長く暑い夏が終わり、いよいよ秋の行楽シーズンが到来。鉄道旅行に出かける人も多いと思う。そこで今回は、いつもとひと味違う観点から鉄道旅行を提案したい。JR山手線から2時間以内で行ける、さまざまなジャンルの鉄道「日本一」の駅・路線を探すというものだ。
【1】日本一古い歴史を持つ駅は?
最初は、鉄道の歴史にまつわる「日本一」を紹介する。鉄道ファンにとっては簡単な問題かもしれないが、「日本一古い鉄道の起点駅と終点駅」といえば、どこの駅だろうか?
日本で鉄道が最初に走ったのは、1872(明治5)年10月に開業した新橋~横浜間の官営鉄道(現・東海道本線)だから、答えは「新橋駅と横浜駅」ということになりそうだ。
しかし、この鉄道開業時の新橋駅は後に汐留駅という貨物駅になり(1986年に廃止)、現在の新橋駅(1909年に開業した烏森駅を1914年に新橋駅に改称)から東に200mほどずれた位置に存在していた。また、開業時の横浜駅(初代・横浜駅)は現在の桜木町駅である。ということは、「汐留駅と桜木町駅」が日本一古いことになる。
ただし、新橋~横浜間が正式に開業する前、1872(明治5)年6月に品川~横浜間で仮開業している事実を考慮するなら、「汐留駅ではなく品川駅を最古にするべき」という意見もあるだろう。
現在、鉄道開業時の新橋駅(後の汐留駅)の跡には、開業時の駅舎を復元した「旧新橋停車場」という展示室があり、関東大震災で焼失した開業時の新橋駅舎の基礎石積みなどを見学できる。建物の裏手には、「0哩(マイル)標識」などが復元されている。一方、鉄道開業時に横浜駅だった桜木町駅の新南口改札外には、「鉄道創業の地」記念碑が建てられている。
【2】日本一乗降客数の多い駅は?
これも鉄道ファンなら多くの人が知っているだろう。答えは「新宿駅」である。さらに言えば、新宿駅は日本一どころか、世界一としてギネス認定を受けている。新宿駅にはJR東日本の各路線のみならず、小田急電鉄、京王電鉄、東京メトロ(丸ノ内線)、東京都交通局(都営新宿線・大江戸線)の5事業者が乗り入れている。西武新宿駅まで含めれば、西武鉄道も加えた6事業者になる。
ギネスのサイトを見ると、「Busiest station(最も混雑する駅)」というカテゴリーに「SHINJUKU STATION」があり、2018(平成30)年達成の記録として「average of 3,590,000 passengers per day」(1日平均359万人の乗客)と掲載されている。
【3】日本一乗入れ事業者の多い駅は?
では、乗入れ事業者数が最多の駅はどこの駅だろうか。なんとなく多そうなイメージがあるのが名古屋駅だが、同駅に乗り入れているのはJR東海、近畿日本鉄道(近鉄名古屋駅)、名古屋鉄道(名鉄名古屋駅)、名古屋市交通局、名古屋臨海高速鉄道「あおなみ線」の5事業者。新宿駅とタイだ。
これよりも多いのが横浜駅。JR東日本、東急電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道、横浜高速鉄道「みなとみらい線」、横浜市交通局の6事業者が乗り入れており、日本一である。
【4】日本一低所(標高が低い)にホームがある駅は?
