JR東海は、東海道・山陽新幹線「のぞみ」で導入していた「S Work車両」の運用範囲を拡大し、10月20日から「ひかり」「こだま」(16両編成)でもサービスを開始した。筆者は10月21日、名古屋駅から新大阪駅まで「ひかり」の「S Work車両」を利用した。

  • 東海道新幹線N700系。10月20日から16両編成で運転される「ひかり」「こだま」にも「S Work車両」が導入された

■新たな東海道新幹線を象徴する「S Work車両」

「S Work車両」はビジネスパーソン向けに2021年10月1日からサービス開始。東海道・山陽新幹線「のぞみ」(16両編成)の7号車に導入した。モバイル端末等を気兼ねなく利用しての仕事を想定しており、周囲の乗客に配慮した上で、他の車両では憚(はばか)られるWebミーティングや携帯電話の通話も「S Work車両」の座席で行えるようにした。

N700Sにおいて、「S Work車両」の7号車とグリーン車の8号車に新たな無料Wi-Fiサービス「S Wi-Fi for Biz(Shinkansen Free Wi-Fi for Business)」も導入。従来の無料Wi-Fiサービス「Shinkansen Free Wi-Fi」と比べて約2倍の通信容量を備え、利用時間の制限もないという。

今年4月、JR東海は東海道新幹線の車内におけるビジネス環境をさらに充実させるため、10月から「S Work車両」をリニューアルすると発表。あわせて16両編成の「ひかり」「こだま」について、10月20日から7号車を「S Work車両」とすることも発表した。

  • 10月20日以降、「S Work車両」の3人掛け座席の一部が「S Work Pシート」に(写真はN700S。報道公開にて編集部撮影)

このリニューアルに合わせ、7号車「S Work車両」の3人掛け座席の6~10番B席にパーティションを設置。左右のA・C席を新たに「S Work Pシート」として設定した。テーブルも改良され、手もとにスライドさせると傾斜するタイプに。改良したテーブルは「S Work Pシート」の座席だけでなく、その前後の座席(A席・C席のみ)にも設置される。

今後、「S Work車両」の全座席でリクライニング角度を従来より小さくする予定。これらの改良により、モバイル端末やノートパソコンで仕事しやすい環境を整えた。N700Sの一部編成で試験導入していた「ビジネスブース」も、改良を加えた上でN700Sの全編成に導入される。

  • 「S Work Pシート」はパーティションの他にドリンクホルダーも備える(写真はN700S。報道公開にて編集部撮影)

  • 改良テーブルを採用したほか、リクライニングの角度も従来より小さくなった(写真はN700S。報道公開にて編集部撮影)

「S Work車両」は導入当初から「エクスプレス予約」「スマートEX」専用商品として販売している。「S Work車両」の料金は「エクスプレス予約」「スマートEX」で普通車指定席を予約する場合と同額だが、「S Work Pシート」を利用する場合は追加料金(1,200円)が必要となる。

■「S Work車両」リニューアル翌日の「ひかり」に乗車

10月21日、筆者は名古屋駅で開催されたHC85系のブルーリボン賞授賞式を取材した後、帰りに名古屋駅を13時19分に発車する「ひかり641号」(新大阪行)に乗車。7号車「S Work車両」を利用した。「ひかり641号」は名古屋駅から新大阪駅まで各駅に停車する列車で、使用車両はN700系だった。

7号車「S Work車両」の車内に入り、まず驚いたことは乗客の少なさ。土曜日の昼間の東海道新幹線だったが、片手で数えられるくらいの乗客しかいなかった。隣の6号車(普通車指定席)がそれなりに混雑していたこともあり、あまりに落差が激しい。「S Work車両」のリニューアル翌日、しかも土曜日だったことに加え、「ひかり」「こだま」にも「S Work車両」を導入することがあまり周知されていなかったからかもしれない。

筆者は「S Work Pシート」の後部座席を予約していた。着席した後、早速、パソコンを使っての仕事を試みる。リニューアルに伴う取組みのひとつである改良テーブルは、手もとにスライドするとテーブルの角度を変えられるようになっている。おかげでパソコンの画面を見やすい角度にできた。

  • 改良テーブルは手もとにスライドさせると傾斜する(写真はN700S。報道公開にて編集部撮影)

一方、筆者の乗車した列車はN700SではなくN700系のため、車内で提供されるWi-Fiサービスは30分ごとに再認証が必要な「Shinkansen Free Wi-Fi」だった。スマホならまだしも、パソコンの作業において30分ごとの再認証は正直なところ心もとない。

パソコン作業に続いて、紙の原稿をチェックする作業も試みた。原稿にペンで書き込む必要があるため、「車内の揺れで作業がしにくいのでは…」という懸念を持っていたが、実際のところ、筆者が想定していたほどテーブルは揺れなかった。途中の岐阜羽島駅と米原駅で5分以上停車したこともあり、作業は大いに捗った。

筆者が利用した座席は整備完了前のもので、リクライニングシートの角度は通常の普通車指定席と同じだったが、パソコン作業にしろ原稿のチェック作業にしろ、作業時は自ずとリクライニングが浅くなる。「S Work車両」の全座席を対象に、リクライニング角度を従来よりも小さくするという方針は理にかなっていると感じた。

■課題は「仕事に集中しやすい環境」づくりか

「ひかり641号」は14時27分、終点の新大阪駅に到着。名古屋駅から約1時間10分だったが、仕事に集中でき、有意義な時間を過ごせた。

  • 「S Work車両」でのウェブミーティングや携帯電話の通話は周囲の乗客に配慮しつつ、「最低限の作業音は“お互い様”として許容いただきご利用ください」とのこと(報道公開にて編集部撮影)

実際に利用してみて、インターネット環境を除けば快適な「ひかり」の「S Work車両」だったが、課題も浮き彫りになった。それは「仕事に集中しやすい環境」づくりである。

「S Work車両」では、すべての乗客に対して仕事を義務化しているわけではなく、車内での過ごし方は乗客に任せている。一方、筆者が乗車した「ひかり」もそうだったが、他の車両と比べて「S Work車両」だけ空いている場合があり、それゆえに仕事目的ではない乗客まで「S Work車両」に流れてくることも十分ありうる。飲酒したり、周囲に聞こえるような声で(仕事と関係ない)会話を始めたりすれば、その時点で「仕事に集中しやすい環境」ではなくなってしまう。「S Work車両」が気兼ねなく仕事を進めることを想定している以上、乗客ひとりひとりの配慮も大切かもしれない。