専業主婦から夢を追って建設業界へ。女性ならではの発想を武器に地域に根付くリフォーム会社

かつて建設業界といえば男性社会というイメージがありましたが、近年は少しずつ変わってきています。建設業における女性が働きやすい職場づくりが加速しており、実際に活躍している女性も増えてきているようです。そんな中、「建設業界で働きたい」という夢を追って、専業主婦からリフォーム会社を立ち上げたのが株式会社ハウスドック代表の山本貴恵さんです。学生時代に受けた設計図の授業で建築の楽しさを知り、それ以来、いつかは建設に携わることを目指していたのだとか。今回は、夢を実現した山本さんに、起業のきっかけや会社の運営についてお話を伺いました。

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春日部市を中心に展開している総合リフォーム業

――事業内容について教えてください


総合リフォーム業を行っています。主に一軒家やマンションを対象にした、屋根や外壁の塗装、水回り、キッチン、お風呂、トイレの交換などのリフォームになります。その他には、店舗の改修や不動産関係の賃貸物件の原状回復なども請け負っていて、基本的には春日部市を中心に展開しています。

――施工まではどのような流れになるのでしょうか?


まずお客様の意向を伺います。どんなリフォームをしたいのか、どのようなデザインを望んでいるのか。その意見を取り入れた上で、施工後のレイアウト案や商品を提案させていただきます。必要であれば、図面展開であったり、必要な資料をお持ちして選んでいただいたりもしています。そして、その内容にご納得いただけたら、当社から職人さんに依頼して施工するという流れになります。

学生時代の経験から建設業界で働くことが夢に

――今の事業を始めた理由を教えてください


実は現在の仕事は、学生時代からの夢だったんです。最初は地元である静岡県の高校を卒業して、塩の卸売り販売を行う会社で事務員として働いていました。その後、結婚して神奈川県横浜市、そして埼玉県春日部市に移り住み、専業主婦をしていたのですが、ゆくゆくは働きたいという希望をずっと持っていました。また、中学生の頃に家庭科の授業で、自分の部屋の設計図を描く機会があり、それがすごく楽しかったことが忘れられず、いつかはそんな仕事ができたらとも思っていました。

――建設の世界に進みたかったわけですね


ええ。本当は工業高校に進みたかったのですが、親の反対もあって商業高校に進み、それ以降は建設に携わる仕事はあきらめていました。ですが、専業主婦になって育児もひと段落したタイミングで、その夢を思い出したんです。それで、カルチャーセンターに通って、インテリアコーディネーターの勉強を2年間ほどしました。学んでみるとやっぱり楽しくて、今度は実際に働いてみたいという気持ちがどんどんふくらんでいきました。そこで、リフォーム会社など10社ほどへ履歴書を送ってみたところ、そのうちの1社から連絡があり、営業として働くことになりました。

――初めての営業職で苦労があったのではないでしょうか?


はい。もちろんやったこともなければ、会話もそれほど得意ではなかったので、最初は大変でした。そんな中がんばって続けていたら、少し熱を入れすぎたようで、体調を崩してしまい、医者から「少し休んだ方がいい」と言われてしまって。当時の社長からの勧めもあり、1年間ほど体調を優先しながらフリーランスの営業として活動していました。その後復職したのですが、復帰後、最初に担当したお客様にこれまでの経緯を話したところ、独立を勧められ、埼玉県と共同事業の春日部市にある創業支援ルームを紹介してくれたのです。実際に創業支援ルームへ足を運び話を聞いてみると「これなら私でも起業できるかも!」と思い、独立へのスイッチが入ったというわけです。

――建設業界で働く中で苦労したことは?


どうしても男性社会なので、働き始めたばかりの頃は、女性の私にとって感覚が違うと感じるところが多々ありました。仕事の段取りや進め方で、女性だと細かいことに気がついてあれこれと口を出してしまうんです。でも、それが職人さんにとっては口うるさく聞こえてしまったようで、怒らせてしまったことがあります。相手はプロなので、やはり信頼して任せることも大事だということは、仕事をしていくなかで徐々に理解していきました。

小さな修繕や工事を請け負えることが当社の強み

――リフォーム会社を立ち上げるのに、資格などは必要なのでしょうか?


特には必要ありませんでした。ただし、工事を行うのに1件あたりの請負金額が500万円以上になると、建設業許可を受けなければなりません。私は専門学校を出てもいなければ、一級建築士などの資格も持っていません。ですから、大きな工事ではなく、小さなリフォームを専門で受けてきました。実は開業資金もそれほどかかっていなくて、必要なものと言えばパソコンとメジャーくらいです。仕事で使う車は自家用車を使っていました。オフィスは、最初は創業支援ルームという春日部市が支援しているシェアオフィスを活用し、現在のオフィスは市の補助金を活用して開いたので、こちらもそれほど費用はかかりませんでした。

――集客はどのようにしたのですか?


