長い苦闘の時を経てパラリンピックへの扉を開いた車いすバスケットボール女子日本代表。「サイズは小さくても、激しいディフェンスと走るバスケットで世界を驚かす」を合言葉に強化を図り、1月のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)、2月の大阪カップで着実な成長を示した。そして、この4月にAsueアリーナ大阪で行われたパリ2024パラリンピックの最終予選。チームの団結は最高潮に高まった。

残る4つの出場権を争う

女子のパラリンピック出場枠は東京大会で「10」だったが、パリ大会では「8」に減少。イギリス、オランダ、アメリカ、中国がすでに出場権を得ており、残る4つの席を争う最終予選には、ドイツ、オーストラリア、タイ、アルジェリア(以上グループA)、カナダ、フランス、スペイン、日本(以上グループB)の8チームが出場。3日間の予選リーグで総当たりの予選を実施し、その順位に従って最終日にクロスオーバー戦を行い、クロスオーバー戦の勝者である4チームがパリパラリンピック出場権を獲得する方式になっている。

予選グループの激闘の記録

4月17日、予選リーグがスタート。クロスオーバー戦は各グループの1位と4位、2位と3位が対戦するため、絶対に負けられない最終日を見据え、日本代表はひとつでもいい順位で予選を終えたかったが――。

チーム随一の安定したプレーで文字通りチームをけん引したキャプテンの北田

【予選リーグ第1戦】日本● 46 - 81 カナダ

日本は北田千尋(4.5)、網本麻里(4.5)、柳本あまね(2.5)、萩野真世(1.5)、財満いずみ(1.0)が先発。序盤、キャプテン北田のレイアップで勢いづくと、実力に勝るカナダを抑えリードを奪う。だが、強豪相手に力みもあったのかエース網本のフリースローが絶不調。なかなか得点を決められず、第1クォーターを13-21で終えた。その後、高さのあるカナダにリバウンドを取られるなどして差を縮められず、日本は初戦で黒星を喫した。

【予選リーグ第2戦】日本○ 55- 38フランス

「途中交代で入ったときは緊張したが、シュート時はリングだけを見ていつも通りに打てた」と江口。なかなかリードを広げられない、苦しい時間に若手がチームを救った

1敗同士の対決は、立ち上がりから互いに譲らない激しい展開に。日本は前日同様、北田がレイアップシュートを決めて好スタートを切ると、萩野、柳本が追加点。対するフランスは、分厚い体格のエース、マリオン・ブライズ(4.5)を中心に得点し、第1クォーターを僅差で終える。日本がベンチをあげて盛り上がったのは、第2クォーター。高さのある江口侑里(2.5)らを投入すると、江口が3本中3本を決め、ベンチにいた北田が「ありがとー!」と叫んだ。第3クォーターでは、この日16歳になった小島瑠莉(2.5)が3ポイントを決めて文字通り会場を沸かせた。リードを奪った日本は先発メンバーを休ませて翌日に備えた。

バースデーゴールを決めた小島は「16歳初日に(国際公式戦で)初めての3ポイント、めちゃくちゃ嬉しかったです」

【予選リーグ第3戦】日本 ●45-64 スペイン

予選最終戦の相手は、世界選手権(2023年6月/UAE)で勝利したスペイン。序盤は一進一退の攻防が続くが、ターンオーバーも出て日本は苦戦を強いられた。それでも、持ち味のディフェンスは機能。24-28で試合を折り返すが、第3クォーターは、柳本の3ポイントがネットを揺らしたものの、サイドから攻撃を仕かけた日本の柳本と萩野のシュートが決まらない。ゴール下で得点を重ねるスペインとの点差はじわじわと開いていった。

少ないチャンスもしっかり決めて存在感を示した土田真由美(4.0)

日本は、グループ2勝1敗の2位通過で、翌日のパリ大会出場権決定戦はタイ(AOC 4位)と対戦したいと考えていただけに、試合終了後の選手・コーチからは、失望感が漂っていた。しかし「気合いとかではない、(翌日の決定戦で)勝つしかないんです」と語気を強めた北田の言葉からは“勝てば官軍、負ければ賊軍”の決戦に挑む覚悟を感じさせた。

勝つしかなかった決定戦

【パリ大会出場権決定戦】日本 ○50-26 オーストラリア

予選グループBを1勝2敗の3位で終えた日本は、グループA・2位で同じアジアオセアニアのオーストラリアと激突した。かつて強豪だったオーストラリアは世代交代の真っ最中。今年に入ってから日本は負けなしだが、最終予選を前に複数のベテラン選手が現役復帰し、不気味さを漂わせていた。

スタンドの声援が選手たちを勇気づけた

地元の観客が見守る中、「いつも通り」(網本)を心がけて決戦に臨んだ日本。序盤、強いディフェンスを発揮したものの、オフェンスではミスが続く。しかし、オーストラリアもシュートがゴールにことごとく嫌われ、第1クォーターでわずか2ゴール。日本はチームをけん引してきた北田の活躍に加え、網本が3ポイントを決めて9点リードで第1クォーターを終えた。自滅の一途をたどるオーストラリアを尻目に、日本は前日にはうまくいかなかったメンバーチェンジでたたみかけて清水千浪(3.0)が追加点。リバウンドも制した日本は、第3クォーター終了時には36-13と大差をつけて相手の戦意を喪失させた。

日本のシュート成功率は26.4%と低調で大きな課題を残しながらも、全4戦で12人の選手全員が出場。目標としていた2大会連続のパラリンピック出場権を掴んだ瞬間、選手、スタッフ、観客は歓喜にわいた。

司令塔の役割も果たした柳本(右)は、パリ行を決めた後、涙を流した道は、パリへと続いた

東京大会は開催国枠での出場だったため、自力出場は2008年の北京大会以来、4大会ぶりとなる。

大会途中から調子を上げたベテランの網本。「もう少し点がとれたかなと思う」と反省しつつ、最後まで目標達成への気持ちはブラさなかった

北京大会のメンバーで唯一今も日本代表として戦っている網本は、出場できない悔しさのあまり、ロンドン、リオパラリンピックの映像をリアルタイムで見ることはできなかったという。
「ロンドンを逃してから、すごく長い時間だった。もう途絶えないように、つなげていきたいと思います」

東京大会で銀メダルを獲得しながらも、1月のAOCで敗れてパラリンピック出場を逃した男子の分も……というプレッシャーも大きかったに違いない。

岩野博ヘッドコーチは「日本の車いすバスケットボール界のために、道を途絶えさせてはいけない責任も持ちながら準備をしてくれた」と選手たちをねぎらった。

「点が伸びていかないなかでもしっかりと我慢し、自分たちのバスケットができた」と岩野HC

パリの目標はメダル獲得。北田は言う。
「今日みたいな試合をしていればパリでは、1勝もできずに終わる。(メダルという)目標に届くようにあがきたいので、できることはすべてやっていきたいと思います」

小さくとも世界一になれるのか。東京パラリンピック後にスタートしたチームの挑戦は、夏の本番へと続く。

text by Asuka Senaga
photo by X-1