トヨタ自動車の「クラウン」といえば、割と年齢層の高いドライバーさんが運転しているイメージだったのだが、現行型の登場によりユーザーの若年層比率が向上しているらしい。その背景には「日本回帰」の消費者心理があった? 専門家に分析してもらった。
20代以下が3倍超に拡大!
トヨタのクラウンは現行型で16世代目となるロングセラーカーだ。現行型には「クロスオーバー」「スポーツ(SUV)」「セダン」「エステート(ワゴン)」の4つのボディタイプがある。クロスオーバーは2022年9月に発売済み。スポーツは2023年秋ごろ、セダンは同秋~冬、エステートは2024年の発売を予定している。
クラウンの販売状況を確認してみると、クロスオーバーの登場により売れ行きは勢いづいているようだ。日本自動車販売協会連合会の統計によれば、2023年1月~6月のクラウンの累計販売台数は2万3,288台。前年同期比で2.8倍強の伸び率となっている。
興味深いのはクラウン購入者の年齢別構成比に変化があることだ。トヨタによると、40代以下の割合は旧型が6.9%、現行型が11.1%で1.6倍に。20代以下は同0.6%が2%と3倍以上に増えている。もちろん、もともとの数字が少ないので倍率が大きくなっている側面はあるのだが、ユーザー層の若返りに一定程度は成功していると見ることはできそうだ。
かなり単純化していえば、クラウンを選ぶ40代以下の消費者が日本で増えているといえそうな状況なのだが、その理由とは? ニッセイ基礎研究所で消費者行動、心理統計、マーケティングなどを研究する上席研究員の久我尚子さんによれば、コロナ禍以降、日本では「国産ブランドへ回帰する動き」が見られるという。以下、久我さんの見解だ。
「『自分らしさ』を大切にする意識がコロナ禍を経て一層強まっています。当たり前の日常が変わってしまい、テレワークの浸透もあり、生活・人生を見直すきっかけができたことが要因と考えております。キーワードとしては『Well-being』『Sustainability』などが挙げられますが、個人の生活や人生について、その場、その時でしか味わえない希少性に価値を感じていた「トキ消費」から、持続可能な幸福感を大切にする消費傾向に変化しました。自分にとっての本質的な価値を重視する傾向が強まり、例えば付加価値を求める輸入ブランド志向だった人が、本質価値を重視する国産ブランドへ回帰する動きなどが見られます。このような持続可能な価値をもたらす“日本らしさの再解釈”への評価が高まっています」
クラウンについては「デザインをスポーティーに刷新し、新たな世界観の価値訴求の効果も相まって、購入者の若返りが図られているようですね」と久我さん。長い歴史を持つクルマは、どうしても往年のファンがともに年齢を重ねていくので、ユーザー層の平均年齢が上がっていきがちなのだが(それはそれですてきなことだが)、トヨタとしてはクラウンのような看板商品であっても大胆に手を加え、新たなユーザーの獲得を図っている。コロナ禍を経ての消費者動向の変化も追い風となり、そうしたトヨタの戦略が奏功しているのかもしれない。SUVの「クラウン スポーツ」が登場すれば、さらに若年ユーザーが増えるはずだ。