パーソルグループは先ごろ、「教員の職業生活に関する定量調査」の結果を基にした教員のウェルビーイングに関する発表を行った。調査は2023年10月6~10日、パーソル総合研究所が実施している。

教員の仕事にやりがいはあるのか

今回の調査は、教員の職業生活ウェルビーイングに焦点を当てて、教員の日々の職業生活の現実と課題について定量的に捉えるために実施された。

調査により、「教員の魅力を再確認するとともに、教員としてはつらつと働ける状態を実現し、子どもらにとってより良い教育環境を提供する一助となること」を目指している。

調査対象は全国の男女20代から60代、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校の教員と保育園の保育士。調査モニターを用いたインターネット定量調査となっている。

まず、教員の人生満足度(主観的幸福感)においては、5.39~5.63ptにとどまり、日本平均の6.13ptよりも低い傾向にあることがわかった。

  • 提供:パーソルホールディングス

また5年後の人生満足度の予測では、すべての学校種別で5年後の方が高い傾向にある。性別では女性が、年代では20代がより5年後予測をポジティブに捉える傾向にあった。

しかしながら、校長や理事長などの役職に就いている群では、5年後予測のスコアが低くなる「未来悲観」の割合が多かった。

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続いて、仕事に限定した幸せ実感の調査では、どの学校種別においても就業者全体平均の4.3ptとほぼ同水準。正社員平均をわずかに上回った。不幸せ実感においても就業者全体平均の3.4ptと同水準。正社員平均は下回った。

職位別では、教頭・副校長と教諭がはたらく幸せ実感が低く、不幸せ実感が高い傾向にあった。

教頭や副校長の職務は、「仕事の明確さ」が低く、「仕事範囲の無限定さ」が高い傾向にあり、業務時間の簡易推計では1カ月あたり302.9時間と他の職位と比較してもっとも長時間となっている。教諭においては、特に20代の働く幸せ実感が低く、不幸せ実感が高い傾向にあった。

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職業生活ウェルビーイングは「はたらく幸せ因子」と「はたらく不幸せ因子」によって説明できるとする同社。

幸せには「自己成長」「リフレッシュ」「チームワーク」「他者承認」「他者貢献」「自己裁量」「役割認識」、不幸せには「自己抑圧」「理不尽」「協同不全」「深い空間」「評価不満」「疎外感」「オーバーワーク」と、それぞれに7因子で構成されているという。

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教員のはたらく幸せ実感には「自己成長」や「他社貢献」「役割認識」の因子と関係が強い傾向にある。不幸せ実感では「評価不満」「オーバーワーク」因子との関連が強く、これは就業者全体とは逆の傾向となっていた。

幸せ実感については「自己成長」や「他社貢献」の因子スコアは正社員平均を上回っており、「リフレッシュ」「役割認識」「自己裁量」の因子スコアは正社員平均を下回っていた。

不幸せ実感では、「不快空間」「協働不全」「疎外感」「評価不満」の因子スコアは正社員平均を下回っている一方で、「オーバーワーク」の因子スコアは、正社員平均を上回っていた。

教員という仕事に対してのやりがいについては、「教員であることに誇りを感じる」教員が約6割となった。しかしながら、「教員と言う職業を友人・知人、家族に勧めたいと思う」教員は2割にとどまった。

さらに「教員のイメージは実態と比べて悪すぎると思う」、「教員の悪い実態が取り上げられすぎていると思う」とする割合は約5~6割だった。

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教員になろうと思った時期は、高校から大学時代が多く、中には幼少期から教員になりたいと考えていたケースもあった。

志した理由については、「収入が安定していると思ったから」、「尊敬する教員や、あこがれの教員がいたから」が上位に挙がっていた。幼稚園、保育園については、「子どもが好きだから」「子どもの成長を感じたかったから」と言う理由が突出して高かった。

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実際の職務の中でやりがいを感じる瞬間を尋ねたところ、て「子ども達の人間力が上がった時」がすべての学校種別において高くなっていた。

また、高等学校においては「かつての教え子から、お礼・感謝された時」「かつての教え子の活躍を耳にした時」といった、教え子の存在がやりがいにつながっていることがうかがえた。

そして、幼稚園では「子どもとのつながりを感じた時」が高かったが、保育園では「私の指導が、子ども達にうまく伝わった時」「子ども達から学び、自身の成長を感じた時」が高くなっており、幼稚園と保育園とでやりがいの感じ方に違いがみられる。

教員の多くは仕事に誇りを持っており、授業以外の部活や進路指導などを通して成長を支援できることにやりがいを感じている。

教職本来の魅力を高めるためには、過重労働や評価・処遇への不満を解消するだけではなく、自己成長や他社貢献などを実感できる機会をつくっていくことが、より教員の仕事を魅力的にする鍵ではないかと考えられるという。

