マイケル・ケンナと聞けば、風景写真が好きなら一度は聞いた名前ではないだろうか。
「10年強の経験だけど写真が趣味」という筆者ですら、その作品の印象は強い。白黒プリントにこだわり、名機ハッセルブラッドで撮影された作品には日本で撮影されたものも多く、その人気は高いだろう。
そんなケンナ氏が4月17日~5月5日、「JAPAN/A Love Story 100 P hotographs by Michael Kenna」という巡回展を代官山ヒルサイドフォーラムで開催している。
氏も登壇した内覧会から、会場の様子を紹介したい。
ケンナ氏が明かす撮影スタイル
東京を皮切りに、ロサンゼルス、ロンドンの3ケ国で順次開催予定という本展示。関係者から写真家まで参加する会場に登場したケンナ氏は、日本との縁をまず紹介した。
「1987年から毎年のように日本を訪れ、当初はギャラリーでの個展という関わりでしたが、次第に日本の風景に心を奪われ、北海道、京都、鎌倉、四国などで撮影しています。地方で撮影するのはさまざまな要因で都市部より困難ですが、幸いガイド役を務めてくれた方の導きもあり、年に2~3回は日本の各地を巡ることができています」
そんなケンナ氏による未公開・新作を含む日本の風景写真100 点が集まっている会場は3つの部屋に大きく分かれている。
部屋ごとに作品を見ると、最初は黒が目立つ作品が、後半になるにつれて白の占める割合が大きくなっているのが見て取れる。
この作風の変化について、次のようにケンナ氏は解説する。
「最初にある黒の割合が多い作品から、3つ目の部屋の北海道で撮った作品は白が目立ちします。被写体がまるで、紙の上に漢字を書いたような、非常にミニマルな作品になっていくのが分かるでしょう。これは、私が日本を訪れるたびに大きな影響を受け、生活から物事への見方といったものにまで影響を及ぼしたからです」
そんなケンナ氏は、自身の撮影スタイルについて、「カトリックの神学校中高と過ごし、神父を目指すことも考えていましたが、素敵な女性に出会って『やっぱりやめよう』と考えを改めました笑。そんなバックボーンもあって、被写体はすべて聖なるものという意識を持っています。許可を得て撮らせていただく、というのが私の撮影に対する考えです」と明かすのだった。
暗室へのこだわり
写真家としてのキャリアが50年というケンナ氏だが、自分は恐竜のような存在だと言う。それは、今でもフィルムからネガを作る「現像」を自分でやっているからだと話すのだ。
暗室での作業を50年間変わらずやり続けていて、逆にデジタルカメラによる一連の作業は速すぎるので、自分には合わない。そうしたこだわりも同氏の作品の魅力につながるのだろう。
筆者は暗室作業の経験は体験会での1度きりで、撮影した露出がめちゃめちゃなフィルムを、ケンナ氏と同年齢のベテランの暗室マンの方に依頼し、何とか見られるものにプリントしてもらっていた。
そんな筆者からすると、ケンナ氏の「暗室で何時間作業していても苦にならない」という写真への姿勢は本当に頭が上がらないし、写真家以上の存在として感じる。
またプリントだけでなく、被写体を探すことへのエネルギーも並外れたもので、北海道の撮影では、事前に調査してもらった撮影スポットを巡るも、お勧めされた場所以外の意外なところ、ものに対して氏のアンテナが反応し、必要なら何時間でも撮影に集中するそうだ。
撮影場所探しを手伝った方は、「月と桜の木を撮れる場所を探していると相談され、日高地方にある競走馬を育成する牧場の中で見つけたのです。そこで夜中に撮影できる環境を整え、明け方までかけて月が動く様子を撮影していました」とある作品作りの際のエピソードを紹介してくれた。
ぜひ、記事に乗せた筆者の撮影した写真ではなく、会場でホンモノに触れてもらいたいと強く願う。
展覧会名:「JAPAN / A Love Story 100 P hotographs by Michael Kenna」
会期:4月17日~5月5日
会場:代官山ヒルサイドフォーラム
東京都渋谷区猿楽町18-88
入場料:無料
主催:日本経済新聞社、FINANCIAL TIMES
企画:PETER FETTERMAN GALLERY