北海道新聞電子版の12月31日付の記事「JR北海道、豪華列車運行へ 26年4月全道周遊 茶室も」によると、JR北海道は自社で初の豪華観光列車を開発し、2026年4月の運行開始をめざすという。列車名は「赤い星(仮称)」「青い星(仮称)」とし、JR九州などで観光列車を成功させた水戸岡鋭治氏がデザインを担当する。楽しみな一方で、改造の種車がキハ143形、改造費用が17億円と聞くと不安もある。成功して次のステップへ、となれば良いのだが。
記事はかなり具体的で、「赤い星」「青い星」ともに4両編成とのこと。「赤い星」は「豪華観光列車」として改造され、夏から秋は北海道内を周遊するクルーズトレインとして運行。冬から春は釧網本線を運行する。個室、展望席、厨房を備え、食事サービスも行う。観光列車では珍しい「茶室」も用意する。定員は100人程度。1両あたり25人だから、かなりゆったりしている。
「青い星」は普及型観光車両という位置づけで、夏は富良野線、他の時期は北海道内各地で短距離観光列車として運行。観光列車としては一般的なボックス席や展望席を設置するという。
運行区間は「地元負担を前提に存続を目指す赤字8区間」を中心に設定する。具体的には宗谷本線の名寄~稚内間、釧網本線の東釧路~網走間、石北本線の新旭川~網走間、富良野線の富良野~旭川間、根室本線の滝川~富良野間と釧路~根室間(花咲線)、室蘭本線の沼ノ端~岩見沢間、日高本線の苫小牧~鵡川間である。
ここまで詳しく報じられるなら、すぐに公式発表があっても良さそうだ。しかし、2週間が経過した1月13日の時点で公式発表はない。ちなみに、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は2011年1月に構想が発表され、同年5月に列車名など詳細が示され、2013年から運行開始した。このスケジュールをなぞると、2024年1月にJR北海道から構想が発表され、5月に列車名や車両の仕様が示されることになる。鉄道ファンとしても旅好きとしても、詳細の発表が待ち遠しい。
しかし、記事の詳細を追うと不安も大きくなる。その筆頭は「キハ143形を17億円かけて改造する」ことであり、鉄道ファンからの不安の指摘もここが大きい。
キハ143形は新製から40年、改造から30年以上経過している
改造元になるキハ143形は、1994~1995年にかけて製造された一般形ディーゼルカーで、当初は札沼線(学園都市線)を中心に運用された。2012年に札沼線が電化された後は室蘭本線などに移ったが、737系への置換えにともない、2023年に引退した。2024年現在、2両編成10本が残っているという。2012年にワンマン運転対応機器の搭載や床の張替えなどの保全工事が実施されたとはいえ、この時点で製造から30年以上が経過している。
車両の歴史はさらにさかのぼる。キハ143形も新製ではなく改造車で、もともとは客車のオハフ51形だった。オハフ51形は客車列車の近代化を目的に、国鉄時代の1977~1982年に導入された50系客車の北海道版であり、1981~1982年にかけて68両が新規製造された。この期間を含めると、キハ143形は製造から40年以上が経過し、3回の大改造を経た古参車両といえる。「豪華観光列車」へ改造するには古すぎないか。
ところが、すでにJR北海道が運行しているキハ40形の観光車両「道北 流氷の恵み」「道東 森の恵み」「道南 海の恵み」「道央 花の恵み」も経歴はほぼ同じ。キハ40系は1977~1982年に製造された。「北海道の恵み」シリーズの4車両はいずれも1981年の製造で、40年以上が経過している。その間、1991年にワンマン運転対応化改造、2018年に現在の観光車両へ再改造された。筆者は3年前に、「流氷物語号」として「道北 流氷の恵み」「道東 森の恵み」に乗ったが、古さを感じさせない内装と走りだった。
一般形ディーゼルカーを改造した「豪華観光列車」として、JR九州の「或る列車」が挙げられる。改造元となったキハ47形も1981年までに製造されており、2015年の運行開始から現在まで人気を維持している。
こう考えると、キハ143形を改造した観光列車は他の車両と遜色なさそうに思える。JR北海道は2024年度末までに観光車両を除くキハ40形の定期運行を廃止する予定としており、新たな改造車としてキハ143形を選んだ理由もそこにあるかもしれない。なお、キハ143形を含むキハ141系は、一部車両がJR東日本に譲渡され、「SL銀河」の客車に改造された実績もある。
改造に17億円を使うなら新車でも良いのでは?
