北海道は、開拓に着手してから150年余り。かつては原生林だった地に「まち」ができ、一般の人々の営みが始まるまでにはさらに数十年の月日が流れます。要するに、北海道の歴史は本州に比べると浅い。

そんな北海道で、すでに100年以上の歴史を積み重ねている企業があります。しかも、創業以来「赤字なし」!?

道産子としてこの偉業はとても興味深いので、どのような経営方針のもとでどのように業務展開してきたのかを探っていきます。

  • 1921(大正10)年創業の「宮田自動車商会」は札幌を拠点に自動車修理や自動車補修部品供給などを展開しながら2021年に100周年を迎えた

全国で上位8%の安定性・信頼性を誇る「クルマの総合商社」

100年以上の健全経営を続けているという「宮田自動車商会」。1921年に札幌で個人企業としてスタートしました。

それ以来、自動車部品の総合商社として国産車・外国車のパーツをカーディーラー、整備工場などへ供給する業務を軸に、自社工場で自動車修理も手がけています。

お話を伺ったのは、成田佳吾さん(経営戦略部 人材開発室 兼 総務部総務課課長)。

  • 次の100年に向けて業務内容や人事評価制度等を見直しながら企業として日々新たな挑戦を続けていると語る成田佳吾さん(経営戦略部 人材開発室 兼 総務部総務課長)

まず率直に100年以上赤字なしの真偽を聞くと「実は創業から20年くらいの決算書は残っていないので厳密には定かではありません。ただ、かなり儲かっていたらしいという痕跡はありますので、ほぼ真実ではないかと認識しています」とのことです。

いずれにしても、東京商工リサーチと北海道新聞による「北海道元気カンパニー」で北海道の優良企業※に選定されたり、帝国データバンクの評価として「企業の信用度指数が全国150万社中、上位約8%」に入っていたりするのは事実です。

※2期連続増収増益企業で、2019年4月期~2020年3月期の最終決算で売上5億円以上が対象

「変化を恐れるな!」と大改革

では、100年以上にわたり健全経営を続けている理由をどのように分析しているのでしょう。

「商売を通じて人の役に立ち、喜ばれたいという創業当初からの想いをしっかり受け継いできました。当社だけではなく、ご縁をいただいた企業と相互に利益を得られる仕事をするという考えがお客さまに伝わり、支持されてきたのならうれしいですね」(成田さん)

「クルマは、人で走る」ものだから、「人を大切にする」ことが宮田自動車商会の基本理念。北海道の自動車業界全体を見つめる姿勢がすべての事業に根付いているようです。

「創業した大正から昭和へと自動車を取り巻く環境は大きく変化していました。当社は常にその時流を先取りして挑戦を続けてきたんです。この先もただ長い歴史にあぐらをかいているだけでは次代のニーズには対応していけないという認識も強くしています」(成田さん)

四代目である現社長・宮田祐市氏は「変化しなければ生き残ってはいけない! 変化を恐れるな!」と社員を牽引。次の100年に向けて「MIYATA 2,0-HOW DO YOU CREATE YOUR FUTURE?-」という社内向けのスローガンを打ち出し、スピード感を持って改革を進めているそうです。

  • 人材開発や育成に関して社員一人ひとりとの本音での対話を何よりも大切にしていると言う成田さん

成田さんは「特にここ5年は、めまぐるしく変化しています。社員みんなで次の100年先を見つめ、そのために"今"何をしなければならないかをみんなで考えていくために、もっとも力を入れているのは人材教育です」と言います。

年功序列制度を廃止して若手にもチャンスを!

