JR北海道が石北本線の特急「大雪」の快速列車化を検討していると北海道新聞が報じた。6月7日付「特急『大雪』 快速に」によると、コスト削減が理由という。JR北海道から正式な発表はない。

  • 2023年3月から、石北本線経由の特急「オホーツク」「大雪」はキハ283系で運転されている

続報の6月8日付「JRが特急『大雪』の快速切り替え検討」では、沿線自治体の遠軽町長、北見市長、網走市長がコメントを寄せており、反発、容認、中庸に分かれている。現時点で発表されている資料から見れば、存続すら厳しい。しかし、需要創出に向けた取組みに期待しよう。線路がある限り、復活も可能だろう。

旭川~網走間の特急「大雪」誕生の経緯は

特急「大雪」は旭川~網走間を走る列車で、1日2往復の運転。この区間は他に札幌~旭川~網走間の特急「オホーツク」も1日2往復運転されている。報道の通りなら、「旭川~網走間の特急列車4往復を半分の2往復にしたい」がJR北海道の方針ということになる。特急列車がゼロになるわけではないものの、沿線自治体にとっては寂しいだろう。

もともと「大雪」も「オホーツク」だった。2017年3月のダイヤ改正で、1日4往復運転されていた「オホーツク」のうち、2往復を札幌~旭川間で取りやめとし、残った旭川~網走間を「大雪」に改名した経緯がある。北海道の自治体としては、道都・札幌に直通する特急列車が半分になって現在がある。そのうち2本が特急ですらなくなってしまう。

  • 「オホーツク」は札幌~網走間、「大雪」は旭川~網走間で運転される(地理院地図をもとに筆者作成)

JR北海道にも言い分があると思われる。北海道第1の都市・札幌と、第2の都市・旭川の移動需要は大きい。現在も札幌~旭川間の特急列車は計23往復(「カムイ」10往復、「ライラック」13往復)設定されている。

札幌~旭川間の特急列車は車両によって列車名が異なる。「カムイ」は789系1000番代を使用し、指定席に「uシート」というハイグレード車がある。「ライラック」は789系0番代を使用し、グリーン車を連結。この車両はもともと特急「スーパー白鳥」(東北新幹線と接続し、函館駅まで運行)に使われていたが、北海道新幹線開業で御役御免となり、札幌地区に転属した。

かつて札幌~網走間で1日4往復運転されていた「オホーツク」と、札幌~稚内間で1日3往復運転されていた特急「宗谷」は、札幌~旭川間の需要を補完する役割も期待されていたはず。しかし、実態として札幌~旭川間の利用者は「カムイ」「ライラック」を好んだ。そこで、「オホーツク」のうち2往復を旭川駅で分離し、札幌~旭川間を「ライラック」に編入。旭川~網走間を特急「大雪」とした。同様に稚内方面も、「宗谷」のうち2往復を旭川駅で分離し、旭川~稚内間の特急「サロベツ」とした。系統分離後も乗換えに配慮し、特急料金は通算としている。

最も利用の多い旭川~上川間でも、乗車人員は50人前後

報道によれば、「大雪」を快速列車化する理由はコストダウンだという。利用者数が少なく、特急列車用のキハ283系3両編成と車掌乗務では費用負担が大きいとのこと。そこで、一般車両2両編成でワンマン運転を行い、要員を減らしたい。キハ283系の定員は先頭車48名・中間車51名。3両編成だと合計147名になる。

JR北海道は公式サイト内にて、「列車別乗車人員 令和4年度特定日調査(平日)に基づく」を公開しており、石北本線のデータもある。これをもとに、「大雪」と同じ編成で運行する「オホーツク」も含めた特急列車の最大乗車人員を調べると、最も乗車人員の多い旭川~上川間でも、下りは「オホーツク1号」の54人、上りは「オホーツク2号」の46人だった。最も乗車人員の少ない区間は、下りが「大雪3号」の北見~美幌間で「5人」、上りが「オホーツク2号」の網走~美幌間で「6人」。なるほど、これなら特急車両3両も要らない。

「オホーツク」は特急列車として残す方針とのことだから、これらのうち、利用者の比較的多い2往復を「オホーツク」として残し、残り2往復を快速列車にすると予想する。

  • JR北海道が導入を進める電気式気動車H100形

快速列車に充当する車両はH100形だという。旭川~北見間の特別快速「きたみ」も今年3月からH100形に置き換えられ、2両編成で運行されている。H100形の座席数は1両あたり36席。現行の特急列車の乗車人員を見る限り、2両あれば全員座れるだろう。立席も含めた定員は63人なので、座れなくてもいいなら1両でも問題ない。もっとも、旭川~網走間は237.7kmもあり、所要時間は3時間40分前後になる。一部区間でも立たせるとは酷だろう。

快速列車化で停車駅は? 競合は?

