アメリカン・エキスプレスは6月13日、「B2B(企業間決済)のキャッシュレス化に関する調査」の結果を発表した。すでに一般消費者の日常生活には深く浸透しているキャッシュレス決済。果たして、国内の企業間取引にもキャッシュレス化の波は押し寄せているのだろうか? また識者を招いたパネルディスカッションを開催。法人カードの普及に向けて、意見が交わされた。

  • アメリカン・エキスプレスが企業間決済の実態について発表

キャッシュレス決済の導入状況は?

冒頭、同社広報の松本りえ氏が登壇。まずは経済産業省による調査結果について解説する。それによれば、国内のキャッシュレス決済は全体の約4割が個人消費者によるもの。2023年にはクレジットカード決済の比率が過去最高の39.3%まで達している。その一方で、企業間決済は約780兆円の市場規模があるが、そのうちキャッシュレスによる取引額は約5兆円程度にとどまった。

  • アメリカン・エキスプレス広報の松本りえ氏。同社では、国内の企業間決済の動向について定期的に実態調査を行っている

  • B2C / B2Bのキャッシュレス決済率。国内のキャッシュレス決済は個人消費者が牽引している

同社でも4月8日から4月15日まで、経営者、経理担当者、自営業など20~70代の男女1,030名を対象にオンラインで調査を実施した。飲食・卸業、農業・畜産、建築・建設、医療関連業といった幅広い業界から回答を得ている。

まずは企業間取引において利用されている決済方法について。支払い側は「クレジットカード」を利用するケースが伸長しており38.9%まで到達した。しかし請求側は代金回収時に「銀行振込」「現金」「口座振替」でやりとりするケースが依然として多く、クレジットカードの利用比率は22.2%にとどまった。ちなみに、一部の企業ではまだ「手形・小切手」が利用されていることも分かった(経済産業省からは、紙の約束手形の2026年の廃止などが提言されている)。

  • 企業間取引において利用されている決済方法について

では企業はなぜ、その決済方法を選んでいるのだろうか? そんな質問に対して「銀行振込」「口座振替」「現金」を選んでいる企業の約半数は「昔からこの方法(習慣)だから」と回答。その次の理由として「取引先にこの決済方法を求められるから」としている。

  • その決済方法を選んだ理由

キャッシュレス決済を導入した動機については「インボイス制度」(21.1%)、「電子帳簿保存法の実施、改定」(11.7%)などが上位に挙がっており、国の制度改革が契機になっている背景がうかがえる。また「取引先や競合先がキャッシュレス化したため」(18.6%)、「社内のデジタル化推進に伴う変更」(13.4%)という理由も多かった。

  • キャッシュレス決済を導入した動機について。社会制度の変化がキャッシュレス化を後押ししている

企業間におけるキャッシュレス決済の導入状況については、支払いに関しては4割以上が導入済みであり、3年後には導入率が52.2%まで上昇する見込み。一方で、請求に関しては「導入予定なし」と答える企業も31.9%と決して少なくない状況。松本氏は「請求方法のキャッシュレス化が遅れている傾向がうかがえます」と解説する。

  • キャッシュレス決済の導入状況

企業間決済において寄せられる期待については「クレジットカード決済で支払いたい」(64.4%)、「取引先にクレジットカード決済を受け入れてほしい」(62.5%)、「クレジットカード決済で請求したい」(56.8%)となった。

  • 企業間決済においてクレジットカードに寄せられる期待

法人カードの利用率を上げるために

続いてゲストを招いたパネルディスカッションを開催した。

国内大手の酒類販売事業者であるカクヤスグループでは、一般消費者向けには以前より店頭・ECサイトにおいてクレジットカード決済に対応。そして8年前より飲食店との取り引きにもクレジットカード決済を導入した。カクヤスグループ 代表取締役社長兼CFOの前垣内洋行社長は「導入にあたって社内では、クレジットカードの手数料についての議論がありました。しかし回収にかかる手間、コスト、貸し倒れリスクを勘案した結果、取引先を絞ったうえで『導入してみよう』という結論になりました」と当時を振り返る。

これを受けてアメリカン・エキスプレス 加盟店事業部門 副社長の谷川美紀氏も「B2Bにおける法人カードの普及を目指して15年前から加盟店様の開拓を続けるなかで、カクヤス様の営業部隊と一緒に飲食店を周って『仕入れでも法人カードが使えますよ』とご案内したこともありましたね。これからも認知度の向上、法人カードの普及に努めてまいります」と意欲を示す。

スマートガバナンス 代表取締役共同創業者の落合孝文氏は「企業は生産性を高めたい、そのためにDX化を進めて省人化したい、けれど経営者はデジタル決済の仕組みについて詳しくない――。そんなケースもまだまだ多いかと思います。アメリカン・エキスプレスには今後も、企業のキャッシュレス化に向けた丁寧なサポートが求められるでしょう」と解説する。

  • (左から)アメリカン・エキスプレス 加盟店事業部門 副社長の谷川美紀氏、カクヤスグループ 代表取締役社長兼CFOの前垣内洋行氏、スマートガバナンス 代表取締役共同創業者の落合孝文氏

  • 企業間決済における法人カード利用のメリットについて。「経理事務・経費が削減できる」(36%)、「銀行振込の手数料や手間を削減できる」(34.3%)などとなっている

今後、企業の法人カード利用率はどうやったら上がるのだろうか? 谷川氏は「2つの認識を経るのではないでしょうか」と切り出す。1つは必然性の認識、もう1つはメリットの認識だという。「というのも必然的に、約束手形・小切手の廃止にともなう対応、インボイス制度への対応、世の中のキャッシュレス化の動きに向けた対応が求められていきます。キャッシュレス化は避けられない、となったときに経営者なら『ではどうやったらメリットを得られるか』を考え始めるでしょう。アメリカン・エキスプレスでは各企業様の業態、経済状態などを踏まえながら、同じ目線に立ってサービスをご案内していく所存です」。