時流に合わせて変わろうとしている宮田自動車商会では、特に若手が活躍できる場を創出していこうとしています。

まずは、人事評価制度に着手。勤続年数に応じて昇進や給料を決定する年功序列制度を廃止して、個人の能力や成果をより重視する制度へと舵を切りました。

そして、昨年と今年2年続けて入社3~4年目の20代社員を所長代理に抜擢! 従来ならば勤続20年くらいでようやく就けるポストだそうです。

「若い社員たちに頑張れば報われるという意識が芽生えてきたのではないかと感じています。先輩社員たちも負けていられないと奮起するなど、全社員のモチベーションが上がるのも期待したいですね」(成田さん)

研修制度の充実や人事評価システムの構築に力を入れながら、社員一人ひとりとの本音での対話を重視し、個人の成長の先に待っているものは何かを示していくのが人材開発室の役割と成田さんはとらえています。

  • 新たな人事評価制度によって若手社員にも活躍の場が与えられている

社長の宮田氏は「思い切った改革のすべてが上手くいくわけではないかもしれないし、完璧を求めているわけではない。でも失敗を恐れるな。もし失敗することがあっても、何が悪かったのか考え直すチャンスが与えられる」と鼓舞し、立ち止まらずに走り続けようとしているとのことです。

社員の家族に毎年誕生日プレゼント!?

スピーディに改革を進める一方で、宮田自動車商会の魂は失ってはいけない、良い部分は残していくこともしっかり意識しています。

その姿勢を表すもっともわかりやすい福利厚生は、社員の家族への誕生日プレゼントでしょう。

社員一人ひとりの両親、伴侶、子どもの誕生日に会社から毎年プレゼントを進呈。なんと、60年ほど継続しているというのです!

同社へ転職後まもなく、地方に住むお母さんにプレゼントが届いたという中家弘貴さん(経営戦略部 人材開発室 主任)は、こう振り返ります。

「何も話していなかったので母はとてもびっくり! 当社はBtoBの業務形態ですから、一般的にはさほど知名度はないかもしれませんが、母は家族も大切にしてくれる会社なんだねと安心してくれたようです。その感謝は仕事で恩返ししていきたいです」

スポーツ振興・地域社会・得意先へ貢献

「人を大切に」という想いは、地域貢献活動にも息づいています。

象徴的な活動が、「宮田自動車商会実業団バスケットボールクラブ」です。1958年の創部以来、北海道のバスケットボール大会でトップの成績を重ね、名門クラブとして確かなポジションを築いています。

また、「宮田自動車杯・中学生バスケットボール大会」を主催して次代を担う子どもたちに躍動の場を提供したり、プロバスケットボールチーム「レバンガ北海道」やユースチーム「レバンガ北海道U18」のスポンサーとして活動をサポートしたり、北海道のスポーツ振興や地域の活性化に取り組んだりしています。

さらに、得意先を招待するビジネスフェアを札幌で毎年開催。各社の事業や経営に役立つような全国・世界で注目されている商品や技術・情報をいち早く提供しているそうです。

いずれの活動も直接的な利益を生むわけではなくても、例えばバスケに打ち込んでいた若者の入社動機になったり、新事業展開につながったりしているとのことです。

実際に成田さん、中家さんともに中学校時代にバスケ部に所属していたので「宮田」の名前を覚えていたと言います。

「バスケをやっていた本人はもちろん試合を観戦していた保護者にもなじみがある会社名なんです。そんな場面からも当社の活動に対する認知や理解の輪が広がっています」(中家さん)

次の100年へ、挑戦しながら走り続ける

ガソリン車からEV車へシフトするなど自動車市場はめまぐるしく変化している時代、宮田自動車商会ではどのような経営戦略を打ち出しているのでしょう。

「EV車の部品数はガソリン車の約半分です。ただ、部品交換の頻度はむしろ増えるので部品供給の需要も増していきます。一般部品商として道内トップクラスの売り上げと信頼をいただいている当社ならではの優位性を今後さらに高めていきます」(成田さん)

  • 国産車・外国車の多様なパーツ、オイル、工具等を常にストックして得意先の要望に対応

また、電子制御装置が正しく作動するための特殊な調整作業「エーミング」の設備を整えるなど、得意先に求められる技術的なサービス提供を行うとともに、北海道が誇る観光や農業分野においても運送や移動などに関わる新規事業に取り組んでいます。

「自動車業界は、100年に一度の変革期と言われていますが、私たちはまだまだ発展する要素がたくさんあると考えています!」(成田さん)

「人のために」という創業以来変わらない想いで積み重ねてきた信頼関係、そして時流に合わせて改革し続けるチャレンジ精神が両輪となって宮田自動車商会は走り続けているとわかりました。