現行の特急「大雪」は、旭川~網走間で途中の上川駅、白滝駅、丸瀬布駅、遠軽駅、生田原駅、留辺蘂駅、北見駅、美幌駅、女満別駅に停車する。快速列車化すると、北見駅までは特別快速「きたみ」と同じ停車駅になると思われるが、北見~網走間はどうなるか。

特別快速「きたみ」は、基本的に乗車人員1日平均10人以下の駅を通過しているから、北見~網走間だと緋牛内駅や西女満別駅は通過すると思われる。1日平均20人以下にすると、端野駅や呼人駅も通過駅になるかもしれない。いずれにしても、停車駅は特急列車より多くなり、所要時間も増えるはず。4時間半を超え、行き違いの都合で5時間前後になりそうだ。

運賃と料金はどうなるか。特急列車で割引なしの場合、旭川~網走間は運賃5,610円・自由席特急料金2,420円で、合計8,030円。快速列車は特急料金がいらないから、運賃のみ5,610円になる。値段だけ見れば安くなるし、普通列車で乗継ぎを強いられるよりは楽かもしれない。ただし、H100形はリクライニングしないクロスシートとロングシートの車両だから、座席のグレードは下がる。

「えきねっと」を使うと、「特急トクだ値1」で旭川~網走間が4,270円になる。これは特別快速「きたみ」より安い。数量限定とはいえ、「特急トクだ値1」を利用している人にとって、快速列車化はむしろ値上げになってしまう。

長距離列車のライバルといえばバスだが、旭川~網走間を直結する高速バスはない。旭川~北見間は1日2往復。北見~網走間は1日6往復あり、乗り継ぐことで所要時間は約6時間となる。

国土交通省が公開している「旭川・紋別自動車道(遠軽~上湧別) 第1回 説明資料」によると、オホーツク紋別地域の中心は北見市で、人口は約12万人だという。この地域の交通需要は旭川~北見間が中心であることを考慮すれば、高速バスが旭川~北見間と北見~網走間で分かれている理由も、石北本線に特別快速「きたみ」が存在する理由もわかる。

改めて旭川~北見間で比較すると、現行の「大雪」は運賃4,510円・自由席特急料金2,200円で合計6,710円、所要時間は約3時間。特別快速「きたみ」は運賃4,510円、所要時間は約3時間20分。高速バス「NEWサンライズ号」は4,400円、所要時間は約3時間半。特別快速「きたみ」と高速バスが良い勝負といえる。

ちなみに、マイカーのルートを地図サイトで調べると、燃料と高速料金の合計で3,000円前後、所要時間は2時間48分と出た。もっとも、筆者なら休憩2カ所、それぞれ30分を加算したくなる。

特急「大雪」の快速列車化は、旭川~北見間の様子を見て、料金を下げることで石北本線の利用者を増やしたいという意図がありそうだ。だからといって北見駅で打ち切りとせず、網走駅に直通したい需要も担保する。旭川~網走間直通は鉄道側の強みでもある。

自治体の反応と、わずかな展望

このような状況を踏まえて、北海道新聞が6月8日付の記事で掲載した自治体の反応を読むと、それぞれの立場がわかりやすい。

遠軽町長は「超長距離路線の特急が4本から2本になるのはあり得ない話」「到底受け入れられるものではなく、道や国を巻き込んで議論をするべきだ」と憤る。その背景には、旭川~遠軽間を結ぶ高速バスが2024年4月から当面運休となっており、札幌直通の高速バスも2往復から1往復に減ったという事情もあるように思える。

遠軽は鉄道開通以前からオホーツク方面と道央方面の結節点として栄え、かつて石北本線と名寄本線が分岐する「鉄道の町」でもあった。名寄本線は1989(平成元)年に廃止されたが、現在も石北本線の特急停車駅であり、地元でも鉄道に対する誇りと愛着が強いと思われる。

網走市長は石北本線の存続に向けた取組みとして理解を示した上で、「快速列車の運行に快適性をより求めたい」と話した。網走市は女満別空港の恩恵を受ける町で、ほとんどの観光客が空路で訪れる。東京便は5往復。札幌便は8往復。多客期に大阪便もある。北見経済圏の中核だから、中長距離需要は北見、そして札幌になるようだ。

北見市長は「(黄色線区の中で)石北線の旅客輸送最大の特性は特急列車が走る線区であること。都市間輸送も担い、利用拡大には便利で快適な移動手段として利用者に捉えられることが重要という自分の認識に変わりはない」としつつ、「道と連携し、石北線の利用拡大と収支改善に向け、できる限り協力したい」と語った。

JR北海道にとって、特急列車は客1人あたりの単価が高く、やめたくないはずだが、快速列車化によって客単価を下げ、マイカーや高速バスからの移行を狙い、利用拡大を図ったと筆者は考えている。北見市長はそれを理解しているし、網走市長の言う「快適性」も、廃車となった特急車両の座席を転用するなど工夫すれば、低コストで解決できるだろう。遠軽町長の気持ちもわかるが、線路がなくなってしまっては元も子もない。

なによりも線路があることが大切だ。快速化を検討している列車は定期列車の特急「大雪」であり、需要の見込める時期に臨時特急列車を設定して対応することも可能になる。JR北海道は2026年春から新たな観光列車「赤い星」「青い星」を運行する。東急も「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」を継続する意向と聞いた。

JR北海道の施策については、この件に限らず「仕方ない」と「それでも、がんばれ」の思いが交錯する。地域の取組み、魅力向上と需要創出によって、特急「大雪」は復活できるだろうし、もっと魅力的な臨時列車を運行できるかもしれない。そこに希望があると思う。