大倉士門が語る、芸能界をマイペースに生き抜く秘訣

音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。表参道でのスカウトをきっかけに読者モデルとなった大倉士門。その後注目を集めると、Popteen誌の「中高生が選ぶ好きなモデル」第1位を獲得。2016年には『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズで映画初出演を果たし、タレントとしても活躍。派手な芸能界をマイペースで生き抜く鍵は「カメ」にあった?

フジテレビ系特番『FNS27時間テレビ』の通し企画「100kmサバイバルマラソン」で、ハリー杉山、ワタリ119とともに三つ巴のデッドヒートを繰り広げ、3着でゴールを果たし大きな話題を集めたのは、タレントの大倉士門。愛煙家でもある彼は、実はこの100キロマラソンにチャレンジしている最中にもタバコは欠かせないアイテムだったという。

「スポーツをやっている人、特に長距離ランナーにとってタバコは禁物とされていますよね? でも今回休憩ポイントが数回あるのですが、他のランナーと同じようにカロリーを摂取しながら、所々でタバコも摂取していました。それによってメンタルも安定するし、『次の10キロも頑張ろう』と思える切り替えの気持ちもとても大事なんです。実際のところ、20人中6人が100キロを完走できて、僕もその1人になりました。なので何を言われようが、これからもマラソンを理由にタバコをやめるつもりは今の所ないと思いますね」

渋谷で美容師に声をかけられ、ヘアカタログのモデルを経験したのを機に雑誌Popteenで読者モデルデビューを果たしたのが今から10年ほど前。同誌の「中高生が選ぶ好きな男性モデル」で1位を獲得したこともある大倉は、2014年3月より芸能事務所に所属。以降、バラエティ番組やテレビドラマ、舞台への出演と多岐にわたる活動を続けている。そんな彼が、幼少期から夢中になっているのがリクガメだ。現在はホウシャガメを3匹、ビルマホシガメを2匹、そしてトウブハコガメの合計6匹を飼育中。いずれも絶滅危惧種に指定された貴重なカメである。

「父親がなぜかリクガメが大好きで、物心ついた時から家にリクガメがいたんです。それを見て、『自分も大きくなったらリクガメを飼いたい』とずっと思っていたし、現在もカメが仕事の原動力になっていますね。その魅力は『癒し』と『程よい手間のかかり具合』、それから『一緒に遊べること』。仕事が終わって家に帰り、次の仕事まで少しでも時間があれば、カメをベランダに出して水浴びさせています。もともと高温多湿の場所に棲む生き物なので、それで大喜びしてくれるんですよ。爬虫類なのに表情豊かで、ご飯を食べているときの表情とかもめちゃくちゃ可愛い(笑)。毎晩寝顔を眺めながら、ゆくゆくは繁殖にも挑戦し、この子たちを僕が次の世代まで残さなきゃという使命さえ感じています」

大倉家のホウシャガメ(写真=本人提供)

カメだけでなく魚も大好きだという大倉。子供の頃は、地元がある京都から車で2時間くらいかけて和歌山の海に毎週通っていた。

「スキューバもシュノーケリングもやるのですが、シュノーケリングは誰にも何にも縛られることなくずっと潜っていられるから特に好きです。旅行に行くと日の出前から潜って、気がついたらあたりが暗くなっていたこともありましたね。海に入って珍しい魚……例えばタテジマキンチャクダイの幼魚なんかを目撃した時の嬉しさって、10代の子たちが大好きな芸能人を街中で遭遇したときのそれと一緒なんじゃないかな(笑)」

生まれも育ちも京都の大倉。現在は地元への貢献活動にも積極的に取り組んでいるが、高校を卒業し18歳で上京するまでは、その魅力が全くわからなかったという。

「神社仏閣もそこらじゅうにあったから、特にありがたみも感じてなかったんですよ。でも東京に来てから『出身地どこ?』と聞かれ、『京都』と答えるたびに『めちゃくちゃいいところだよね』と常に羨ましがられて。そんなリアクションをいただくうちに『あれ、京都っていいとこなんだ』と思い始めたんです。『夏休みに京都行くんだけど、どこかおすすめある?』みたいなことも、先輩方にもしょっちゅう聞かれるし、これは改めて京都を勉強しなければと。そうしたら本当にいい場所だと再認識しました」

奈良や平安の時代からずっと残る、国宝級の神社仏閣一つひとつにストーリーがあり、知れば知るほど人生が豊かになることを知った大倉。保存すべきもの、守るべきものに惹かれるのは、絶滅危惧種のカメに惹かれるのにも通じるのではないだろうか。

