HERITAGE DATABANKと長崎市による「渋谷軍艦島展実行委員会」は1月11~15日、軍艦島バーチャルフォトグラフィー展示「渋谷軍艦島展」を渋谷文化村通りのハビウル渋谷で開催する。開催直前の会場で、その概要や開催経緯について聞いてきた。
軍艦島とは
軍艦島(端島)は長崎港から南西約18kmの海上に位置。海底炭鉱の島として栄え、日本初の鉄筋コンクリート造による住民向けの⾼層アパートが建築されるなど日本の近代化を支えた。
しかし1970年代に炭鉱が閉山、それ以来人が住まない建物は朽ち果て、現在も劣化し続けている状態。
2015年に「明治⽇本の産業⾰命遺産」の構成資産の⼀つとして端島炭坑が世界⽂化遺産に登録されるも、地理的・技術的理由からその保全は困難を極めているそうだ。
長崎市 世界遺産室長 栗脇善朗氏は「軍艦島への観光客は最大時に年間29万人、長崎市が年間700万人くらいです。港から船で50分という市の中心部から離れた場所にもかかわらず観光地として人気の場所です」とその観光資源としての価値を説明する。
そこでHERITAGE DATABANKが持つ「3Dデータ制作」「3Dデータアセット提供」「コンテンツ企画/開発」のノウハウを活用したプロジェクトが始動。その一環として今回の展示も行われたという。
3Dデータ特有の体験
保全プロジェクトでは長崎市の許可のもと10日ほどかけて全島を撮影し3Dデータでデジタル上に保存。⽴⼊禁⽌区域や構造物の内側など「リアルでは体験できないところまで再現した」デジタルアーカイブ化に成功している。
そのデータを活用した展示会場には、同島の写真集も出す写真家の佐藤健寿⽒による「バーチャル軍艦島写真展」、立入禁止エリアに上陸・バーチャル撮影することができる「バーチャル軍艦島上陸展」、「バーチャル軍艦島解剖展」などが用意されていた。
3Dデータならではの強みでは、「バーチャル軍艦島解剖展」ではないだろうか。軍艦島に現存する歴史的な建築群の⼀棟⼀棟を切り出しているのだ。
実際の建造物は複雑に絡み合い、老朽化で近寄ることすら難しい状況。その問題を解消し、うまく見せることに成功している。
HERITAGE DATABANKの担当者に似たような保全プロジェクトの予定を聞くと、「今回の取り組み内容は初めてのことで、過去にも例がありません。まずは事例の一つとしてきちんど成功させ、それを踏まえて他地域の自治体、寺社仏閣など広げていきたいですね。実際、幾つかお話はあります」と回答する。
超高精細なデジタルアーカイブの実現だけでなく、メタバースやWEB 3.0時代における、3Dデータの新たな活用など、保全活動だけでなく観光やエンターテイメントまでビジネスとして取り組んでいきたいそうだ。
筆者は昭和の街並みが好きで、特に古い商店街を撮影するのが趣味。しかし、古い商店街ほど長年の増築や改築で建物が密集して「何だか訳が分からない」状態の場所が多い。そうした時も、こうした切り出しデータがあるのはありがたいだろう。
また、街の再開発でそうした古いエリアは特に都市部では年々減少し、もはや記憶の中だけという場所もある。
世界遺産の軍艦島という前提の違いはあるが、できれば全国に残る商店街などもデジタルアーカイブ化して残してほしいと思った。
●information
イベント名:渋⾕軍艦島展※入場無料
開催場所:ハビウル渋⾕
住所:東京都渋⾕区宇⽥川町26-6
アクセス:JR⼭⼿線・東京メトロ銀座線・東京メトロ半蔵⾨線「渋⾕駅」徒歩3分
イベント期間:1⽉11⽇ 16〜21時
1⽉12〜15⽇ 11〜21時