京成電鉄は、2028年度から押上~成田空港間で「新型有料特急」を運行すると発表した。「中期経営計画 D2プラン」に「新型有料特急」のイメージイラストを掲載している。側面の連続窓やシングルアームパンタグラフ、乗降扉のデザインは現行の「スカイライナー」と共通しているようだが、先頭車の傾斜角は小さく、よく見ると前面に非常口の扉がある。小田急電鉄の60000形・MSEのように、地下鉄直通を考慮したように思える。

  • 成田空港駅発着で運転される「スカイライナー」。一部列車が青砥駅に停車する

押上駅発着の新たな有料特急列車が企画された背景として、成田空港の機能強化によって利用者の拡大が見込めることと、現在、一部の「スカイライナー」で設定している青砥駅停車が成功していることが考えられる。

「スカイライナー」青砥駅停車が定着した

京成上野~成田空港間を結ぶ有料特急「スカイライナー」の青砥駅停車は2020年4月11日から始まり、上下各6本の列車が同駅に臨時停車した。その4日前に新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言が発出され、外出の自粛を要請された。旅客機の運休が増えたことで、「スカイライナー」も空席が増えていた。

青砥駅は京成電鉄の本線と押上線が分岐する駅。押上線は都営浅草線・京急線と相互直通運転を行っている。青砥駅に「スカイライナー」を停車させることで、押上線方面からの新たな需要を獲得できると考えたのだろう。

  • 「スカイライナー」と「新型有料特急」の運行ルート(地理院地図をもとに加工)

成田国際空港(NAA)は2020年4月12日からB滑走路を閉鎖すると発表。これに呼応するように、京成電鉄は5月から「スカイライナー」18往復36本を運休としたが、一方で6月から青砥駅の臨時停車を増やした。2022年2月、それまで臨時停車だった青砥駅を正式な停車駅とし、60分間隔で停車するようにした。これにより、「スカイライナー」は日暮里~空港第2ビル間で「ノンストップ便」と「青砥駅停車便」に分かれた。

2022年11月のダイヤ改正で、「スカイライナー」の「青砥駅停車便」が新鎌ヶ谷駅も停車するようになる。新鎌ヶ谷駅は線路を共用する成田スカイアクセス線と北総線に加え、東武アーバンパークライン(野田線)と京成松戸線(2022年当時は新京成線)が接続する駅。新鎌ヶ谷駅停車により、松戸・柏方面および船橋・津田沼方面からの集客も期待できる。松戸駅や柏駅からJR線経由で成田空港へ行く方法もあるが、少なくとも1回以上は乗換えが必要になる。船橋駅や津田沼駅から成田空港へ行く場合、特急「成田エクスプレス」は停車しないし、成田空港行の快速はグリーン車も含めて全車自由席のため、100%確実に座れるとは限らない。

2024年11月のダイヤ改正で、「スカイライナー」の「青砥駅停車便」は下り10本から12本、上り14本から16本へ増便となった。好調であることは間違いない。

「青砥駅停車便」が「押上駅発着便」になると予想

しかし、ここで問題が生じる。停車駅が増えれば所要時間が延びる。「スカイライナー」を京成上野駅・日暮里駅から利用する乗客にとって、途中の青砥駅と新鎌ヶ谷駅に停車する利点がない。京成電鉄にしても、「青砥駅停車便」はおもに日暮里~青砥間で空席が発生しやすくなる。日暮里~成田空港間と青砥~成田空港間における運賃・料金の差は380円であり、「380円×青砥駅乗車客」の数だけ減収になる。停車駅を増やして乗客を増やし、収入を増やしたものの、それは空席のまま走らせる区間を増やすことでもあり、機会損失になってしまう。

そう考えると、「青砥駅停車便」をいっそ「押上駅発着便」にしたほうがいい。青砥~成田空港間の特急料金より、押上~成田空港間の特急料金を高く設定できれば増収になる。つまり、いままで押上線から青砥駅で「スカイライナー」に乗り換えていた乗客を「押上駅まで迎えに行く」形になる。乗換えが1回減るわけで、乗客も喜ぶのではないか。

京成本線の青砥~京成高砂間は過密ダイヤだし、成田空港付近は単線だから、「スカイライナー」の運行本数増加は見込めない。現行の「スカイライナー」で実施している20分サイクルを崩さないためにも、「青砥駅停車便」をすべて「押上駅発着便」つまり「新型有料特急」とするダイヤが考えられる。

その分、京成上野駅発着の「スカイライナー」は減便になるだろうが、車両を現行の8両編成から長編成化することで、輸送力を確保できるだろう。ちなみに、「スカイライナー」の車両AE形が2010年9月にグッドデザイン賞を受賞した際、8両中6両が電動車という構成について、「将来的に10両編成とするため」と報道資料に記されていた。

あるいは、指定席料金不要の列車として運行されるアクセス特急のダイヤを「新型有料特急」に充てるという考え方もある。しかし、アクセス特急は京急線・都営浅草線・京成線経由で羽田空港と成田空港を結ぶという特徴があり、廃止したくない列車ともいえる。押上駅でアクセス特急と「新型有料特急」を同一ホーム乗換えとする運行形態が理想的といえる。