次は駅の標高に着目してみよう。日本一標高の高い駅といえば、多くの人がすぐにJR小海線の「野辺山駅」と言い当てるだろう(鋼索線などは除く)。
では、逆に標高が一番低い駅はどこだろうか。こう聞かれて思い浮かぶのは、駅舎と下りホームの高低差が約81mもあり、「日本一のモグラ駅」と称されるJR上越線の土合駅かもしれない。だが、土合駅は高原に位置するため、そもそもの標高が高い。
標高自体が最も低所にあるのは、東京メトロ半蔵門線住吉駅の2番線ホームで、標高はマイナス31mだという(青函トンネル竜飛斜坑線など、特殊なものを除く)。
渋谷駅と押上駅を結ぶ半蔵門線は、水天宮前駅の先で隅田川の下をくぐり、清澄白河駅を出た後、大横川をくぐった先の地中にある東陽幹線下水という下水道を避けるため、深度を下げる。さらに、それまで同じ高さを走っていた上下線が縦2段に分かれる。
住吉駅では、先に開業した都営新宿線と十字にクロスし、都営新宿線ホーム(地下2階)の下に半蔵門線の大手町・渋谷方面の1番線ホーム(地下3階)、その下に押上方面の2番線ホーム(地下4階)がある。このような4層構造になっているため、2番線ホームがかなりの深度になった。
なぜ、住吉駅がこのようなつくりになっているのかというと、将来の有楽町線延伸時にホームを共用するためである。住吉駅の1番線ホーム・2番線ホームはいずれも島式で、現在は両ホームともに片側を留置線用にしている。
同駅付近は、地表の海抜が0mであり、ホーム面までの深さが「31.0m」(『水天宮前・押上間の実施計画 営団地下鉄半蔵門線の延伸』藤沢一夫 千葉貞雄)であることから、この「31.0m」がそのまま住吉駅ホームの標高ということになる。
東京の地下鉄であれば、都営大江戸線のほうが場所によってはもっと地下深くを走っているイメージがある。しかし、都営大江戸線の駅で地上から最も深い場所にある六本木駅の汐留方面ホーム(地上から約42m)は、標高に換算するとマイナス約10mにすぎない。六本木は台地上に位置するので、臨海部に比べるとそもそもの標高が高いのだ。
【5】地上から最も高い位置にホームがある駅
続いて標高ではなく、地上(地表)からの高低差を見ていこう。地上から最も深い場所にホームがある駅は、JR上越線の土合駅である。では逆に、地上から最も高い位置にホームがある駅はどこかといえば、JR埼京線の北戸田駅で20.46mだという。改札口からホームまでの階段が126段もあり、階段には改札口からの段数のステッカーが貼られている。
地上から高い位置にある「天空の駅」としては、長らくJR三江線の宇都井駅が日本一とされ、メディアでも紹介されていた。三江線が2018(平成30)年に廃止され、これにともない北戸田駅が注目されるようになったが、実際には、もともと両駅はほぼ同程度の高さだったはずである。
これと関連してもうひとつ、ホームではなく「改札の高さ」が日本一ではないかと名乗り出ている駅があるので紹介しておこう。神奈川県の大船駅を起点とする湘南モノレールの湘南江の島駅である。同駅は駅ビル5階に改札と乗降用ホームがある珍しい構造で、5階部分の最大地上高は15.7mだという。改札の高さに関しては、他の駅の正確なデータがないので比較できないが、もし、これ以上の高い位置に改札がある駅をご存知であれば、ぜひ教えていただきたい。
【6】日本一の急勾配は?
我が国の鉄道史において、急勾配で有名だった区間といえば、JR信越本線の横川~軽井沢間(1997年廃止)であろう。碓氷(うすい)峠を越える同区間の最急勾配は66.7パーミル(1km進行するごとに66.7m上昇する)であり、1893(明治26)年の横川~軽井沢間開通時から1963(昭和38)年まで、アプト式(歯車と歯形レールを噛み合わせ、坂道を上り下りする方式)鉄道の技術が採用されていた。
現在の鉄道における最急勾配は、鋼索線を除けば大井川鐵道井川線(アプト式)の90パーミルだが、通常の粘着式鉄道に限れば箱根登山鉄道の80パーミルが日本一である。
箱根登山鉄道も当初はアプト式を採用する計画だったが、スイスのベルニナ鉄道を視察した結果、70パーミルの急勾配が20kmも続くにもかかわらず、同鉄道が粘着式を採用していたことを参考にしたという。箱根登山鉄道では、それ以上の勾配となる区間をスイッチバック方式で登坂していることは周知の通りである。