昔からカメラが好きで、フィルム・デジタル問わず、取っ替え引っ替えいろいろな機種を使ってきた。

  • 著者がハマったトイデジカメ、FUJIFILM『INSTAX Pal』。(写真:佐藤誠二朗)

でも、メインで使うハイアマチュア向け高性能機種は高いので、そうバンバン買うわけにはいかず、代わりに僕の“カメラ欲”過多な心の隙間を埋めてくれたのがトイカメラだった。

■ロースペックのダメダメ写真を“エモい”と愛でるトイカメラカルチャー

古くはロモLC-Aにはじまり、ホルガ、スメナ、ハリネズミカメラ、デメキンカメラ、バビロン4、ポップ9、フィッシュアイ、ポラロイドピンホールカメラ80、Pixtoss…と、本当に色々なトイカメラで遊んできた。
これらの、インスタントを含むフィルムトイカメラは、今もいくつかの機種を捨てずに持っていて、ときどき思い出しては引っ張り出して使っている。

  • 現役で使っているものもあるトイカメラコレクション

デジタルはどんなカメラを使っても、カメラ備え付けのエフェクト機能や、PCおよびスマホ上の画像処理によって、撮った写真をいくらでもそれっぽく加工ができるので、ハードとしてのデジタルトイカメラの魅力は、フィルムトイカメラに比べて乏しい。
トイデジカメの名機として名を残す、2005年発売のTOMY『シャオスタイル』を最後に、僕もデジタルのトイカメラを新規で買うことはなくなった。

昨今はさらにスマホのアプリがどんどん進化し、やりようによっていくらでも面白い写真が作れるので、さすがにもう二度と、トイデジカメに手が伸びることはないだろうと思っていたのだが…。

買ってしまいました! 久々のトイデジカメ。
FUJIFILMの『INSTAX Pal』である。
そして、めっちゃ気に入ってしまい、最近は毎日毎日持ち歩いて使い倒しているのだ。

  • FUJIFILM『INSTAX Pal』。5種のカラーバリエーションの中から“ピスタチオグリーン”を選択した

そもそもトイカメラ趣味というのは、制約の多い低性能なレンズやボディによる、“上手く撮れない”具合を愛でるもの。 それはカメラ道の本筋ではないのかもしれないけど、トイカメラが生み出すちょっとダメな写真は、なぜか感情を揺すぶるような不思議な味わいのものになる。

そして、そんな写真を“エモい”と喜べるのは、感受性豊かな蒼き心を持つ若者が中心と、一般的には信じられている。
それが証拠に、現代のトイデジカメと呼ぶにふさわしいFUJIFILM『INSTAX Pal』は、ボディのデザイン、撮影の際に本体から発するサウンド、それに本体とセットで使うスマホアプリのUIに至るまで、若者ウケを狙って、とてもポップに可愛らしく仕上げられている。

  • 別売りのシリコンケースを装着したところ。レンズキャップも兼ねている

今年9月、同機種のメディア発表会が大々的におこなわれたが、そこに登壇したのは広瀬すずと横浜流星というZ世代の人気タレントだった。
そんなことからも、50歳半ばに差しかかる僕のようなおっさんは、そもそもこのカメラの想定購買ターゲットから大きく外れているんだろうなということは感じる。

■久しぶりに買ったトイカメラは、トイカメラらしい魅力が満載だった

でもねー、買って使ってみると、本当にこれが楽しいんですわ!
僕はこの記事で、同機種の細かいスペック情報に言及しようとは思っていないが(そういう記事は他にいっぱいあるので、どうぞそちらをご覧ください)、このFUJIFILM『INSTAX Pal』は、そもそも明らかにスペックでは語りきれない何かを秘めているカメラだ。

とはいえごく簡単に、当カメラの基本機能だけは紹介しておこう。
INSTAXと銘打たれているとおり、FUJIFILM『INSTAX Pal』は、“チェキ”の愛称で知られ、いまだ世界中で愛用者の多いインスタントカメラシリーズの一角に位置付けられたカメラだ。
チェキシリーズのカメラの多くは、FUJIFILM製のインスタントフィルムを使うので、“フィルムカメラ”にカテゴリーされるけど、このFUJIFILM『INSTAX Pal』はチェキシリーズながら、純粋なデジカメであるという変わり種。

ちょこんと手の平に乗る極小ボディは、電源とシャッターの2ボタンを備えるだけで、モニターもなければ、チェキをチェキたらしめるプリンターもついてない。
撮った画像は、約50枚まで収められる内蔵メモリかマイクロUSBを使って記録する。
モニターもプリンターもないので、写真を確認したり、本体のさまざまな機能をコントロールしたり、リモートによって本体をコントロールしたりはすべて、Bluetooth接続したスマホの専用アプリ上でおこなう。

