マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国議会の動向について解説していただきます。
米国の連邦議会が混迷を深めています。10月3日に共和党のマッカーシー下院議長が解任され、その後任が決まっていないからです。マッカーシー前議長は、バイデン大統領や議会民主党との交渉で、継続予算の合意に尽力しました。それにより10月1日に始まった24年度において、予算未成立によるシャットダウン(政府機能の一部停止)は回避されました。
共和党保守強硬派グループ
しかし、大幅な歳出削減を求める下院共和党の保守強硬派グループ、フリーダムコーカスが民主党への妥協に強く反発。マッカーシー前議長の解任動議を提出、これに過半数にわずかに足りない民主党が乗っかったことで、議長は解任されたのでした。
これには伏線がありました。マッカーシー前議長は今年1月に15回の投票の末にようやく過半数の支持を得て就任しました。その際、フリーダムコーカスの支持を取り付けるために、マッカーシー前議長は民主党には譲歩しないことを約束し、また下院議員が1人でも議長の解任を発動できるルール変更を認めたのでした。5月にはデットシーリング(債務上限)を引き上げる法案が成立して連邦政府のデフォルト(債務不履行)が回避されたのですが、そこでもマッカーシー前議長が民主党に歩み寄ったことが批判されていました。
下院議長の不在が続く!?
マッカーシー前議長の解任を受けて、下院共和党のナンバー2であるスカリス院内総務が後任候補に選ばれました。しかし、共和党議員の支持が予想外に少なかったことを受けてスカリス院内総務は翌日に辞退してしまいました。その後に下院議長候補としてスカリス院内総務と競ったジョーダン議員が後任候補に選出されました。
しかし、トランプ前大統領の支持を受けるジョーダン議員はフリーダムコーカスのリーダーの1人であり、民主党も含めた全下院議員の過半数の支持を得るのは難しいでしょう。民主党議員が全員反対しても、共和党議員の反対が4人までなら、過半数に達します。しかし、2度の投票では共和党議員の20人以上が反対しました。下院議長不在の状況がしばらく続くかもしれません。
民主党と非公式に協議!?
民主党のジェフリーズ院内総務(下院民主党のナンバー1)は共和党と非公式に協議を進めていることを明らかにしています。ただし、フリーダムコーカスなど共和党の一部から強い反発が予想されます。仮に、共和党穏健派と民主党が協力して下院議長を選出したとしても、予算を含む様々な交渉において態度を硬化させたフリーダムコーカスが大きな障害となる可能性もありそうです。
議会運営の大きな障害に
下院議長は大統領承継順位で副大統領(=上院議長)に次いで2番目です。米国連邦議会の下院は日本でいえば衆議院に相当します。日本と異なり上院(参議院に相当)に対する「優越」はありません。下院と上院が同一の法案を可決して初めて大統領に送付されます(大統領の署名を得て立法化)。
ただし、合衆国憲法は税制法案など歳入にかかわる法案は全て下院からスタートすると規定しています。そして、下院議長は下院本会議で採決する法案を決定する権限を持っています。つまり、下院議長が不在のままでは法案審議もままなりません。ウクライナ支援など喫緊の課題も宙に浮いたままです。議会が混迷したままだと、継続予算が失効する11月17日が接近するにつれて、再びシャットダウン(政府機能の一部停止)の脅威が高まるかもしれません。