腸内環境を整える「腸活」は、心を含めた全身の健康維持につながり、メリットがたくさんある。人間においては、さまざまな腸活方法を目にする機会も増えており注目されているが、ワンコの健康長寿においても「腸活」は重要だという。

今回は、『獣医師が考案した ワンコの長生き腸活ごはん』の著者で、chicoどうぶつ診療所の獣医師・林美彩先生に、ワンコの腸活方法や大切なポイントについて話を聞いてみた。

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■ワンコの腸内環境、良い悪いはどう見分ける?

――ワンコも腸活が重要とのことですが、その背景について教えてください。

人間の方で腸活が流行ってきたと同時に、ワンコもストレス社会になり、ちょっとした不調が増えてきたような感覚がありました。

そのタイミングで腸活の勉強をする機会があったのですが、ワンコも人間同様、免疫システムのうち約7割を占めているのが腸管免疫ということや、腸とほかの臓器が関連しているといったことが分かったんです。なので、健康維持や長生きにのために、ワンコも人間と同じく腸活が大切だと思いました。

――腸内環境が良い状態と悪い状態の見分け方を教えてください。

1番簡単なのは、うんちの見分け方です。世の中の飼い主さんが「うちの子いいうんちをしました」というのは、若干便秘気味なんですよね。良いうんちは、ほどよく水分を含んでいて、食べたものによって色は変わりますが、ちょっと明るめなんです。悪いうんちだと、黒くて硬く匂いがするものですね。

また、目やにや耳垢などの分泌物、体臭などで見分けることもできます。そのほか、脳内物質を作る原材料は腸から吸収されるため、それがしっかりと吸収されていないと、怒りっぽくなってしまったりと性格にも出てくる可能性があります。

うんちの回数が多いのも、単純に食べすぎているケースもありますが、何か食材が合ってないとか、アレルギー反応で刺激によって腸が動いて出てしまうといったこともあります。

■腸内環境を整えることで、病気の予防にも

――腸内環境を整えるメリットを教えてください

人では、「脳腸相関」「腸腎相関」などと言われる、腸とさまざまな臓器がお互いに関係し合っていることが分かっています。ワンコも人間と同じだと言われており、腸を整えておけば、各臓器の疾患もケアに繋がると考えられます。

腎臓病の時に問題となる尿毒素というものがあるのですが、これは100%腸内細菌から作られていることが分かっています。猫は腎臓病になりやすいのですが、小さい頃から腸活をして尿毒素を作りにくいようにしておけば、腎臓病の予防にもつながると思います。

――なるほど。病気の予防のためにも、腸内を整えることが大切なんですね。

腸だけ整えても、口の中が汚いと、ごはんを食べる際に汚いものが一緒に入ってきてしまいます。また、腸で良いものを吸収しても、血管が汚いと意味がないので、あくまでも腸を整えるのは第一歩で、そこから口の中や血管の状態を見てあげるとさらに良いと思います。

――血管の状態は、どのように気を付けたらよいのでしょうか?

悪い油を食べてしまうと、それが血管の内側にこびりついてしまいます。その一方で、最近では、脂質が低いフードが良いというのが先行しすぎて、油が足りてないワンコも多いんです。油が足りてないと、静電気が起こりやすくなったり、皮膚がカサカサになったり、血液検査でのコレステロール値がすごく低いといったことがあります。油も三大要素の一つなので、油を油でなじませて落とすみたいに、新鮮な油をとることも大切です。

■腸に良い生活って?

――日頃からどういった生活を送るのが、腸に良いのでしょうか。

腸内環境が乱れる一番の要因は、ストレスなんですよね。外に出かけるのが好きなワンコだったら、お出かけをするのがいいですし、逆にあまり好きではないワンコは無理に行かず、家の中で楽しいことをするなど、”愛犬が何をしたら楽しんでくれるのか”を見つけてあげることが良いと思います。

――ワンコたちに合ったストレス発散を見つけるのが大切なんですね。

春は、寒暖差も大きい時期ですし、引っ越しや転勤、進学など、家族環境が変わりやすいと思います。そうするとワンコはそれがストレスになって、体調を崩しやすくなったりします。また、いつもと生活は変えていなくても、自然災害が増えると体調不調も起こりやすいですね。

ちょっとしたストレスでも腸内環境はすぐ乱れてしまうので、立て直すための対策として、楽しいことを見つけてもらいたいですね。そのうえで、歯磨きをしっかりしたり、食事を意識したりしてもらえればと思います。

――愛犬のごはんに悩む飼い主さんは多いですよね。

”手作りでごはんを作らなきゃ”と頑張りすぎてしまう飼い主さんもいるのですが、時間と心に余裕があるときにちょっとやってみようくらいでいいと思っています。

あと、フードは国別でローテーションしてもられると良いですね。世界情勢の影響によって、フードが日本に入ってこなくなってしまったり、国産でも震災で流通経路が滞ってしまったりすることもあると思うのですが、一種類しか食べたことのない子の場合、フードジプシーになってしまうこともあるんです。なので、3つくらいの国のメーカーでローテーションすることをおすすめしています。

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――ごはんをローテーションする際、気を付けることはありますか?

フードの成分が全く違うものであったり、突然切り替えてしまうとお腹を壊してしまうことがあります。療法食を処方されていないワンコであれば、変えてしばらく続いたら、また新しいのを探して……と少しずつローテーションしてもらえるのがよいと思います。

あと、大容量のフードを購入される飼い主さんもいるのですが、愛犬のサイズに合わせて、どんなに長くても開けたら1カ月で食べきるサイズ感で購入いただきたいですね。古くなると酸化した油の影響で腸内環境も悪くなりますし、血管も悪い状態になってしまうので。

――フードの量で気を付ける点もあれば教えてください。

フードのパッケージに記載されてるのは、あくまでも目安になります。わんこによって、胃のキャパや消化能力が違いますし、ドッグランでたくさん運動した日と天気が悪くずっと家で寝ていた日によっても全く違ってきます。

目安にしつつも、体重の増減やその日の運動量、うんちの状態によって調整してもらえたらと思います。人間も動いてない日はあまりお腹が空かないので、一食抜いたりすることもあると思うんです。ワンコも同じなので、自分に置き換えて考えていただけるとよいかもしれません。

――最後に腸活をするにあたって、重要なポイントを教えてください。

やっぱりストレスをなるべく与えないようにすることや食事、口内環境など全部大事ですね。中には、腸活系のサプリメントを多用しすぎていたり、食事も栄養素がいいから毎日栄養満点のごはんをあげたり……頑張りすぎてしまう飼い主さんもいらっしゃいます。でも、それだとワンコもしんどくなってしまいますし、人間と同じくたまにはちょっとジャンキーなものをあげるっていう刺激も大事なんです。なので、何事もほどほどにバランスよくやるのがよいと思います。


『獣医師が考案した ワンコの長生き腸活ごはん』では、犬の腸活の基本や腸活ごはんのレシピ、腸活マッサージまで、犬の腸活がわかる1冊になっている。犬と暮らしている人、これから犬を迎え入れたいと考えている人はぜひチェックしてみてほしい。

書籍『獣医師が考案した ワンコの長生き腸活ごはん』(世界文化社)

著者:林 美彩/監修:古山 範子
定価:1,925円
発売日:2024年2月24日