1300年前の"出で湯"に浸かって、ぷりっぷりな甘~いカニを食べて、かばんの聖地で買い物欲を満たす。さらに、のどかな田園風景の中、幸せを運ぶ鳥・コウノトリに出会い、ハッピーな気持ちになっている自分を想像してみてください。なんだか、とってもリフレッシュできそうじゃないですか?

  • 豊岡市 四季旬菜 割烹 紀ノ川

そんな旅ができる場所が関西にあるんです。それが兵庫の秘境・豊岡市。お世辞にもアクセスが良いとはいえないけれど、年々人気が高まっているのだとか。そんな豊岡を1泊2日深堀りできるメディアツアーが開催されるという情報が……。ということで、仕事に追われちょっとすりきれていた心を癒やしに、豊岡を旅してきました。

■幸せを呼ぶコウノトリがあちこちに

  • 伊丹~但馬線のフライトは、48人乗りのプロペラ機のみ

豊岡市は、万葉の昔から「但馬国(たじまのくに)」と呼ばれる兵庫県北部にあります。東京からは直行便がないため、大阪・伊丹空港を経由してコウノトリ但馬空港へ。

伊丹空港から乗り込むのは、JAC(日本エアコミューター)の小型プロペラ機。コンパクトな機体ですが、そこがまた良い! 小型機ならではのGを感じながらコウノトリ但馬空港を目指します。

  • 青空に赤い「コウノトリ但馬空港」の文字が映える

伊丹空港からコウノトリ但馬空港までは、わずか最短35分。空の旅を楽しんでいると、あっという間にコウノトリ但馬空港へ着陸です。

  • 兵庫県立コウノトリの郷公園内にある豊岡市立コウノトリ文化館の館内

空港名に「コウノトリ」と付くように、コウノトリは豊岡のシンボル的な存在。というのも、豊岡市は兵庫県と協力し、一度は絶滅したコウノトリの再生プロジェクトに挑み続けてきた歴史を持ちます。

1999年には、コウノトリに特化した研究施設「兵庫県立コウノトリの郷公園」を開園。2005年には、世界でも類を見ない絶滅種コウノトリの野生復帰を実現しました。

また、減農薬・無農薬で作られた「コウノトリ育むお米」があるのも、豊岡市ならでは。豊岡って、人にもコウノトリにも優しいんです。

  • 観察広場で見られるコウノトリ

野生のコウノトリに出会えるかは運次第……ですが、兵庫県立コウノトリの郷公園に行くと、飼育中のコウノトリをいつでも観察できます。

  • にっこりスマイルをくれるコウノトリポスト

園内には"コウノトリの郵便ポスト"も。「ここから幸せ発信」と書かれているように、このポストから送るとコウノトリの消印が付きます。幸せのお裾分けをしたいなら、ここを利用しない手はありません!

■日本一のかばんの産地へ

そんなコウノトリの郷・豊岡の一大産業は「かばん」。東京・名古屋・大阪と並んで、日本4大鞄産地の一つを担っているのが豊岡なのです。

  • 伝統の柳行李を守り続ける、杞柳細工職人の寺内卓己さん

しかも、その歴史は古く1000年以上も前から! コリヤナギというヤナギ科の植物を育て、麻糸と一緒に編み込んだ箱型のかご細工「柳行李(やなぎごうり)」が栄えたことが、"かばんの街・豊岡"のルーツだといわれています。

しかし現在、柳行李職人は「たくみ工芸」の寺内卓己さん、ただ一人。ですが、そのともし火を消さないようにと、地域おこし協力隊員が数名、弟子入りしています。

その地域おこし協力隊の一人、奈良出身の谷田川由紀さんは、寺内さんの丁寧な指導を受けながら、日々技術を磨いているそうです。「手を動かしながらの作業が楽しくて」と、ほほえむ谷田川さん。

  • 真剣な表情でコリヤナギを編み上げる谷田川由紀さん

ちなみに、「伝統工芸館 杞柳」では職人技を駆使した豊岡杞柳細工が一同に集結。手に取って、お気に入りを見つけられます。その中には、子どものころお出かけ用のバッグとして使っていた懐かしの「なるちゃんバスケット」も!