「まさに。僕は歴史あるもの、由緒正しい伝統のあるものが大好きなんです。今、車はアルファロメオの現行モデルに乗っているし『一生アルファロメオしか乗らない』と決めているのですが、ホンマに乗りたいのは1970年代、1980年代のモデルなんです。ビンテージは壊れやすいので、仕事で使えないのが難点ですが(笑)」

話を聞いていると、とにかくオフの日を大切にしている様子の大倉。一昨年フリーで活動を開始し、その1年半後に個人事務所を設立した彼は、スケジュールの管理も全て自分次第。そのため「今月はここで海に行こう」とまずオフのスケジュールを決め、それを基に仕事の予定を組むこともあるそうだ。

「趣味があるから仕事を頑張れるというか、オフをいかに充実させるかで仕事の質も上がります。そうやって仕事が充実し忙しくなると、オフの充実度もさらに上がるんです。いい相乗効果ですよね。例えば『この60万円の水槽が欲しい』と思ったら、『じゃあ貯金で買おう』ではなく『これから稼ぐギャラで買おう』と思って『頭のなか貯金』をいつも始めるんですよ。『この5万円の仕事を12回、ちゃんとつなげられたら水槽が買えるから頑張ろう』って。そうすれば貯金を切り崩すこともないし、仕事への意欲も上がるし一石二鳥じゃないですか?」

昨年10月、かねてから交際していたファッションモデルでタレントの「みちょぱ」こと池田美優と結婚したことを発表した大倉。家庭ができて、趣味に費やす時間も変わってきたのだろうか。そのバランスの取り方についても聞いてみた。

「僕たちは本当にお互い忙しく、日中は全く違う時間を過ごしているんです。会えるのは家に帰ってからの2、3時間。なので、必ず一緒に風呂に入ってその日にあったことをお互いに報告し合っていますね。たまたまスケジュールが空いた時は、2人でゴルフへ行くこともありますし、年に4回は必ず時間を作って一緒に旅行にも行っています。お互いの趣味には一切干渉しません。それどころか、僕が泊まりで仕事の時は、彼女がカメの世話もしてくれるんですよ。いつも僕をあたたかく見守ってくれるし、サポートもしてくれる。本当にいいパートナー関係を築けていると思いますね」

今年結婚一周年を迎えた大倉夫妻(写真=本人提供)

個人事務所設立に結婚と、人生のターニングポイントをコロナ禍で一度に迎えた大倉。これから先は、どんな働き方を考えているのだろうか。

「『ここから右肩上がりに仕事を増やし、ゆくゆくはゴールデンでブレイク!』みたいなことは、全く求めていなくて。とにかく今、仕事、趣味、家庭の全てがバランス良く充実している最高に幸せな毎日なので、これをずっと続けていくことが目標です。僕らのようなタレント活動は『現状維持』こそ大変で、ずっと同じことばかりしていたら飽きられてしまう。カメが好きな自分、京都が大好きな自分、みちょぱの夫としての自分と様々な大倉士門を見せて、それでようやく現状維持ができると思うんです」

陸上部に所属していた中学時代、部室の壁に「どうせやるなら日本一」という言葉を飾っていた大倉。「どうせ好きになるなら、とことんまで極めよう」というのが彼の今も変わらぬモットーだという。

「例えばうちにいるホウシャガメは、世界でいちばん美しいと言われているリクガメの中でも日本一美しい子なんです。だから爬虫類展や、見ず知らずのペットショップに足を運んでも『ひょっとして、”あの”大倉さんですか?』と、マニアや専門店の方から声をかけていただけるようになって(笑)。そういう時は、やっぱり発信していて良かったと思いますね」

実は大倉、1年ほど前からInstagramにサブアカウントを開設し、カメや魚など自分の趣味だけを延々と投稿し続けている。現在310名ほどのフォロワーは、爬虫類や魚類のマニアばかり。おそらく彼らのほとんどは、テレビタレントとしての大倉士門を知らないだろう。

「『流行っているから』とか、『みんながやっているから』とかで中途半端に始める趣味ほどつまらないものはないですよね。別に流行っていようがいまいが、人が興味を持とうが持つまいが関係ない。だって、『僕にしか分からない魅力』って、たまらなくないですか? どんなに貴重なリクガメを見せても『あー、可愛いですねー』で話が終わってしまうことばかりなんですけど、だからこそ自分にしか分からない魅力を感じて高揚感が半端ない。シュノーケリングをして珍しい魚に出会えた時は、自分だけの宝物を見つけた感覚というか。僕しか知らないよさ、魅力、気づかないこの宝の輝き、これ以上の人生の充実はないかもしれないですね」

大倉士門

表参道でのスカウトをきっかけに読者モデルとなる。Popteenの「中高生が選ぶ好きなモデル」第1位を獲得。2016年には『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズで映画初出演。ほか出演作に「便利屋エレジー」「トモダチゲーム」シリーズなど。