「キックボクシング42戦無敗」のキャリアを引っ下げプロボクサーとなった那須川天心(帝拳/25歳)の転向2戦目が近づいている。9月18日、東京・有明アリーナ『Prime Video Presents Live Boxing 5』でメキシコのバンタム級王者ルイス・グスマン(27歳)と対戦するのだ。

  • 9・18有明アリーナでプロボクシング転向2戦目に挑む那須川天心(写真:藤村ノゾミ)

このイベントでは、WBA&WBC世界ライトフライ級王者・寺地拳四朗(B.M.B/31歳)とWBO世界スーパーフライ級王者・中谷潤人(M.T/25歳)の防衛戦も行われる。だが注目度においては、那須川天心の試合が2つの世界戦を上回る。転向2戦目、いかなる闘い方で魅せてくれるのか?

■対戦相手の変更は関係ない

「ここまでスパーリングも順調にやれてきて凄く調子がいい。いますぐにでも試合をできるくらいです。ステップもパンチも、やっとボクシングになってきた。この5カ月の間に大きく成長できたとも実感しています」
「今回は倒します! ただ(KO勝ちを)意識すると固くなってしまうので『自然体でやれ』とチームからは言われています。でも自分の心の中では倒し切りたい。試合内容が、今後の注目度にも影響すると思いますから」

関東地方に台風が上陸した9月8日午後、帝拳ジムで公開練習を行う前に、那須川はそう話した。
気負った様子はない。明るく、表情からも自信がうかがえる。
この数日前に、対戦相手が変更された。
相手に決まっていた9戦9勝(7KO)の気鋭、ファン・フローレス(メキシコ/23歳)が新型コロナウィルス感染により体調不良に。そのため代役としてメキシコ王者グスマンが9日に来日した。同じオーソドックスタイプだが、実力上位者と闘うことになる。

グスマンの試合映像を観て研究したか?
公開練習前にメディアからそう問われた那須川は言った。
「(映像は)軽く観ました。肩書き(タイトル)がある選手だし一発もありそう。そこは警戒しますが(対戦相手の変更は)特に問題はないですね。この試合のためだけにトレーニングを重ねているわけではない、先を見据えているので。そのためにも今回は倒し切りたい。相手がどうこうではなく、自分の力をしっかりと発揮することが大事」

  • 9月8日、東京・新宿区にある帝拳ジムで公開練習を行った那須川天心。集まった多くの報道陣の前でシャドーボクシング、ミット打ち、4ラウンドのスパーリングを披露した(写真:SLAM JAM)

  • 公開練習の合間に余裕の表情を見せる那須川天心。右は元WBA世界フェザー&スーパーフェザー級王者でもある粟生隆寛トレーナー(写真:SLAM JAM)

■KOへの強いこだわり

「勝つのは当然」と言わんばかりの自信に満ちたコメントを発した那須川。この5カ月の間に充実した練習ができ、強くなったことを実感しているのだろう。
そして、今回はKOで勝ちたいとの思いも強く抱いているようだ。
4月のボクシングデビュー戦、那須川は日本ランカーの与那覇勇気(真正/32歳)と対戦し判定完勝を収めた。文句なしの内容だと私は思った。
しかし、こんな声も多く聞かれた。
「あれだけ一方的にパンチを当てても倒せないのか」
「パンチが軽い。倒せない選手は魅力がない」

私は、そうは思わない。いろいろなタイプの選手がいて良いと思う。軽量級においては、実力確かな相手にKOの山を築くのは難しい。"モンスター"井上尚弥(WBC&WBO世界スーパーバンタム級王者、大橋/30歳)は特別な存在なのである。
那須川は、持ち味であるスピードを活かし、ラウンドを支配する闘いを続けても良いのではないか。

  • 4月8日、有明アリーナでのデビュー戦で那須川天心(右)は、与那覇勇気を終始圧倒し判定完勝を収めた(写真:藤村ノゾミ)

だが那須川は、そうは考えていないようだ。「倒して勝てるボクサーになりたい」との思いを有している。だから、スピード重視で相手の顔面にパンチを当て続けるだけのボクシングではなく、ヒットポイントを重視して手首を返すパンチの打ち方を習得してきてもいる。
公開練習では、格上であるメキシコ人ボクサー2人と各2ラウンドのスパーリングを行った。相手は世界戦経験豊富なイスラエル・ゴンサレス(WBC世界スーパーフライ級10位/26歳)とリカルド・エスピノサ(WBOユース・スーパーバンタム級王者/25歳)。 スピードのあるジャブで相手を翻弄しようとするのではなく、懐に飛び込み果敢に打ち合っていた。

そんな那須川は言う。
「倒しに行きますよ。このスタイルでボクシングをやっていくという方向性をみんなに見せたい」
これが彼にとっての今回の闘いのテーマだ。
倒し切る闘いができるのか?
パンチの打ち方を変え、そこに俊敏なステップを利したスピードを融合。さらに打ち込むタイミングにも磨きをかけた神童が、グスマン戦で新たなスタイルの確立に挑む。
闘いの刻が待ち遠しい─。

文/近藤隆夫