以前に勤めていたリフォーム会社の社長がとても理解のある方で、私がその会社で飛び込み営業をして獲得したお客様についてはそのまま連絡を取ってもよいとおっしゃってくれて。まずはそのお客様へのあいさつ回りからスタートしました。あとは、新たに飛び込み営業を行い、今はおかげさまでお客様も増えて、そうした方々が口コミで評判を広げてくださり、新規案件を紹介していただけるようにもなりました。

――既存のお客様からはどのような依頼がくるのでしょうか?


リフォームと言っても一度にすべてを修繕するお客様ばかりではありません。屋根や外壁の塗装をやって、今度はお風呂、次はキッチンというように、部分的に少しずつ進める方も少なくありません。そうしたお客様からの依頼が何十件とあって、仕事が継続していると言えばわかりやすいでしょうか。また、例えば網戸の張り替えや、キッチンの水栓の交換といった、リフォームとまでは言えないような仕事も請け負っています。こうした小さな修繕や工事は、意外と「どこへ頼んでよいかわからない」という声が多いんです。そうしたことも当社では対応できるので、逆にそれが強みになっているのかもしれません。

――印象に残っている仕事はありますか?


2022年6月に、春日部市でこれまで経験したことがないような、大粒の雹が降りました。屋根やベランダをはじめ、ガラスが割れたり、樋に穴が開いたりといった問い合わせが殺到しました。当社のお客様は高齢者も多く、中には金銭的に余裕のない方もいます。ただ、当社は施主様がご加入いただいている火災保険などの手続きも扱っていて、申請のお手伝いもできるので、自己負担が少なく修繕できた時にはとても喜んでいただけました。少しでも地域の役に立てたことがうれしかったですね。

空き家を「負の遺産」にするのはもったいない

――コロナ禍は大変でしたか?


売り上げがすごく落ちたのですが、中小企業等の事業再構築を支援する「事業再構築補助金」のことを知って、これはチャンスかもしれないと思いました。というのも、創業当時より飛び込み営業していた時に、空き家の多さに気付き「春日部市にもこんなにあるのか」と驚きました。何千万円という人生で一番高い買い物かもしれないものが、空き家として放置されるのはもったいないですよね。何とかしたいと思っていた中で補助金の存在を知り、空き家を使って時間貸しのレンタルシェアオフィスを事業として始めました。

――アイデアを思いついたのはいつですか?


お客様などの話を聞いていると「息子が新しく家を建てて、実家へは戻らない」といったケースが意外と多く、「私たちがいなくなったら家はどうなるかしら……」と心配をする声を聞きました。また一方で、若い人たちは両親が住んでいた家をあまり欲しがらないという傾向があることも徐々にわかってきました。そこで、最初は空き家の管理をしようと動いたのですが、空き家にお金をかけたくないという事情からそれほど需要がなかったので、それなら地域の人に使ってもらったり、起業家たちに使ってもらったりすればいいと考え、行き着いたのがレンタルシェアオフィスでした。

――現在の稼働状況はいかがでしょうか?


2022年に市内にオープンしてから本格的に告知していないこともあり、まだまだです。これから本腰を入れて集客を図ろうとしている状況で、今は料理教室などのイベント利用が多いですね。2号店、3号店と店舗展開もしていく予定で、空き家のオーナーには税金だけがかかる「負の遺産」ではなく、収益をきちんと出せるサービスとして広めていければと考えています。一戸建てというのは、お手入れをしていれば80年は住めるはずなんです。そんな大事な資産を30年や40年で壊してしまうのは、本当にもったいないこと。サービスを通してせっかくの大切な家を有効活用してもらいたいです。

「やらまいか」の精神で一歩前へ踏み出す

――最後に、独立・開業を目指す読者にアドバイスをお願いします


まず行動することが一番大事ではないでしょうか。そこには失敗への不安がつきものですが、それは次に進むためのステップだと思っています。ぜひ一歩前に動き出すことを心がけてほしいですね。私は静岡県浜松市の出身なのですが、方言に「とにかくやってみようか」という意味で、「やらまいか」という言葉があります。何かあるたびに口にしていて、その精神を忘れないようにしています。ダメだったらダメでいい、そこから学びを得て成長できる。もちろん、一人でできることには限度があるので、たくさんの人との繋がりも必要です。それもまた大切にしてほしいですね。

――座右の銘などはありますか?


会社勤めをしていた頃、営業の先輩から教わった話があります。とても優秀で頼り甲斐のあるその先輩は、過去に7カ月もの間、一度もお客様を獲得できなかった時期があったそうです。もう本当に苦しくて、何度も仕事を辞めようと思い詰めていたと話してくれました。でも、最後の力を振り絞って、もう少し、もう少しと飛び込み営業を続けていたら、ようやく一件獲得できた。先輩はそこであきらめなくて良かったと心底思ったそうで、それ以来、座右の銘は「あきらめない」だと言っていました。当時、私も営業成績が悪くて、励ましでそうしたエピソードを語ってくれたのでしょう。思わず「私もその言葉を座右の銘にします!」と言っていましたね。でも、それが仕事の本質だと思っています。

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