そのほか、気軽に匠の技に触れられるかご編み体験も行っています。ホンモノの魅力に触れたい人やものづくりが好きな人は、トライしてみると良いかもしれません。

  • かがみこんで柳行李を作る田中さん

また、お店の傍らでは、もう一人の地域おこし協力隊のメンバー・田中さんが柳行李を編み込んでいました。水につけてやわらかくしたコリヤナギを、上へ下へ、リズミカルに編み込んでいきます。材料は天然素材だから、硬さや強さもバラバラ。まさに熟練の「技」を必要とする手仕事に、ついつい何度も見入ってしまいました。

  • 日本でここにしかない「カバンの自販機」を発見

さらに、豊岡駅から歩いて15分ほどの場所には「カバンストリート」という、ユニークな商店街があります。この辺りは、右も左もかばんだらけ。14ものかばん関連のお店が軒を連ね、いつでもメイド・イン・豊岡のかばんを買うことができます。

さすがカバンストリート。バス停の形もかばん、ポストもフラワーポットもかばん。極めつきは、カバンの自販機まであります。

  • おしゃれに飾られた鞄を眺めているだけで、ワクワク

「Toyooka KABAN Artisan Avenue(トヨオカ カバン アルチザン アベニュー)」は、カバンストリートの聖地的なスポット。こちらは豊岡市内のメーカー約20社以上、約250アイテムを販売している豊岡鞄の認定セレクトショップ。1階が販売フロア、2階がワークショップを行うフロア、3階がカバン職人の育成専門学校になっています。

  • 「豊岡鞄」に付けられた保証書

豊岡の鞄はOEMがメイン。実はあの有名ハイブランドのバッグが、豊岡だった……ということも少なくありません。しかし、2006年から「豊岡鞄」ブランドを作り、独自にブランディングを始めました。認定された「豊岡鞄」は、アフターケアの保証書つき。職人手作りのかばんを長く使えるから、贈り物にもぴったりです。

  • レッザボタニカの名刺入れ

数ある製品の中で特に心惹かれたのは、レッザボタニカの名刺入れ。赤茶色は、ワインの絞りカスから、緑はお茶殻を染色に再利用したサスティナブルな逸品です。

手で持ってみると、しっとりとなじむレザーの風合いがめちゃくちゃいい! しかも、これで1個8,800円。お値段も想像以上にリーズナブルです。

  • 「Toyooka Kaban Artisan School」の様子

職人育成スクールでは、1年かけて、イチからかばんが作れるように職人を育てているのだとか。ここから次世代のかばん職人たちが巣立っていくんだ……と思うと、ワクワクしますよね。

■出石皿そばや芝居小屋がそろう城下町が面白い

続いて向かったのは、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されている昔ながらの城下町。但馬の小京都こと「出石(いずし)」です。

  • 明治時代から今もなお、街を見守り続け時を刻んでいる「辰鼓楼(しんころう)」

出石のシンボル「辰鼓楼(しんころう)」は、日本で二番目に古い時計台。最も古いのは札幌時計台ですが、その差はわずか27日。

  • 出石皿そばは5枚1組で一人前

出石の名物といえば、出石焼の小皿に盛られた「出石皿そば」。とっくりに入った出汁に、薬味や生卵、とろろなど自分の好きなものを入れながら味変を楽しみます。

街中にはびっくりするほどお蕎麦屋さんがありますが、初めてならミシュランガイドにも掲載されている老舗の「正覚 田中屋」がおすすめ。細めでコシのある麺と、風味豊かな出汁のバランスが絶妙。食後に柚子が提供され、香り高い蕎麦湯とともに楽しめます。

  • 舞台と客席の圧倒的な近さが大きな魅力

「正覚 田中屋」とセットで訪れたいのが、近畿最古の現存する芝居小屋「出石永楽館」。

建てられたのは1901年。一度1964年に閉館されましたが、44年もの時を経て復活。各種公演やイベント、年に一度は片岡愛之助さんを筆頭に大歌舞伎も行われ、歌舞伎ファンが全国から訪れるカルチャーの発信拠点になっています。

天井両脇には、開館当時にあったレトロな看板広告が復元され、アナログ感がエモい! 360度どこからでもフォトジェニックな写真が撮れます。

  • 舞台はもちろん、普段は見られない奈落も行き放題

奈落に降りると、スケールの大きな木造の舞台構造を間近で見学できます。作り物ではない、これぞ本物のレトロ!