  • 背部にあるシャッターボタン

別売りのチェキ専用プリンターを使えば、Bluetoothで画像データを送り、チェキ写真にすることもできるが、僕は敢えてプリンターを用いず、純デジカメとしてFUJIFILM『INSTAX Pal』を楽しんでいる。

撮影するたびに専用アプリに送られる『INSTAX Pal』の写真は、そのままスマホのアルバムに転送・保存することもできるし、アプリの機能を使って画質調整やエフェクト追加などをすることもできる。
僕は今のところ、撮れた写真に加工は施さず、カメラ本来の性能が生み出す生の画像を楽しんでいるが、いずれはアプリを駆使して加工もやってみようと思っている。

『INSTAX Pal』のカメラとしての性能はというと、実にトイカメラらしいロースペックだ。
一時代も二時代も前のデジカメのような、最大で約500万画素弱という記録画素数だし、スマホカメラのものより小さい、1/5型という米粒のような撮像素子を使っている。
チェキフィルムのようなミニサイズプリントに適した粗い画質の写真しか撮れないので、僕のように純デジカメとして使う場合には、スマホ画面で拡大せずに見るのが、ギリギリ鑑賞に耐えうるラインだ。

レンズはもちろんオートフォーカスなしの固定焦点だし、とにかく色々なことを諦め、納得したうえで、そうしたロースペックならではの写真を楽しむ、“引き算式”カメラと考えるといいだろう。

■チェキ特有の白枠付き写真になるので、すべてを許してしまう

もちろんファインダーもないけど、付属のストラップについている円形枠を使えば、一応、大まかに被写体を狙うことはできる。だが僕は、面倒なのでそれもあまり使わない。
ほぼ勘だけに頼り、なんとなく写したい対象にレンズを向けシャッターを切っているのだ。

  • ストラップについている枠をファインダー代わりに使う

それでも狙ったものがほぼ写真枠内に収まるのは、『INSTAX Pal』が35mm判換算で16.25mmという、超広角レンズを搭載しているからだ。
これほどの広角だと、あまり深く考えなくても、自分の体の前にあるものだったらほぼすべてが画角内に収まるので、本当に気楽にポンポンとシャッターを押すことができる。
この“気楽さ”が『INSTAX Pal』の最大の魅力。
別売りシリコンケースについているカラビナでバッグのストラップなどにぶら下げておき、少しでもハッと思ったらすぐに起動してポチッと撮る。これが実に楽しい。

アプリに転送される写真には、最初からチェキ写真特有の白枠がついた状態になっているので、純デジカメとして使っていても、チェキで撮影していることを思い出させてくれる。
繰り返すが、このカメラで撮れるのは、どう頑張ってもこの時代にこれでいいのか?と思うような低画質写真。
だけど、このチェキ枠があることによって、すべてを許せる気持ちになるのかもしれない。

撮影フォーマットは、3種類から選ぶことができる。
オリジナルのチェキと同じ縦長フォーマットの「mini」、真四角写真となる「SQUARE」、そして横位置写真となる「WIDE」である。
僕は購入した当初、せっかくなのでチェキらしい「mini」フォーマットばかり撮っていたが、試しに「SQUARE」や「WIDE」に切り替えてみると、それぞれとても魅力的であることがわかり、今はこまめにフォーマットを変えながら撮影している。

  • チェキらしい「mini」フォーマット

  • SNS投稿にも使いやすい「SQUARE」フォーマット

  • 超広角レンズの威力を発揮する「WIDE」フォーマット

特に横位置の「WIDE」は、当初チェキらしくないと思って敬遠していたが、試してみると16.25mmの超広角レンズの良さを、もっとも強く感じられるフォーマットであることに気づき、最近は多用している。

僕がFUJIFILM『INSTAX Pal』を購入してから、まだ三週間弱しか経っていないが、本当にハマってしまって、すでに何百枚もの写真を撮影した。

買ったばかりの頃にはさすがに舐めているのかと思った「ピュイ、ポン」という起動音や「ピュ、ピュ、ピュ、パチ」というシャッター音(シャッター音は何種類もの中から選択可能だし、オリジナル音を登録することもできる)、それに「ウ、ウ〜ン」というシャットダウン音も、今では可愛くて仕方がない。

中学生の娘も僕のFUJIFILM『INSTAX Pal』を気に入り、なんとかしてもらえないものかと狙っているのは気づいているけど、悪いがまだ当分の間は譲れない。
お父さんも、このカメラ大好きなんだから。

  • 「mini」フォーマットの作例

  • 「SQUARE」フォーマットの作例

  • 「WIDE」フォーマットの作例

文・写真/佐藤誠二朗