伊藤沙莉主演の連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~ほか ※土曜は1週間の振り返り)で、岩田剛典(EXILE/三代目 J SOUL BROTHERS)演じる花岡悟が餓死したという衝撃の事実が判明。朝ドラ初出演ながらも、強烈な印象を残した岩田は、花岡の生き様について「武士でした」と語る。

  • 花岡悟役の岩田剛典

「最後まで信念を貫いた結果、自分の命を…」

伊藤演じる主人公・寅子のモデルは、日本初の女性弁護士で、後に裁判官となった三淵嘉子。後半では、いよいよ寅子が裁判官になるべく、少しずつ歩みを進めていく。花岡と寅子は一時期、相思相愛状態だったが、花岡は別の女性と結婚。だが、寅子にとっては良き理解者であり続け、先日再会した時も、男社会で孤軍奮闘する寅子を元気づけたばかりだった。ところが、花岡は東京地裁の判事として、食糧管理法違反の事件を担当する中、闇市で売られていた食料を拒み続け、栄養失調で帰らぬ人となった。

岩田が演じた花岡悟のモチーフは、実在した佐賀県出身の山口良忠氏という裁判官だと言われている。

「花岡が餓死することは、もともと決まっていました。モチーフになった方は、当時、食糧管理法などに携わっていた裁判官の方で、自分の信念を貫き、法律を守って配給された食料しか食べなかったので、最終的に亡くなられた。現代だと餓死なんて日本にはないことなので、最初に脚本を読んだ時はリアリティにかけるような印象を受けましたが、今とは時代が違います。その後は、最終的に餓死するということを念頭に置きながら、最初の(台詞である)『ごきげんよう』から始めていきました」

花岡役をオファーされた時点で、彼が非業の死を遂げることはわかっていたので、彼のバックグラウンドや最後を踏まえた上で、いろんなグラデーションをつけて細やかに演じてきた岩田は「花岡の最期まで、脚本がすでにあったので、そういう意味で言えば、花岡の人生の流れというか、演技プランを逆算しやすかったです」と語る。

「学生時代は声のトーンや表情、姿勢なども意識して演じました。花岡悟という人は、男性社会だとヒエラルキーの中ではけっこう上にいる生徒だったと思うので、自分の立ち振る舞いに対して自己満足しているような、ちょっと小心者であったとも捉えていました。そんな中で出会った寅子や女子部のメンバーは異質な存在だったかと。でも、崖から突き落とされたところの流れから、少しずつ自分の本音を話せるように。だんだん物事の考え方も柔らかくなり、女性目線の気持ちも理解した上で、女性が夢を追うという志に対しても寄り添えるようになっていきます。寅子への思いも恋心なのか、応援したいという思いなのか。僕は両方あったと思いますが、最終的には、自分から身を引くという形になりました」

花岡が寅子とは違う人と婚約したことを、彼の盟友であると轟太一(戸塚純貴)たちに話した時、轟から「それでいいのか?」と問い詰められたシーンも描かれたが、岩田はその時のやりとりについても、花岡らしくて「1本芯が通っていました」と感じたそうだ。

「その時は、『なんてやつだ!』と思われたわけです。あれだけ寅子に対して恋心を抱いているように見せときながら、切り替え早いなと、視聴者の皆さんも思ったかと。その裏側は徐々に明らかにされていきますが、花岡は誰にも相談せず自分1人で勝手に決めるタイプなんです。多くは語らず、思いを発しながらも身を引くという点が、花岡のすごく男らしいところだなと。自分が決断したことなら、人に何を言われようとも『男に二言はない!』みたいな武骨さも含め、武士だったんだなと思いました。また、花岡は轟に、自分の信念を曲げずに生きていくと誓うと宣言しましたが、実際にその通りに最後まで信念を貫いた結果、自分の命を落としてしまいます。なかなか現代にはいない武士っぷりだったかと」

花岡にとっての寅子は「自分のなりたい理想像」だった

寅子と花岡は、いわば心の通じ合った同志だったのかもしれない。岩田自身は、花岡が寅子のどんな点に惹かれていると感じたのだろうか。

「寅子の物怖じせず、しっかりと自分の意見を面と向かって言うというところです。そこはまさに、花岡が憧れる大きな要素だったのかなと思います。彼女に対しての恋心もそうですが、ある種、自分のなりたい理想像を体現しているのが寅子だったのかなとも感じました」

また、花岡と寅子とが結婚に至らなかったことや、他の女子部のメンバーの人生についても「『虎に翼』という物語で、花岡や寅子たち同級生は、シンプルに自分の夢や仕事などを全員が追っています。その道の途中で、家庭を持つかどうかといった人生の選択も迫られますが、今の時代ならもうちょっと自由な選択ができるのかなと思いつつ、当時の時代背景だとこうなんだなとも思いました」と他の登場人物についても思いを馳せた。

花岡の死を知った寅子が、日比谷公園で涙するというシーンにはきっと多くの視聴者が涙したのではないだろうか。岩田は伊藤について「本当に立派な座長さんで、心身ともに強いし、『なんなんだ! この人は!』というぐらい度胸があるパワフルな女優さんなので、今回共演できてすごくうれしかったです。女優としての魅力だけじゃなくて、彼女自身のフランクな性格が、作品に血として通っている部分がすごく大きいかなと。また機会があればね、別の作品でもご一緒できたらうれしいなと思います」と心から称える。

最後に、花岡から寅子に託したいものがあったかと尋ねると「いや、もう武士なので、ないです」とキッパリ。

「寅子に何かを背負わせないというか、それをしないがために花岡は1人で死んでいきました。でも、それこそがたぶん花岡の美学なんだと、僕は勝手に解釈しています。寅子とは一緒に学生時代を過ごした思い出がありますし、もちろん同級生の皆さんも含め、残された者たちのつらさはあったとは思いますが」と花岡を慮る。

まだまだ、厳しい環境の中に身を置く寅子だが、花岡はきっと空の上から、寅子を見守っていくに違いない。

■岩田剛典
1989年3月6日生まれ、愛知県出身。三代目 J SOUL BROTHERSのパフォーマーとして2010年にデビューし、2014年にEXILEに加入。2021年にソロデビューも果たした。俳優としては映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(16)で映画初主演、『去年の冬、きみと別れ』(18)で初の映画単独主演。近年の主な出演作は、映画『ウェディング・ハイ』(22)、『死刑にいたる病』(22)、『バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版』(22)、ドラマ『あなたがしてくれなくても』(23)、『アンチヒーロー』(24)、Netflix『金魚妻』(22)など。

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