また、教員らは世間のイメージほど教員の仕事は悪くないと感じており、調査による実際のスコアも一般的な正社員と同等ではあった。

しかし、20代を中心とする若年層と教頭・副校長などの管理職に関しては平均値を下回るスコアもあるため、速やかな労働環境の改善が必要と同社は指摘する。

教員という仕事への熱意とストレス要因

仕事から活力を得て熱意をもって職務に没頭できているワーク・エンゲイジメントと、心理的ストレス反応の2つの傾向から、仕事にやりがいを感じているが、ストレスを強く感じている「ワーカーホリック教員」、仕事にやりがいを感じており、ストレスをあまり感じていない「ワーク・エンゲイジメント教員」、仕事にやりがいを感じておらず、ストレスを強く感じている「バーンアウト教員」、仕事へのやりがいも、ストレスもあまり感じていない「不活性教員群」の4類型に教員を分類。

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いずれの学校種別でも「ワーク・エンゲイジメント教員」が4割前後を占めている。

また教員では「バーンアウト教員」、教頭・副校長では「不活性教員」の割合が多い傾向にあった。年齢別では、他の年齢層に比べ20代の「ワーク・エンゲイジメント教員」が少なく、「バーンアウト教員」が多い。

小・中・高等学校の教員にとってワーク・エンゲイジメントの高い業務は「主担当として行う8業・活動」や「授業の準備」となっていた。

「主担当として行う授業・活動」は、年齢が上がるにつれてワーク・エンゲイジメントが高く、負担感が低くなる。「授業の準備」は、30代でワーク・エンゲイジメントが最も高くなるが、負担感は40代以降で低くなる傾向が見られた。

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教頭・副校長においては、「学校運営」のワーク・エンゲイジメントが高く、負担感が低い業務となっていた。「保護者や地域住民からのクレーム対応」や「国や教育委員会・自治体等からの調査・統計への回答」には、負担を感じるという。

また、中学・高校における「部活動・クラブ活動」も、負担の高い業務と位置付けられる。

中学・高校において部活動顧問・副顧問を務めている教員は、約7割。中でも20代の教員が最も部活動顧問を務めている割合が多かった。「その部活動の顧問をやりたくてやっている」割合は、中学よりも高校の方が多い。

副顧問よりも主顧問を務めている場合の方が、その傾向は高かった。

そして「その部活動の顧問をやりたくてやっている」意識により、はたらく幸せ因子の中のリフレッシュ因子を高めて、はたらく不幸せ因子のオーバーワーク因子を下げる傾向が見られる。

苦情対応については、小学校・中学校において、「保護者や地域住民からのクレームが多い」「1つのクレーム対応にかなりの時間を割かれる」割合が高かった。あわせて、「クレーム対応によって心身が疲弊することがよくある」傾向にあった。

苦情に対して、組織的対応を行っている割合は半数程度にとどまっており、組織対応できている学校の方が教員のはたらく幸せ因子が高く、はたらく不幸せ因子が低い傾向が見られた。

しかし、オーバーワーク因子については、組織で対応している学校において教頭・副校長が高くなる傾向が出ている。また、苦情の組織対応をしている学校の方が20代の「バーンアウト教員」の割合が少なくなっていた。

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教員にとって、負担を感じる業務は、過剰な苦情対応や統計調査回答、報告書作成などのほか、部活動の運営に関しても負担との声が上がっている。

しかし、部活動は進んで引き受けている教員もおり、部活動の時間が多忙感を軽減したり、リフレッシュを高めたりしている可能性がある。負担に感じる業務を単に減らすだけではなく、教員としてのやりがいを実感できるような業務にしていくことも視野に入れる必要があるだろうと同社。

また、若年層に見られる教員のバーンアウトに関しては、個人の問題ではなく組織的な問題としての解決が課題となる。若年層はベテランに比べ心理的な負担が高く、苦情対応への負担感も強い。

苦情対応については、組織的な対応をしている学校では、対応していない学校と比較してバーンアウト割合が11.2pt低い結果となっており、組織的な対策によって若年層の負担を軽減できる可能性がある。若年層の成長を促す意味でも、システムとして組織による支援体制の整備が求められると分析した。

学びの機会がウェルビーイング向上のカギ

収入関しては、「現在の収入は安定していると思う」割合は小学校・中学校・高等学校では6割を超える一方で「現在の収入に満足している」割合は2割にも満たなかった。

収入満足度に大きく影響を与える要因は、「収入の妥当さ」と「収入の高さ」である、「収入の安定性」が収入満足度に与える影響は小さいことがうかがえる。

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若年層のバーンアウト対策として、苦情対応への組織的対応の整備を挙げたが、実際に組織で苦情対応している学校においては教頭・副校長の多忙感が顕著に高かったと同社。

これは、教頭・副校長が学校運営において学内外への架け橋としての役割を担っており、組織対応をした場合の負担が集中してしまうためを考えられる。この負担を軽減するためには、業務支援要員の設置が有効な対策といえるだろう。

また、教頭・副校長もまたはたらく幸せへの因子の中でも自己成長の影響が大きい。そのため、教頭・副校長にも学びの機会を確保することで、ウェルビーイングの向上を狙えるのではないかと推測するのだった。