでもっと価格を上げる」とか、「自然農ではなくもっと経済効率の良い農法に転換する」という選択肢もあるでしょうが、その道を突き詰めた先に自分やお客さんの暮らしがどんどん豊かになっていくというビジョンを、その時に描くことはできませんでした。
生産販売を始めて3年ほど経過したあるころに、心も体も燃え尽きてしまい、まったく仕事ができなくなることがありました。その時期は本当に辛くて、まったく別の業種に行くことも検討するほどでした。

僕にとって畑は癒やされ、元気をもらう場所です

しかし、1カ月ほど休んで畑に行き、そこの植物たちを見ていると自然と涙があふれてきました。ありのままの草花や虫たちの様子を眺めていると、「そのままでいいんだよ」と言われた気がしたのです。そこからいろいろ考えた結果出た答えが、野菜の販売をやめることでした。
自分は畑づくりを通して自然と触れ合い、癒やされ、そこから多くの学びや感動を得ることで救われた人間なので、これを直接体験する人をもっと増やした方が、社会が良くなるのではと思いましたし、僕の中の情熱はそこにあると感じたからです。

稼ぐために試したこと

生ごみと雑草を利用したコンポストづくりを学ぶワークショップの様子

最初に始めたのが、現在も僕の仕事の大きな柱である「畑の寺子屋」です。畑の区画を家庭菜園をしたい人に貸し出し、その当時は自分だけでは経験不足だったため、有機農業をしている父が講師として指導するという形態で始めました。その後僕が講師を引き継いでからは、自然農をベースとした畑づくりを教える場に変わっていきました。

しかしもちろんそれだけではたいした収入にはならないので、それ以外にも以下のような仕事を自分で考えたり、その時々にいただいたご縁を通した活動を行ったりしてきました。
● カフェや飲食店で自然農についてのお話会の開催
● プランターで野菜を育てるワークショップの開催
● 出張で家庭などの庭先に小さい花壇を作成し、野菜を植える仕事
● 雑草堆肥(たいひ)やコンポストづくりを学ぶワークショップの開催
● 公民館講座の講師
● 自然農法についての講演会
● 記事の執筆
● YouTubeチャンネルの運営
● オンライン講座の開催

カフェでのお話会の様子

普段畑に全く縁のない人たちにも、気軽においしいご飯を食べながら自然のことや野菜づくりのことを知ってもらいたいと思って始めたのが、カフェや飲食店でのお話会です。「虫が食べる野菜はおいしいってほんと?」とか「緑色が濃いほど良い野菜?」など身近な話題から野菜のことや、自然界の不思議な仕組みについてお話ししていました。とても地道な普及活動ではありましたが、この時の積み重ねが今も生きているなと思います。

公民館での園芸講座の様子

公民館講座では園芸講座の講師を務めさせてもらったのですが、自然農も有機農業も知らない、年配の方々が生徒さんとして来られる場所でしたので、何をどうやって教えたらよいものか、僕が何を教えられるのか非常に不安でした。しかし、「お金のかかる肥料を買わなくても、身近な雑草や生ごみを生かして土づくりができますよ」など、農法に関係なくいろんな価値観の人たちにも受け入れてもらいやすいような説明の仕方が身についたのはこの仕事のおかげだったように思います。
 
お金がどうしても足りない時は、親に借りたり、バイトをしたりなどしながらも本当に試行錯誤の連続でしたが、どの仕事で得た経験も今につながっているなと感じます。

現在の収益を得る手段は何か

4年で登録者は10万人に増えました!

経済的にも僕の活動が少し軌道に乗り始めたのは、このマイナビ農業で執筆のお仕事をもらえるようになった2018年頃でした。毎週連載記事を更新していたころは本当に大変でしたが、「暮らしの畑屋」としての活動の基盤になるような学びの多いお仕事でした。

そしてより大きな転機になったのが2020年の6月、YouTubeチャンネルを開設したことでした。それまで執筆のお仕事を通して、みんなに読んでもらえるようなタイトルの付け方や、構成の作り方などが鍛えられていたため、すぐに登録者が増え、より多くの人に僕の活動を知ってもらえるきっかけができました。また当時はコロナによる外出自粛などが多い時期で、家庭菜園に興味を持つ人が増えていたタイミングだったのも登録者数が伸びる大きな要因だったと思います。
さらにこの時期にオンラインでの講座が当たり前になったため、遠方の人でもオンラインで教えることができるようになったのは、活動の幅を広げる良い機会になりました。YouTubeを通してつながった人が、オンライン講座やさまざまなイベントに参加してくれるようになり、一気に集客が楽になりました。また、以前は「自然農とは何か」みたいなところから理解してもらうことがそもそも難しかったのですが、今ではすでにYouTubeを見てから講座に来る人が多いので、非常に活動がしやすくなりました。

大阪で開催した出張講座の様子

しかし最近では、オンラインで教えることの限界も見えてきたため、県外への出張講座も呼ばれたら開催するようになりました。YouTubeを通してつながった皆さんと直接会えるのはうれしいですし、参加者同士もみんなで野良仕事をしているとすぐに仲良くなって、本当に良い場になっていくのがたまらなく好きです。自然の前だとみんなオープンになるというか、壁を作らずにコミュニケーションできるので不思議です。一人でやると大変な作業もみんなでやると楽しくて、あっという間に終わります。昔ながらの農村での助け合いである「結(ゆい)」の文化もこうした活動を通して少しずつ取り戻していけたらなと思っています。

今後の展望と課題

地元地域の田園風景

今後の僕の大きなテーマは「地元地域の田園風景を次世代にどうつないでいくのか」ということです。僕の地元である川上地域は、鹿児島市の中ではとても貴重な田園地帯で、昔からここの景色がとても好きでした。自給農家さんが多く、秋には稲刈り後に昔ながらの「はざかけ」をする様子も多く見られました。しかし近年では高齢化が進み、自分では耕作できない人も増え、今は僕の両親が地域の人たちの代わりに苗づくりや、田植え、稲刈り、乾燥などの作業を担うことで、高齢の農家さんたちを支えています。しかし両親ももう70歳を超えていますので、その先をどうしていくかを見据えて行動していきたいなと思っています。

地元の小学校、保育園などがお米づくり体験にやってきます

この風景をつないでいくために、僕は両親とは違う形で、これまでの経験を生かした地域農業の仕組みができないかと考えています。それは専業農家だけでなく、もっと多くの人が地域の農業に関わることができる仕組みです。一部の大規模農家頼みの仕組みだけでは、地域農業が生み出す風景や文化的な豊かさを維持していくのは難しいでしょう。また、食料危機や大規模災害が懸念されるこれからの時代を見越して、その地域で自分たちの食べ物を作ることができ、自然と共に豊かに暮らす知恵とすべをそれぞれが身につけることがとても大切になってくるのではないかと思っています。
農的なライフスタイルを志す人たちが野良仕事を体験したり、実践的に学べたりするような場所を作り、農家が彼らに教えたりするほか農地全体の風景を維持管理していくことでも収入を得られるような「懐かしくも新しい農的な営み」が築けたらいいなと考えています。