現在放送中のカンテレ・フジテレビ系ドラマ『春になったら』(毎週月曜22:00~)は、“3カ月後に結婚する娘”椎名瞳(奈緒)と“3カ月後にこの世を去る父”椎名雅彦(木梨憲武)が、「結婚までにやりたいことリスト」と「死ぬまでにやりたいことリスト」を実現していく3カ月間を描くハートフル・ホームドラマ。きょう11日放送の第9話では、雅彦が思い描く“笑って見送ってほしい”という葬式のプランに、岸( 深澤辰哉)は頭を悩ませ、瞳は一馬(濱田岳)と共に、雅彦の“やりたいこと”を叶えるため雅彦がタイムカプセルを埋めた小学校へ向かうが……というストーリーが描かれる。

9話放送を前に、今作を手掛けるカンテレの岡光寛子プロデューサーにインタビュー。前編では、“最高の座長”奈緒と、“これぞ一流”木梨をはじめとしたキャストの魅力について話を聞いた。

  • 奈緒、木梨憲武

    『春になったら』W主演を務める奈緒、木梨憲武=カンテレ提供

テクニック超越した奈緒の芝居 感情表現は“200色”

――奈緒さんとご一緒されるのは、『姉ちゃんの恋人』(カンテレ、20年)以来2度目とのことですが、岡光さんから見た奈緒さんの魅力を教えてください。

奈緒さんは、喜怒哀楽すべての表情が魅力的です。今作のような日常のすべてを描くホームドラマの中では、ナチュラルな動作が隅々まで行き渡っていて、役がそこに生きていると実感させる説得力があります。私たちは脚本の福田靖さんと台本を作って、何度も読んで、テストもしているのに、本番での奈緒さんの魂がこもったお芝居には、思わず涙したり、心がぎゅっとつかまれるんです。テクニック云々を超越した、人を引き付ける力を持っている女優さんです。

――今作を拝見していると、瞳がこの世界のどこかで生きているような、奈緒さんのリアリティあふれる自然なお芝居に驚かされます。

常に我々の想像を超えてくるすごみがあるんですよね。アンミカさんの「白って200色あんねん」じゃないですけど、「奈緒さんの感情表現って200色あんねん」と言いたいぐらい、白でも黒でもない、グレーの感情を無限に演じることができるというか(笑)。毎回見たことのない言い方や表情や仕草が飛び出してきて、感性もすごいですし、いろいろなことを考えながらお芝居をしているんだろうなと思わされます。同時に瞬発力も優れていて、木梨さんがどう投げてくるか分からないボールを、すべてキャッチして投げ返す、そのやりとりによって、瞳と雅彦がとても新鮮味あふれる親子になっているなと。現場では、キャストやスタッフに対する自然な気遣いができる最高の座長。それは木梨さんも同じで、現場全員があの親子を愛しているという思いが、画面にも表れていると思います。

木梨憲武「俺は新人俳優のつもりで行く」“一流”が見せる気遣い

――木梨さんの印象もお伺いしたいのですが、岡光さんはドラマ発表時のコメントで「ダメ元でオファーして、まさか受けていただけるとは思っていなかった」と仰っていました。

まず奈緒さんが娘役に決まって、父役を考えたのですが、私が相手役を決めるときに一番大切にしているのは、「この二人を組み合わせたら、想像もつかない世界に連れていってくれるんじゃないか」と期待が膨らむ“ワクワク感“。木梨さんは私が幼い頃から見ていたスターであり、俳優さんとしては人間味あふれる哀愁もお持ちで、ほかにもアートや音楽活動など幅広く活動をされていて、ずっと大胆で自由でチャレンジングで、少年のような心をお持ちの方だという印象を持っていました。木梨さんの人間性がにじみ出た雅彦なら、奈緒さん演じる瞳と素敵な親子になるんじゃないかと考えて、ダメ元でオファーしました。

――出演しますとお返事をいただいたときは、どんな気持ちでしたか。

最初にマネージャーさんにお声がけしたときは、難しいんだろうなという反応でしたので、ダメ前提で、一縷の望みにかけて待っていたんです。ですから「出演します。よろしくお願いします」とお返事をいただけたときは、「やったー!」と、社会人らしからぬ声が出ちゃいました(笑)。

――出演決定後、木梨さんとはどんなお話をされましたか。

木梨さんのアトリエにお伺いしたのですが、「60歳を過ぎて、まわりでも病気の話や終末期の話が増えてきたんだよね。だからこの企画には感じるものがあった」と、出演を決めたきっかけを話してくれました。あとは、周囲の人からも「こんな機会はないから、やってみたら」と背中を押されたことも。そのあとお食事に誘っていただいたのですが、その場でも、私たちに気を使わせないように、空気を柔らかくして、木梨さんから心の扉を開いてくださって。「俺は新人俳優のつもりで行くから、気を使わずに何でも言って」という気遣いあふれる木梨さんの言葉に、「きっと良い現場になる」と確信しました。

――大ベテランなのにそんな気遣いができる木梨さん、すごいですね。

木梨さんは、主演の自分ではなく、キャストスタッフ全員の団体戦でドラマを作っているんだという思いがとても強い方です。20代の若いスタッフにも平等な目線で接していて、誰かが誕生日だと分かったらすぐにプレゼントを持ってきたり、自分からキャストに声をかけて食事に誘ったり、我々の思いにいつも耳を傾けてくださったり。誰に対しても分け隔てなく同じ目線で接する姿に、「これぞ一流なんだな」と日々感じています。

――そんな木梨さんは、どうやって雅彦の役作りをされているのでしょうか。

木梨さんは、芸能界に長くいらっしゃるのに、心が少年のままなんです。雅彦を演じるうえでも、変に演技プランを練ったり計算したりせず、現場で奈緒さんのお芝居を受けて感じたことを、そのままリアクションで返していて。奈緒さんの表情を見て涙が出てしまったり、思わず声が出てしまったりという素直な反応のすべてが“生”っぽさにつながって、木梨さんの人間性がにじみ出た雅彦になっています。