イスラエルとハマス戦闘員の戦争が悲劇を生み続ける中、人々は暴力行為や過激な物言いをなかなか理解できずにいる。そんな中、2001年の米同時テロの首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者が2002年に公表し、テロ攻撃後に出した声明文に称賛を送る人々が今も少なからずいる。
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先月14日、リネット・アドキンスさんはTikTokに動画を投稿し、ビンラディンが米国のイスラエル支援を批判し、米国人がパレスチナ人への「抑圧」に資金を提供しているなどとし、反ユダヤ主義的な内容を綴った声明文のタイトルを挙げた。
コメントを寄せたユーザーも、同じように声明文に衝撃を受けていた。「読みました……目からウロコでした」というコメントもあれば、米国に対するビンラディンの批判について「私たちの存在すべてが汚れていることが分かった。彼は間違ってなかった」というコメントもあった。動画そのものも拡散し、若いTikTokユーザーは賛同するかのように非難文をシェアして、フォロワーにも読むよう促した。全文を掲載した25歳のユーザーは、「僕らは人生ずっと騙されていた。オサマが見つかって殺された時、歓声を上げる人々の姿を覚えている」と投稿した。「当時子どもだった自分は混乱した。いまだに混乱している。この国が世界にした仕打ちはひどすぎる」。
こうした動画は数千件のいいねと閲覧回数を稼いだが、その他の類似動画とともにTikTokから削除された。TikTokの広報担当者はローリングストーン誌に声明を宛て、「問題の手紙を推奨するコンテンツは、いかなる形態のテロ行為も支援しないという弊社のルールに明らかに違反しています。弊社は現在こうしたコンテンツを自主的かつ積極的に削除し、当社のプラットフォームに上がってきた経緯を調査しております」と述べた。またこうしたコンテンツは「TikTokに限ったことではなく、複数のプラットフォームやメディアに上がっています」とも指摘した。たしかに、似たような意見はInstagramやX(旧Twitter)でも見うけられた。
9.11同時多発テロから1年後に書かれた手紙の中で、ビンラディンは事件以来アメリカのメディアがこぞって取り上げた2つの問いに対する答えを提示しようとした。「我々が戦い、あなた方に反対する理由は何か?」「我々があなた方に求めることは何か? あなた方は我々に何を求めているのか?」。最初の問いはまさしく、現在ガザ地区で進行中の人道危機にも通じる部分だ。手紙でも、パレスチナの領土にユダヤ人国家の建設と存続を容認したアメリカを痛烈に批判している。「イスラエルの誕生と存続は大罪のひとつだ。あなた方は罪人の首謀者だ」とビンラディンは主張する。「この罪に加担して手を汚した人間は、間違いなく1人残らず代償を払うだろう。それも重い代償を」。
ビンラディンはパレスチナに対する迫害への「復讐」方法に話を展開し、西側の帝国主義や覇権争いを広い意味で非難した上で、民間人の死者を出すジハードを正当化した。「アメリカ国民は税金を払い、その税金がアフガニスタンを空爆する戦闘機や、パレスチナの家を破壊する戦車、アラブ湾の土地を占領する軍隊、イラク封鎖を実行する戦艦の財源になっている」とビンラディンは主張した。「こうした理由から、アメリカ国民はアメリカやユダヤ人が犯したすべての罪にまるで無関係とは言えない」。
ビンラディンの審判には、当時主流だったアメリカ政治観についてあながち間違いではない部分もある――温暖化ガス排出を規制する京都議定書に署名しなかったアメリカの糾弾などだ。だが一方で、反ユダヤ的な文言やヘイトスピーチも散見される。アメリカを牛耳るユダヤ人が「あなたがたの政治、メディア、経済をコントロールしている」と繰り返し、いたるところでホモセクシャルや姦淫は「蛮行」だと非難しては、本人が「アメリカによる悪魔の発明」と呼ぶエイズの蔓延はアメリカの責任だと主張した。アルカイダの要望については、アメリカに「偽善」文化を撤廃させ、イスラム教国家にさせることだと述べた。
Googleで「Letter to America」と検索して上位にあがってくるのが、ザ・ガーディアン紙のwebサイトに2002年付で公開されたページだ。先月15日、このページはソーシャルメディアで関心を集め、一時トレンドトップ入りを果たしたが、その後新聞社によって削除され、代わりに短いメッセージが掲載された。「以前このページには、2002年11月24日にオブザーバー紙が報じたオサマ・ビンラディンの『Letter to the America』の全文翻訳が掲載されていました」「同じ日に弊誌に掲載された記事は、2023日11月15日に削除いたしました」。それ以上の説明は何もない。
記事が削除されたことで、TikTokやXではさらに議論が活発化した。人々は編集部の決定に疑問を呈し、手紙を掲載した他のページのリンクを探し求めた。「幸い向こうは僕らのメモリを消せないし、僕らが過激化するのを止めることもできない」と投稿したXユーザーは、記事がインターネットに出回った後でザ・ガーディアン紙が削除したのは「偶然ではない」と主張した。「世間を無知な状態にしておきたいんだ」と別のユーザーも投稿した。9.11同時多発テロ事件の首謀者ビンラディンは「必ずしも悪者じゃなかった」と主張するユーザーもいた。「いわゆるTikTok左派がオサマ・ビンラディンを称賛してるみたいだけど?」と、信じられないといった風にツィートするユーザーもいた。「過激化して頭おかしくなったんじゃない?」。
何はともあれ、すでに大勢の命が奪われている中東での紛争や、この地域でのアメリカの立ち位置をめぐり、アメリカ人が対立して怒りにかられていることを如実に示しているのは間違いない。こうした議論に関わった一部の人間が過激思想に基づく大量殺人を正当化したあかつきには、最悪の事態になるだろう。
後日こうした現象を報じた記事には、ジャーナリストのヤシャール・アリ氏がTikTok動画をまとめた総集編をXに投稿していなかったらこんな風にはなっていなかっただろう、と論じられていた。ワシントンポスト紙によると、総集編の閲覧回数は3200万回以上。一方、投稿以前に#lettertoamericaというハッシュタグ付きのTikTok動画が閲覧された総数は200万回だった(このハッシュタグはすでにTikTokからすべて削除済み)。ザ・ガーディアン紙がwebサイトから記事を削除したために、かえってコンテンツを広めることになった可能性もある――情報が検閲されたと分かると、かえって関心が高まる「ストライザンド効果」と呼ばれる現象だ。
とはいえ、ビンラディンの手紙に魅了されたZ世代の当初の熱はしぶといようだ。のちにTikTokから削除された動画をアップロードしたインフルエンサーは(安全性の理由から匿名希望)、少なくとも1週間前に「Letter to America」を勧める動画を目にしたとローリングストー誌に語った――ただし、すべて無視したという。今週に入ってからも、手紙を話題にするTikTok動画はFor Youページに溢れていたそうだ。
編集部追記(11月16日、東海岸時間午後8:40):この記事はTikTokのコメントと、「Letter to America」の動画と投稿が閲覧された経緯の詳しい背景を加筆して改訂されました。