「まさか!」の結果だった。10月7日、東京・大田区総合体育館『3150FIGHT vol.7』で亀田家の三男、元世界2階級制覇王者の亀田和毅(TMK)がフェザー級転向初戦で敗北を喫したのだ。

  • 試合後半、果敢に攻め込んだ亀田和毅(左)だが倒すには至らず。下位ランカーのレラト・ドラミニにスプリット判定で敗れた(写真:3150FIGHT)

レラト・ドラミニ(南アフリカ)に勝利し一気にランキングをアップ、次戦か次々戦でIBF世界王座挑戦、3階級制覇を目論んでいた亀田だったが、すべてが白紙に。熱望していた井上尚弥(大橋)戦も、さらに遠のいてしまった。

■相手を追いつめたのは亀田だったが

「判定に何も言うことはない。自分の負けです。自分は勝ったと思っても、ジャッジがそういう採点なら認めます。終わったことは仕方がない。相手の選手(ドラミニ)には、日本に来て試合をやってくれたことに感謝している」
試合直後にプレスルームを訪れた亀田は、敗北のショックから感情を乱すことなく、落ち着いた口調でそう話した。

両者がフルラウンドを闘い抜き、判定がコールされると観客席から「えっ!」と声が上がり、その後にため息が漏れた。
最終12ラウンドのゴングが打ち鳴らされた時、「亀田が勝った」と思ったファンは多かったことだろう。8ラウンドまでは互いにクリーンヒットを奪えぬ互角の展開。9ラウンドから亀田がスパートをかけ、最終ラウンドはKO寸前にまでドラミニを追い込んでいたからだ。試合全体を観れば、優勢なのは亀田だった。

たとえば総合格闘技『RIZIN』のようにラウンドごとの採点はせず、試合全体を観てジャッジを下すシステムであれば勝者は亀田であったと思う。
だが、ボクシングの判定基準は、そうではない。
ラウンドごとに優劣を決める。ほぼ互角の攻防であったとしても、僅かの差を判断するマストシステム。つまり互角であっても「10-10」ではなく「10-9」でいずれかを優位と定めるのだ。

結果、唯一の日本人ジャッジ染谷路郎は、115-113で亀田を支持した。しかし、2人の米国人ジャッジ(フェルナンド・ヴィラリアル、マイク・フィッツジェラルド)はともに116-112でドラミニ。これは、互いに決め手を欠いた前半から中盤にかけてのラウンドを彼らが「10-9」でドラミニ優位と採点していたからである。
亀田の敗因を挙げるとすれば、まずスパートをかけるのが遅かったこと。9ラウンドからではなく、6、7ラウンドからかけていれば戦況は変わっていたはずだ。
もう一つは、ドラミニが体力を消耗していた最終ラウンドに倒し切れなかったことだろう。追う亀田、逃げるドラミニの展開だった。あの場面で詰められなかったことも悔やまれる。

  • 試合直後、メディアからの質問に対し感情を抑え、冷静な口調で答える亀田和毅。右は所属ジムTMKの金平桂一郎会長(写真:SLAM JAM)

■敗戦翌日に「再起」の誓い

亀田和毅は、この約2年間に不遇を味わった。WBA世界スーパーバンタム級1位にランクされ続けるも、王座挑戦のチャンスを得られず。指名試合という形でWBA&IBF世界同級王者のマーロン・タパレス(フィリピン)に挑めるかと思いきや、それも叶わなかった。WBAは、タパレスとWBC&WBO王者・井上尚弥の「4団体王座統一戦」を優先すると発表。亀田に対しては、前WBA王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と対戦することを求めたのだ。

(井上尚弥と闘いたい)
亀田は、そう願った。
(アフマダリエフに勝てばチャンスが訪れるかも)と一度は考えたことだろう。 しかし、井上は亀田との対戦に、まったく興味を示していない。
(このままスーパーバンタム級にとどまりアフマダリエフに勝利しても、井上と闘うチャンスは訪れない)
そう考え直した亀田は、階級をフェザーに上げた。フェザー級で世界のベルトを腰に巻き、今後、階級を上げてくるであろう井上を王者として待ち構えようとしたのだ。
(そうすれば、井上も自分を無視できなくなる)と。

だが、フェザー級初戦で亀田は自らよりもランキング下位の選手に敗れた。そして言った。
「今日は圧倒的な勝ち方をして、井上チャンピオンとの闘い実現につなげることを最大のモチベーションにしてきた。でも負けてしまった。井上チャンプの名前を出して申し訳なかったと思う。
こんな舞台を用意してもらい、メインエベントで闘わせてもらったのに結果を残せなかったことは、お兄ちゃん(亀田興毅)にも申し訳ない」
この一敗のダメージは大きい。亀田陣営が描いていたプランは白紙になった。
3階級制覇、その先に見据えていた井上尚弥戦も遠のいた形だ。
今後は、どうするのか?
「自分だけのことでもないので(陣営と)話し合い、これから考えたい」
彼は、そう言い残し会場を後にした。

これに対して、和毅の兄であり『3150FIGHT』をプロモートする亀田興毅は、次のように話している。
「和毅は初めて負けたわけじゃない。悲観はしていない。今回は僅差の判定、KOされてボロ負けしたわけではないからランキングは下がるが、それほどでもないと思う。『3150FIGHT』は、「最高」だけではなく「再興」の意味も持つ。一回負けたからと言ってそれで終わりではない。彼が望むならプロモーターとして闘うに相応しい舞台をつくり続けていきたい」

すると翌8日に、和毅はSNSでこう綴った。
「下がれば上がるだけ。倒れれば起き上がるだけ。必ず這い上がります。男は負けて終われない。絶対にやり返します」

  • 「和毅が望むなら、今後も闘いの舞台をつくり支えていきたい」。イベント後にそう話した亀田興毅ファウンダー(写真:3150FIGHT)

3階級制覇も、井上尚弥戦も諦めるつもりはない。可能性がゼロではない限り、和毅は前に進む決意をしたようだ。
来年早々に再起戦を行い、世界ランカー相手に白星を重ねられたなら王座挑戦のチャンスも巡って来よう。

井上は12月にスーパーバンタム級「4団体世界王座統一戦」に挑み、ここで勝利したならば、その後にジョンルリ・カシメロ(フィリピン)、ルイス・ネリ(メキシコ)らを相手に防衛戦を行うとみられる。
階級をフェザーに上げるのはその後だから、まだ時間は十分にある。その間に和毅は勝ち続け何とか世界王座挑戦、そして奪取に辿り着きたい。

現時点で井上と和毅の実力差は明らかだ。それでも泥を噛んで這い上がり和毅がフェザー級で世界王者に昇りつめたならば、「井上家vs.亀田家」の対決は実現されるべきだろう。両者のバックボーンを考えれば、ドラマ性に満ちた構図が浮かび上がる。
果たして、「亀田家の最終兵器」は生き残れるか⁉

▼亀田和毅、フェザー級初戦で敗退「井上尚弥チャンピオンの名前を出して申し訳ない」『3150FIGHT vol.7 〜拳闘士はゲンコツで語る〜』記者会見

文/近藤隆夫