改造費用17億円という金額について、ネット上では「それなら新車を」という声もある。この17億円という金額は高いか安いか。「赤い星」「青い星」合わせて8両だから、1両あたり約2億1,250万円と計算できる。水戸岡鋭治氏が手がけた「或る列車」の改造費用は2両で約6億円と言われており、本人は日刊工業新聞のインタビューで「ちょっとお金を使いすぎてしまった」と語っている。
豪華列車とされる「赤い星」のほうにコストを配分するとして、1両あたり約2億5,000万円、4両合計で10億円。「青い星」が1両あたり1億7,500万円となるか。改造費としては妥当な数字だろう。
この予算で新車を導入する場合を考えてみよう。たとえば、JR東日本の「リゾートしらかみ」に使用されるハイブリッド車両HB-E300系は4両編成で約14億円、えちごトキめき鉄道の「えちごトキめきリゾート 雪月花」は2両編成で「数億円」とされる。JR北海道の多目的特急車両キハ261系5000番代「はまなす編成」「ラベンター編成」はそれぞれ約20億円。JR九州のクルーズトレイン「ななつ星 in 九州」は客車7両で約30億円といわれている。
もし、新車で観光車両を導入するなら、4両編成1本か、2両編成2本となる。1本だと運用区間と期間が限られるし、2両編成だと厨房を搭載した「豪華」な食事サービスができない。その意味では、約17億円の改造で4両編成2本という選択は悪くない。現在のJR北海道の状況を考慮すれば最適解だろう。この列車が走ることで、沿線の人々の鉄道に対する意識や、JR北海道職員の誇りが高まることを期待する。
本命は北海道新幹線札幌延伸時の「新造車両による豪華観光列車」かも
「赤い星」「青い星」導入のきっかけは「釧路湿原ノロッコ号」「富良野・美瑛ノロッコ号」の車両の老朽化だという。これらの列車は2025年度で運行終了となる。ちなみに、「釧路湿原ノロッコ号」「富良野・美瑛ノロッコ号」の客車も、元をたどればオハフ51形客車であり、キハ143形とはいわば同期だ。吹きさらしのノロッコ車両は傷みが早かったのだろうか。あるいは牽引するディーゼル機関車DE10形・DE15形の引退かもしれない。
「赤い星」は釧路湿原編成とされており、「釧路湿原ノロッコ号」がいきなり豪華列車になってしまうのか、とも思う。しかし、自然保護地区を貫く線路は珍しく、特別な体験であることは確か。特別料金を設定してもおかしくない。
クルーズトレインコースは東急グループなどが協力した「THE ROYAL EXPRESS ~HOKKAIDO CRUISE TRAIN~」の実績と経験によるところが大きい。シーズンごとに関東エリアから北海道まで車両を回送したり、パンタグラフを取り外したり、電源車を用意したりと手間がかかっている。だからこの機会に「赤い星」へバトンタッチとなるだろう。もちろん両方とも走ってくれるなら素晴らしいと思うのだが。なお、「THE ROYAL EXPRESS」は今年1~3月、四国・瀬戸内クルーズトレインとして予讃線などで運行予定。新たなルートを開拓している。
鉄道分野で活躍するデザイナーの水戸岡鋭治氏にとって、JR北海道のプロジェクトは「北限の更新」といえる。現在、「水戸岡デザイン」の北限は富山地方鉄道の観光車両「アルプスエキスプレス」と市内線のレトロ電車。先に「THE ROYAL EXPRESS」が上陸しているとはいえ、JR北海道オリジナル車両のデザインは初となる。
水戸岡鋭治氏の手がけた車両は、難燃化木材など自然由来の部材による温もりと落ち着きのある空間が特徴。その結果、どれも似たようなデザインと評されることもあるが、乗車して細部を見ると、どの列車も沿線の文化をしっかり取り込んでいるとわかる。夏のさわやかな大地、冬景色を眺める温もりの空間がどのような形になるか、楽しみだ。
余談になるが、JR九州における観光列車ビジネスの特徴として、「新幹線に誘客するための観光列車づくり」がある。九州新幹線や西九州新幹線の開業に合わせ、各新幹線に接続する観光列車を設定し、新幹線の観光需要喚起に役立てている。JR東日本も秋田新幹線の開業直後に「リゾートしらかみ」の運行を開始した。
もし、JR北海道が北海道新幹線に接続する観光列車を設定するとしたら、本命は札幌延伸が実現する2030年度以降だろう。それまでに運行された「赤い星」「青い星」の実績をもとに、「新造車両による豪華観光列車」が実現するかもしれない。その期待も込めて、「赤い星」「青い星」の誕生を楽しみに待ち、応援したい。