日本では、毎年約1万人の女性が罹患(りかん)しているという「子宮頸(けい)がん」。健康診断が行われるこの時期、「子宮頸がん検診に引っ掛かってしまった……」と不安を感じている女性もいるはず。

  • 子宮頸がん検診で"要精密検査"と言われた…どんな病気? 予防法や治療法って? 妊活しても大丈夫?【医師監修】

そこで今回は、新百合ヶ丘総合病院の産婦人科医長である安藤まりさんに、子宮頸がんとはどんな病気なのか、予防法や治療法について詳しくお話をうかがいました。

  • 新百合ヶ丘総合病院の産婦人科医長 安藤まりさん

■気づかれにくい病気「子宮頸がん」

━━まず、子宮頸がんとはどのような病気なのか教えてください。

子宮は「体部」と「頸部」に分かれるのですが、下1/3の子宮の入り口のところを「子宮頸部」といいます。そこにガンができてしまうことを「子宮頸がん」、上の方にできてしまうことを「子宮体がん」といいます。

  • 子宮がんに関する図

子宮体がんは年齢が高齢の方や閉経後の方にできることが多いですが、子宮頸がんは「HPV(ヒトパピローマウイルス)」というウイルスの感染が主な原因で、性交渉の経験がある女性であれば、8割くらいは感染の機会があると言われています。

子宮頸がんは、20〜30代の方でも起こるがんであり、若年層で増えつつあります。「妊娠しよう」と考え始めた頃にがんが発覚した……という方を見かけることもあります。

━━子宮頸がんの主な原因はHPVの感染ということですが、HPVとはどのようなウイルスなのか教えてください。

HPVは150〜200種類以上いると言われていますが、子宮頸がんに関係するウイルスは20種類に届かない程度です。それが子宮の入り口の細胞に感染して細胞の形を変え、がんになっていくというイメージです。ただし、ウイルスが感染してすぐがんになるわけではありません。

子宮頸がんになる前段階を「異形成」と言い、異形成にも軽いものから「軽度異形成」「中等度異形成」「高度異形成」と3つのレベルがあります。

「異形成」の細胞が出てくると、軽度異形成になり、それが進行してくると中等度異形成に、さらに進行してくると高度異形成になり、そこを超えると「上皮内がん」、そして「浸潤(しんじゅん)がん」になっていきます。

ただし、軽度や中等度なら、自分の免疫細胞によってほとんどの方は自然にウイルスがなくなります。ですので、感染したからといって必ず子宮頸がんになるわけではありません。軽度異形成の方なら、2年以内に中等度、高度に移行する人は10%くらいです。

また、HPVは男性に感染することもあります。男性の場合、HPVに感染すると陰茎がんや尖圭(せんけい)コンジローマになることもありますし、男女関わらず肛門がんや中咽頭がんの原因にもなります。

━━HPVに感染した場合、初期症状はあるのでしょうか。

初期症状はありません。(女性の場合)がんが進んでようやく、不正出血やいつもと違うにおいのおりものといった症状が出てきます。異形成のうちは症状が全くなく、気付かない人が多いので、がん検診を受けて見つけることが大切なんです。

■子宮頸がんの予防法は?

━━では、子宮頚がんはどう予防したらいいのでしょうか。

予防には、1次予防と2次予防があります。1次予防だと、HPVワクチンを接種することが有効と言われています。

去年の4月から「2価ワクチン」、「4価ワクチン」に加え、「9価のHPVワクチン」が公費で受けられるようになりました(小学校6年~高校1年相当の女性が対象※厚労省HPより)。

HPVのうち、日本で一番問題になっているのは16番と18番のHPVですが、9価ワクチンはこの2種類を含む9種類のHPVの感染を防いでくれます。この9価のワクチンを打てば、子宮頸がんの8〜9割が予防できると言われています。

特に、性交渉の機会が少ない10〜15歳は接種の推奨度が高く、この時期に9価のワクチンを打つと、HPVの感染をほとんど予防できると言われています。

15歳の誕生日の前日までに初回接種をした場合は6~12カ月の間隔をあけて合計2回、15歳以上の方は3回打つ(2回目は1回目から2カ月、3回目は2回目から4カ月あける)というのがガイドライン上決まっています。性交渉の経験がある人でも、ウイルスを広くカバーできるため、接種を希望したら受けていただけます。

また、日本では接種が進んでいませんが、HPVは男性にも感染しますので、男性がHPVワクチンを受けることも大切なんです(男性は任意接種)。

━━ちなみに、コンドームを装着すればHPV感染を防げるのでしょうか?

