小樽の観光名所・堺町通りから歩いてすぐ、小樽港を見下ろす高台に立つ旧板谷邸が7月、宿泊施設「Tabist海宝樓 小樽」として装いも新たに再オープンしました。

  • 小樽市の歴史的建造物に指定されている旧板谷邸

銀座の次は小樽! Tabist2軒目のフラッグシップ施設

旧板谷邸とは、1926(大正15)年から翌年にかけて建てられた小樽の歴史的建造物。海運業で財をなし、貴族院議員や小樽市長としても活躍した二代目板谷宮吉の邸宅です。

一時は住む人もなく荒れ果てていましたが、引き継いだオーナーが多額の費用をかけて修復し、入浴施設を備えたレストラン「海宝樓」として開業。その後、ホテルを新設し「海宝樓倶楽部」としてリニューアルしたものの、2019年以降は閉鎖されていました。

いわば休眠状態にあった施設を再び甦らせたのが、宿泊・観光産業のDXを推進するソフトバンクのグループ企業Tabist社です。

宿泊施設向けの予約管理システム導入やオンライン販売のサポートなどを主な事業にする同社は、2年前に初めて直営のビジネスホテル「Tabist銀座」をオープン。この「Tabist海宝樓 小樽」が2軒目のフラッグシップとなります。

  • Tabist 代表取締役社長兼CEO 田野崎亮太さんが挨拶

新たな仕組みで、宿泊施設の個性を活かす

それにしても銀座のビジネスホテルの次が、北海道・小樽の文化財を活用した旅館とは、立地もジャンルも違いすぎる。Tabist 代表取締役社長兼CEOの田野崎亮太さんに疑問をぶつけてみました。

「我々のミッションは宿泊施設の個性を活かす新たな仕組みをつくることです。オーナー様から施設を預かって自ら運営することで、さまざまなトライができる。成功事例を積み重ねて全国ヘ展開していきたいと考えています」

――海宝樓では、たとえばどのような仕組みが活用されるのでしょうか。

「現在の集客はオンラインが中心ですが、Tabistのアプリやサイトに加え、じゃらんや楽天トラベルなどOTA(オンライン・トラベル・エージェント)向けのマーケティングのノウハウを活かします。また、これまでの勘と経験に基づいた値決めを、市場の需要に基づいたダイナミックプライシングに変更。AIが天候や季節、近隣の宿泊施設の価格変動を捉えて最適販売価格をリアルタイムで算出するので、集客や売り上げの最大化を狙えます」

つまり宿泊客の立場からすると、繁忙期を外せば、豪華な部屋にリーズナブルに宿泊できる可能性も出てくるというわけです。

  • 道路に面した門扉は創建時のまま

木造の母屋から、渡り廊下でホテル棟へ

オープンセレモニーの後、スタッフの方に館内を案内してもらいました。

木造の母屋の玄関で靴を脱ぐと、畳の部屋にフロントがあり、その奥の廊下でホテル棟とつながっています。

  • 畳敷きの和室にフロントが設置されている

  • 廊下の照明もレトロなデザイン

大正時代に建てられた木造建築が100年近い風雪に耐え、こうして残っているのは奇跡のようです。

経済効率だけで考えれば、解体され、跡形もなく消えていた可能性だってあったはず。元のままとはいかなくても、オーナーが長い間、板谷邸を守り、残してくれたことに感謝しなければならないでしょう。

  • 母屋の大広間は欄間の装飾も見事

客室からは小樽の港を一望

木造の母屋からつながるホテル棟は4階建てで全19室。客室はすべて40平方メートル以上の広さがあるゆとりサイズで、ツインを中心に3〜4名で泊まれるお部屋もあります。

  • 4階建てのホテル棟

この日は開業前の試泊会ということで、案内されたのは一人で泊まるには贅沢すぎるプレミアムツインルーム。

広々としたリビングに独立したベッドルーム、大きな窓のあるバスルームがついています。

  • プレミアムツインルーム、最大4人で宿泊可能

  • 大きな窓のついた明るいバスルーム

  • 客室の窓からは小樽港が一望できる

  • 最上階には大浴場も完備

朝食は大正レトロな洋館で

朝食の会場は、母屋に併設された瀟洒な洋館です。

北海道の新鮮な食材をふんだんに使用したフレンチベースのビュッフェスタイル。素泊まりも選べますが、ここでしか味わえないような手の込んだ料理が並ぶので、絶対に朝食付きがオススメです。

  • 銅板葺のマンサード屋根が印象的な洋館

  • 食堂は天井が高くクラシックな雰囲気

  • 鹿肉のテリーヌ、蝦夷鮑のバジル和えなど

  • 北海道らしいスープカレー、カラフルな蒸し野菜がたっぷり

田野崎さんによると、「Tabist」というブランド名は「旅」と「ストーリー」を掛けあわせた造語なのだとか。旅を通して物語を感じてほしいという願いが込められています。

「ただ宿に泊まるだけでは特別な思い出にはなりません。旅先でのさまざまな体験が物語として記憶に定着すると思うんです。私自身、幼少期に両親に会社の保養所みたいな宿に連れていってもらったとき、道すがら家族で食べた瓦そばのおいしさが今も忘れられません。Tabist海宝 樓小樽もそんなふうに、小樽の食や街並み、自然を楽しむための拠点になってほしいですね」

こう話す田野崎さん自身、昨晩は郷土料理店で八角(はっかく)という地元の魚を食べ、早朝には誰もいない小樽運河をランニングして、旅を満喫したそうです。

「Tabist海宝楼 小樽」があるのは、小樽の観光地・堺町通りから歩いてすぐ。小樽運河や寿司屋通りも徒歩圏内。

明治時代や大正時代の文化や雰囲気を残す建造物が他にも多い「小樽らしい街並み」を散策するにはもってこいのロケーションです。

インバウンド観光による経済効果の恩恵を受ける北海道経済。北海道の豊かな自然と、のんびりとした空気感が、外国人観光客を魅了するとも聞きます。

国内はもちろん海外からも人気の小樽で、地元の人たちの生活を感じたり、交流したりするにはもってこいの宿泊施設と言えそうです。

●information
Tabist海宝楼 小樽
北海道小樽市東雲町1-19