2023年10月からついにスタートするインボイス制度。だがその仕組みは複雑で、対応が進んでいない中小企業・小規模事業者も多いだろう。佐倉商工会議所(千葉県佐倉市)は9月7日、NTT東日本とともにインボイス制度と電子帳簿保存法改正についてセミナーを開催した。

  • 佐倉商工会議所で行われた法改正セミナー

10月1日のスタートが迫るインボイス制度

適格請求書等保存方式、通称“インボイス制度”。2023年10月1日から始まるこの新たな制度は、売り手である登録事業者が、買い手に対して適格請求書 (インボイス)を交付することで、正確な適用税率や消費税額等を伝えるためのもの。

これまで年商1000万円以下の事業者は、免税事業者として消費税の納付義務が免除されていた。だがインボイス制度の施行後は、適格請求書(インボイス)発行事業者に登録することで適格請求書を発行できるようになる。つまり課税事業者になり、消費税を納付するということだ。当然、小規模事業者にとって金銭的負担は大きい。

一方で買い手は、取引先である売り手から交付されたインボイスを保存していなければ、仕入税額控除の適用を受けることができない。そのため、インボイスを発行しない免税事業者との取引はあまり歓迎されないだろう。場合によっては取引の停止もあり得る。

このような事情から、インボイス発行事業者となる小規模事業者には負担軽減措置が用意されている。2023年10月1日から2026年9月末日までの3年間は、売り上げに係わる消費税額から売上税額の8割を差し引いて納付税額を計算する「2割特例」が設けられた。2026年10月1日からはこれが「5割特例」に、そして2029年10月1日からは原則として控除不可となる。また、この他にも「少額特例」を初めとした負担軽減措置が打ち出されている。

金銭負担のみならず事務負担も増大

インボイス制度に対し、小規模事業者からは金銭的な負担はもちろん、事務的な負担を懸念する声も大きい。千葉県佐倉市の佐倉商工会議所には、「原則課税があり、簡易課税があり、2割特例もあって、どれを選べばいいのかわからない」といった質問が相次いでいるという。

そこで佐倉商工会議所がNTT東日本 千葉事業部とともに開催したのが、インボイス制度と改正電子帳簿保存法に焦点を当てた法改正セミナーだ。2022年から続けられている取り組みだが、施行を間近に控え、内容はより具体的な会計ソフトの使い方まで踏み込んでいる。

  • 千葉県佐倉市で地域商工業の発展と育成に携わる佐倉商工会議所

実は古くからの中小企業などは、いまだに会計をデジタル化していない事業者が多い。またすでに使っていても、会計ソフトがオンプレミスでインボイスに対応できない例もある。そのような事業者に対し、インボイス制度と改正電子帳簿保存法を説明しつつ、クラウドに対応したデジタルツールの活用を促し、業務DXとペーパーレス化を実現してもらうことが趣旨と言える。

法改正を業務DXのチャンスと捉える

セミナーの講師を担当したのは、NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 業務DXサービス担当の中村聡子氏。中村氏はインボイス制度における売り手と買い手の対応、そして実際の適格請求書の記載方法について述べ、中小企業で増大する業務負担を明らかにする。

  • NTT東日本 ビジネス開発本部 CXビジネス部 業務DXサービス担当 中村聡子 氏

「インボイス制度がスタートすると、日々の業務に加えて、売り手は適格請求書の作成、買い手はそれが適格請求書か否かを判別するなどの業務が積み重なっていきます。紙のままインボイス制度に突入してしまうと煩雑化は避けられません」(中村氏)

  • インボイス制度における発行側・受取側の対応

ここで中村氏は、電子帳簿保存法 (以下、電帳法)を挙げる。電帳法は、かみ砕いて言うと「国税関係帳簿書類を電子データで保存することを認めた法律」だ。これまで紙による保存が原則だったが、電帳法の改正により、一定の要件を満たせば電子データでの保存が認められるようになった。

「今回の法改正を“帳簿を電子化して、業務効率化できるチャンス”と捉えて、ペーパーレス化や業務DXを推進していただきたいと思います」(中村氏)

  • 電子取引への対応は手作業を減らし業務効率を高める事につながる

電帳法への対応を進めることで、事業者はペーパーレス化を促進できる。これには3つのメリットがあるだろう。ひとつ目は、書類作成や郵送の手間を軽減し業務のスピードアップが図れること。ふたつ目は、印刷代や郵送代、保管代の削減によるコストダウン。三つ目は、電子管理による検索効率の向上と紛失リスク低減がコンプライアンス強化につながることだ。

中村氏は、クラウド会計ソフトのひとつである「freee会計」を利用して、PCやスマートフォンで事務処理を行う様子を実践。電子会計の導入が業務効率化につながる理由を来場者に示す。

  • ブラウザから「freee会計」を使用する様子

  • より身近な方法としてスマホ利用のデモも行われた

クラウド会計ソフトを実機体験

インボイス制度の開始まで残り3カ月を切った。いまから取引先との確認や交渉、社内の整備を行っても、準備はギリギリまでかかることだろう。そんな事業者に向けて、NTT東日本はソリューションや支援体制を用意しているという。

その代業的なソリューションが、バックオフィス効率化サービス「おまかせ はたラクサポート」だ。インボイス制度や電帳法の対応を始め、勤怠管理や給与計算、電子契約などのバックオフィス業務を効率化するものだ。最後に、IT導入補助金の活用についても解説し、中村氏は講演を終えた。

「NTT東日本は、ソリューションの検討から導入後までをトータルでサポートさせていただいてます。『法改正の概要はわかったけど、何から手をつければいいかわからない』『ちょっと費用面が心配で、具体的な話聞きたい』などございましたら、ぜひ我々に話しかけていただければと思います」(中村氏)

  • セミナー終了後、来場者の質問に応じる佐倉商工会議所とNTT東日本

セミナー終了後には、サービスのひとつである「freee会計 for おまかせ はたラクサポート」の使い方が学べる実機体験会も行われ、こちらにも数名の参加者が集った。

  • クラウド会計ソフト「freee会計」の実機体験会

  • 来場者は「freee会計」具体的な使い方を熱心に学んでいた

インボイス制度と電帳法の改正は、中小企業や個人事業主にとって大きな変化だ。佐倉商工会議所では、制度・法改正、主に会計ソフトなどを活用した業務効率化等に関する個別相談会を実施している。9月21日にも業務効率化(DX)セミナーを開催予定。