コンドームは、付けたからといって100%感染を防げるわけではありません。ですが、感染機会を少なくすることはできます。その上で、性交渉の経験があれば、2次予防として子宮頸がん検診を受けることが大切です。

■子宮頸がん検診の方法って?

━━子宮頚がん検診はどのように行いますか。

子宮頸がん検診は、「腟鏡(ちつきょう)」という腟を広げる器具を腟にかけ、それで子宮頸部を露出させてブラシで子宮口をこすり、細胞を採取します。すごく痛みのある検査ではありませんが、腟が狭い方の場合、器具をかけることに違和感を持つかもしれません。ですが、器具さえかかれば検査自体は簡単にできます。

  • 子宮頸がんの検診イメージ

自治体から来る子宮頚がん検診のクーポンは2年に1回が多いと思いますが(時期や対象は自治体によって異なる)、がんになる前の早期発見につながりますので、できれば1年に1度のペースで受けるのが理想的ですね。

━━もし「要精密検査」となったら、どうすればいいのでしょうか。

もし、子宮頚がん検診で「要精密検査」になったら、コルポスコープ(腟拡大鏡)を使った「コルポスコピー検査」を行います。子宮口のところをつまんで組織を取るので、子宮頚がん検診よりは少し痛みを感じるかもしれません。

ただ、麻酔もいりませんし、気づかないうちに終わる方もいらっしゃるので、必要以上に怖がる検査でもないかなと思います。

この検査では、子宮の頸部に酢酸をつけ、病変を浮き上がらせて拡大鏡で観察していきます。病変があるところは色が変わりますので、その部位をつまんできます。

月経量が多いと、病変が見えづらくなることがあるため、量が多いときは避けましょう。

━━子宮頸がん検診で「要精密検査」になったからといって、必ずしも子宮頸がんになっているわけではない、ということでしょうか。

はい、そうです。検診の結果にもレベルがあり、たとえば「異形成相当」という「がんが疑われますよ」という段階も、いくつかのレベルに分けられます。要検査となると、皆さん「もしかしてがんですか」と不安な表情で外来にいらっしゃいますが、ほとんどの方ががんになる前段階の「異形成」で引っ掛かっている印象です。

ちなみに、軽度異形成でもハイリスクのHPVに感染しているなら、4〜6カ月に一度は検診を受けることをおすすめします。中等度異形成でしたら、3カ月に一度くらいですね。

■レベルによって異なる治療法

━━子宮頚がんになった場合、どのような治療が行われますか。また、異形成やがんの進行具合によって治療方法は異なるのでしょうか。

軽度異形成は、基本的には治療する必要はなく、放っておいても自然にウイルスが消えて治る方がほとんどです。中等度異形成の方は、軽度の方よりは注意して様子をみる必要があります。中等度も基本的に治療は必要ありませんが、ハイリスクHPV陽性の方は、治療も選択肢の1つです。

高度までいってしまうと、治療が必要になります。高度異形成になった場合、病変を取り除く「円錐(えんすい)切除」という手術などが必要になってきます。

高度異形成やごく初期のがんであれば円錐切除で治療でき、将来の妊娠の可能性も残せます。ただし、妊娠したとき早産や流産のリスクが高まるという報告はあります。

また、それよりもがんが進行してしまうと、ステージにもよりますが大きな手術、放射線治療、抗がん剤治療が必要になる場合もあります。体への負担も大きく、治療中や治療後の合併症のリスクもあるため、慎重に経過をみていく必要があります。

■妊活や子どもへの影響は?

━━軽度異形成や中等度異形成は基本的に様子をみるということですが、その場合、妊活はしても大丈夫ですか。

妊活は問題ありません。異形成の場合、妊娠中に発覚してもその時点での治療は行わず、経過観察になります。高度異形成が妊娠前に発覚した場合はその時点で治療を推奨します。

━━HPVに感染した状態で妊娠すると、子どもに影響はあるのでしょうか。

妊娠中の子どもへの影響は基本的にはまずありませんが、子宮頸がんに罹患しているお母さんから赤ちゃんに転移していたという稀(まれ)な症例報告があります。ただ、非常に珍しいケースのため、基本的には気にしなくても大丈夫です。

━━子宮頸がん検診に引っ掛かってしまった方は、とても不安を感じていると思います。そういった方に向けて、メッセージをお願いします。

子宮頸がん検診に引っ掛かると、みなさんがんだと勘違いされますが、そうじゃない方のほうが多いです。怖がらずに病院を受診していただけると、早い段階のレベルでとどまり、がんの予防にもつながります。ぜひ、怖がらずに病院へ足を運んでみてください。

※取材協力:新百合ヶ丘総合病院