「新型有料特急」の都営浅草線・京急線への直通は実現するだろうか。かつての「成田空港は国際線、羽田空港は国内線」という時代であれば、両空港間の乗継ぎ需要はあったかもしれない。しかし、いまや地方空港にも国際線が就航し、成田空港も羽田空港も国内線と国際線の両方を扱っている。両空港間を連絡する列車に対する需要は少ないかもしれない。

  • かつて「スカイライナー」で活躍したAE100形。地下鉄直通を見込んで前面扉付きだった

ではなぜ、「新型有料特急」に前面扉があるのか。押上駅が地下駅だからという理由もあるだろうが、羽田空港まで行かずとも都心まで乗り入れたいからではないか。都営浅草線の泉岳寺駅まで乗り入れられれば、日本橋駅や新橋駅など経由できるし、泉岳寺駅は高輪ゲートウェイシティからも近い。高輪ゲートウェイシティは「日本のゲートウェイ」として、国際色豊かなまちづくりが行われている。JR東日本の特急「成田エクスプレス」と競合する区間ではあるものの、泉岳寺駅と成田空港駅を乗換えなしで結ぶ需要はありそうに思える。

泉岳寺駅でホーム拡幅工事の予定もあり、そのときに折返し設備が増設されれば可能性は高まる。「新型有料特急」が入線すれば、東京都交通局にとって初の座席指定列車導入となる。これをきっかけに、「京王ライナー」の都営新宿線内発着が実現する可能性もある。

押上駅発着とする魅力は他にもある

押上駅は観光名所となった東京スカイツリーの最寄り駅でもある。京成グループも「京成リッチモンドホテル東京押上」を構えており、成田空港と直結する価値がある。それも見込んで「スカイライナー」の青砥駅停車を決定したのではないかと考えられる。

押上駅は交通結節点としても価値がある。鉄道は京成押上線と都営浅草線、東武スカイツリーラインと東京メトロ半蔵門線が結集する。東武スカイツリーラインの沿線は成田空港へのアクセスが不便だった。たとえば春日部駅から成田空港へ鉄道で行く場合、押上駅で京成押上線のアクセス特急に乗り換える。あるいは牛田駅で降車し、隣接する京成関屋駅で京成本線に乗り換える方法もある。東武鉄道の「スペーシアX」が牛田駅、京成電鉄の「スカイライナー」が京成関屋駅に臨時停車し、両列車を乗り継ぐツアーが今年7月に予定されているが、イベントならともかく、便利な乗換えとはいえない。やはり押上駅乗換えが便利だろう。

東京メトロ半蔵門線は都心の大手町駅や永田町駅などを経由し、渋谷駅から東急田園都市線と相互直通運転を行っている。東急田園都市線の沿線も成田空港から遠い地域であり、京成電鉄の「新型有料特急」が運行されれば、利用したいと考える層が必ずいると思われる。

現在、東急田園都市線の沿線から成田空港へ行く際、最も便利な交通手段はたまプラーザ駅や二子玉川駅を発着する高速バスで、所要時間は約1時間。しかし都内を横断するため、渋滞に巻き込まれるおそれがある。定時性に優れた鉄道で行く場合、渋谷駅で特急「成田エクスプレス」に乗り換える方法もあるが、旅行鞄を持って地下から高架へ乗り継ぐことになる。押上駅から成田空港へ向かう「新型有料特急」は、新しい選択肢として歓迎されるだろう。

成田空港の機能強化も

本誌記事「新しい成田空港構想 - 新駅設置、JR東日本・京成電鉄を複線化」(2024年7月20日掲載)で紹介したように、成田国際空港(NAA)は国や千葉県、地元市町と学識経験者で構成された検討会による「『新しい成田空港』構想」をとりまとめている。

  • 成田空港は3本目の滑走路を新設し、ターミナルビルを1つに統合する計画を発表。現在の成田空港駅、空港第2ビル駅も移転統合を予定している(地理院地図をもとに加工)

その中で、現在の年間発着回数34万回を40万回、50万回と段階的に引き上げる方針を掲げ、第3滑走路と、既存のターミナルビルを集約した新ターミナルの設置に向けて取組みを始めた。現在、3カ所に分散した旅客ターミナルビルを1カ所に集約し、新しい鉄道駅をターミナルビル直下に設置。京成電鉄とJR東日本の線路を複線化する。

京成電鉄も成田空港の鉄道アクセス向上を図るため、成田空港駅付近の単線を複線化し、成田スカイアクセス線の路線改良、京成高砂駅付近の線路改良など実施する。これらが実現すれば、「スカイライナー」と「新型有料特急」の増発が可能になるだろう。

すでに宗吾車両基地の拡充工事に着手しており、2029年度に新しい車両工場が完成するとのこと。AE形の後継となる次期「スカイライナー」車両も着手するという。

「スカイライナー」の歴史は1972年に落成した初代AE形から始まる。成田空港の開港は1978年だった。押上駅発着の「新型有料特急」は2028年度の予定だから、成田空港開港50周年の節目で登場することになる。一方、「成田エクスプレス」を運行するJR東日本もなんらかの対応があるはず。成田空港アクセス列車の今後の展開に注目したい。